04
「だ、駄目だ……鳥越先輩は駄目だ……」
「ま、まあまあ」
あ、彼の目の前で木戸ちゃんや三島ちゃん、更に言えば私にも物凄くくっついた結果がこれだった。
まあでも、あれじゃ「男の子には微塵も興味がないよ?」と直接言われているのと同じかもしれない。
「でも、凪に年上の友達ができたということは嬉しいことかな」
「はいはい、こういうときでも他の人のことを考えてしまうんだね」
「僕だからね」
いい顔をしているなあ。
私としては少し気になるから後で一人でいって先輩に本当のところを聞ききたいと思う。
お昼休みなんかは大好きな木戸ちゃんと過ごしたいだろうから十分休みに時間を貰うのがいいかな。
木戸ちゃんのときのようにあっさりと教えてくれそうな感じもするし、意外と「んーどうだろうね」と躱してきそうな感じもする。
無理そうならしつこく粘らずに諦めて戻ってこようと決めた。
授業中は板書をしながらも考え事をすることが増えた。
何故廊下でだけ吸い込まれそうになるのか、トビー君はなんで時間が経過する度にもふもふになるのか、咲玖君は次の人を探すのかな、などなど。
本当なら授業に集中しなければならないのにどんどんと出てきてしまって困っている。
「いまは一人か、よし」
年上ばかりがいる教室に入っていくのは少し勇気がいることだけど頼んで呼んでもらうよりはこの方が楽でよかった。
「あら、これは珍しいことが起きたね」
「鳥越先輩に聞きたいことがありまして」
「いいよ、廊下にいこうか」
なんか自分から来てくれたときと違ってまとっている雰囲気が違う気がする。
これはあれか、求めている子じゃなくて私だったからか。
「もしかして横尾君って私に興味を持ってくれたのかな」
「連れていってくれと頼まれたんです」
「そっかー興味を持ってもらえるのは嬉しいけど私、女の子が大好きすぎるんだよね」
「そうですか、本当のところを教えてくれてありがとうございます」
ああ、いまので知りたいことを知ることができたから終わってしまった。
これなら教室で話せばよかったかな、わざわざ廊下に出てきてもらった分、これで終わりとは言いづらい。
「それよりさー後輩ちゃん」
「はい?」
「こういうこと増やしてよ」
「え、あ、鳥越先輩のところにいけばいいということですよね」
私のときだけ「後輩ちゃん」呼びの時点で本当に求めているのかな――とまで考えて、一人でそういうことかと納得した。
「そそ、だって初めてじゃん、普通はもっと来てほしいじゃん」
「はは、分かりました、なんとか木戸ちゃんも連れてきますよ」
多分あの子なら「仕方がないから付き合ってあげる」と言ってくれるはずだ。
それで私は二人、もしくは三島ちゃんも加わった三人の輪を少し遠いところから見られればいい。
「なんで?」
「なんでって……」
そんなの先輩が興味を持っているのはあの子だからとしか言いようがない。
なんでここで分からないふりをするのだろうか。
「ああ、貰うという発言を重く捉えすぎちゃっているのかな?」
「ち、違うんですか?」
「後輩ちゃんが三島ちゃんと一緒にいるなら木戸ちゃんぐらいしか年下で話せる女の子がいなかったからだよ、これは本人にもちゃんと教えてあるから大丈夫だよ。私としては意外と後輩ちゃん一人でいる時間が多いから来てもらいたかっただけかな」
んー女の子好きーなのは分かったけど私でいいのかな。
こうして求めてくれるなら合わせるものの、顔を合わせる度に「本当はもっと違う子と過ごしたいですよね?」とぶつけてしまいたくなる。
「お昼休みは木戸ちゃんと過ごすと思ったので十分休みに時間を貰おうとしたんです」
「なるほどね、じゃあ今日は一緒にお昼ご飯を食べよう
「分かりました」
これも結局は対三島ちゃんのときと同じで来てくれているなら素直に甘えようというやつだ。
でも、お昼休みになったら後輩組が勢揃いすることになった、ぐらいでいい。
なんならやっぱり三人が盛り上がっているところを見たいからそうであってほしかった、のに……。
「あれ、鳥越先輩風の冗談じゃなかったんですか? 本当に二人きりですけど」
「そりゃそうだよ、だって私は後輩ちゃんとしか約束をしていなかったからね」
「た、食べましょうか」
「だね」
前のあれを見ればそれこそ咲玖君ばりに露骨だったんだけどなあ。
それなのにいまはこっちを優先してくれている、なんか申し訳ないぐらい。
「あのね、木戸ちゃんはツンツンしなくなって私的には刺激が足りないんだよ」
「えぇ、そんな理由で離れるんですか?」
それに刺激が足りないということなら私のときはもっと酷いことになってしまう。
先輩はなんのために私といてくれているのか、冷静になって振り返ってみたら「なにをしていたんだろう……」となりかねない。
「それにあの子、ふふ」
「え?」
「見ていれば分かるでしょ?」
きゅ、急にどうした、出さないようにしているだけで三島ちゃん好きーだとか?
