第5話 門前のA級魔獣
リーベルの町が見えたのは、昼を少し回った頃だった。
街道の先に石造りの外壁が伸び、その向こうから赤や茶色の屋根が覗いている。壁の高さは五、六メートルほどだろうか。遠目にも門を出入りする荷馬車や人影が見えた。
ようやく人の暮らす場所まで来た。
普通なら、それだけで少し安心していい場面だ。
だが、俺たちの場合はそうもいかない。
「ここで止まろう」
街道から少し外れた林の手前で声をかける。
荷車を押していたエルドが振り返った。
「まだ門までは結構あるぞ」
「岳をこのまま連れていったら、まずいんですよね?」
俺の横を歩いていた岳も町を見る。
昨日までオオタカだったとは思えないほど、四本脚での歩行は安定していた。ただ、左翼の傷はまだ治っていない。俺が飛ぶなと言っていることもあって、ここまで一度も翼は使わせていない。
エルドは町と岳を見比べた。
「まずい。確実にな」
「なら先に事情を説明してきてください。俺と岳はここで待ちます」
「お前一人残るのか?」
「一人じゃありません」
『当然だ』
岳の意思が返ってくる。
頭上の枝では蒼冠鷹が羽を整えていた。
三人と別れてからも、結局ずっとついてきている。
エルドは苦笑した。
「そうだったな。そこらの冒険者五人より物騒な相棒がいる」
『五人で俺に勝てるのか』
「張り合うな」
俺が答えると、エルドがまた妙な顔をする。
「それ、まだ慣れんな」
「俺も昨日からです」
「昨日?」
「いえ、こっちの話です」
危ない。
今のところ、異世界から来たことまでは話していない。
信用できないと決めつけているわけではないが、俺自身この世界の常識をほとんど知らない。異世界人が珍しいのか、それとも存在そのものを知られていないのかすら分からない状態で、何でも話す必要はなかった。
セラは荷車の荷台に腰を下ろしたまま、包帯を巻いた右脚を見た。
「私はこのまま門まで行けるよ。昨日より痛みも減ってる」
「歩かないでください。傷口が開きます」
「分かってるって」
そう言いながら笑う。
顔色も悪くない。熱もなさそうだ。
夜の間に感染が進んでいないのは幸いだった。
フィンが荷車の横から顔を出す。
「じゃあ俺たちが先に門まで行って、衛兵に説明してくる。エルドの顔なら分かる奴もいるだろ」
「お前の顔もな」
「俺はまだ登録して二年だぞ」
「門番に二回怒られてるだろ」
「それで覚えられてるのは嫌だな……」
どうやらフィンは何かやらかしたことがあるらしい。