なにも違和感はないからここで隠そうとすることがよく分からなかった。
「後輩ちゃんこれ持って」
「え――」
「今日はこのまま後輩ちゃんの家に泊まらせてもらうからよろしくね」
って、たった一泊するだけでなんでこんな大荷物なのか。
別に意地悪をしているわけじゃなくて先輩自身もこれ以上の荷物を持っているから文句も言いづらい。
「これは必要なことなんだよ」
「は、はあ」
「呼びたければ三島ちゃんや木戸ちゃん、横尾君だって呼んでくれたらいいよ」
「いえ、来てくれたら歓迎しますけどそうじゃない内はいいですよ」
暗い理由からここに来ているのならトビー君が癒やして――あれ?
「はははっ、物凄く警戒されているね私!」
三島ちゃんにあっさりと懐いた子がこんな態度を取るなんて……それこそ露骨すぎる。
最初のときなんて全く暴れなかったくせに先輩のところに連れていこうとすると暴れる彼、なにがそんなに違うんだ……。
「可哀想だからいいよ」
「す、すみません」
「いやいや、普通飼い猫って他所の人間にはこんな感じじゃない? それとも、他の子には違ったのかな?」
「は、はい……」
大人だ、私だったら自分だけが避けられていることを知ったらショックを受け……るかな? 先輩みたいに「まあこれが自然か」と考えるだけかも。
「そっか。だけど誤解しないでね? 動物を苛めたりする人間とかじゃないから」
「疑っていませんよ、鳥越先輩はいまも変わらずにいい人です」
「いい人、ねえ」
あれ、なんか途端にこっちを見る目が厳しいものになった。
彼が近くにいないのをまるで好都合とばかりにこの前みたいにソファに押し倒してくる先輩がいる。
「こういうことが多くてもいい人だって言える?」
「こ、この点以外はいい人だと――」
ちっかあ、なんとか頑張って顔を見ないようにしたいけどそれもできない、余裕がない。
「あの、よく私にこんなことができますね?」
「もしかして後輩ちゃんって自己評価が低いタイプ?」
「いえ、そんなことはないですけど」
「そういうところも可愛いけどさー」
あ、咲玖君じゃないけど先輩は駄目だ。
こう、悪い人にも引っ張られてしまいそうで駄目だ。
「はぁ……よく木戸ちゃんや三島ちゃんを見た後に私にこんなことができますね」
「後輩ちゃんだからこそかな」
体を起こそうとしたら普通にどいてくれた。
これからは「〇〇してください」と頼むよりもこうして行動してしまった方が早そうだ。
あと今日は早くご飯を食べたい気分だったので作って二人で食べてしまうことにする。
「ねえ、これって横尾君だけじゃなくてあの二人も食べちゃっていたりする?」
「いえ、咲玖君以外には食べてもらったことがないです」
「じゃあ女の子組なら私が初めてか、いいね」
どうしたって普通の域は出ないから食料達はよくても私のそれはあんまりよくないと思う。
この前の三島ちゃん作のご飯は美味しかった、あの咲玖君の目がキラキラしていたぐらいだ。
「あーどこかの後輩ちゃんに手作りお弁当を作ってもらいたいなー真っすぐに『やりますよ』と言ってくれる子はいないかなー」
「鳥越先輩って冷たくされたいんじゃ?」
「いやいや、流石に冷たいだけじゃ無理だよ」
お弁当か、それぐらいなら作ってあげてもいい。
それで「こんなレベルか」と今度こそ呆れて他の子に求めてくれるのが一番だ、と考えて相手をさせてもらっているのになんでかそっちに傾いてくれない変な時間が続いている。
「それなら一回だけお試しで作ってみますね、気に入らなかったら木戸ちゃんに勇気を出して頼んでみてください」
「やったっ、これで頑張れるぞー」
くく、なんだかんだで勇気を出せずに変な遠慮をしていたのは先輩の方なんだ。
年上でも、たまに大人の対応をしてくれてもこうやって人らしいところを見せてくれて安心する。
私的には先輩みたいな人がいいかな。
「おっと? 飼い猫君の様子が……?」
「鳥越先輩の足の上に飛び乗って――丸まりましたね」
「さっきのはなんだったんだろう?」
普通の飼い猫らしいところを見せてくれただけなのかもしれない。
「ああでも、ツンツンしている子がこうして甘えてくれるのって最高ー!」
「なにを言っているんですか? ほら早く食べてください」
「っと? 後輩ちゃんにも反抗期がきちゃったのかな? そ・れ・と・もー私に気に入られようと頑張っている感じかな?」
うぅ、ここで「気に入られようとしているんでしょ」と言い切ってくれればいいのにこの人ときたら……。
いやまあ、意識して変えた結果での自爆だから悪いのは全て私だけどさ……。
「……すみません、これ以上は無理です」
「はははっ、可愛いなーもう!」
可愛いとか言っている場合じゃない。
冬なのに暖房がいらないぐらいには熱くなって一人でやられていた。
先輩だけが一人楽しそうに笑っていた。




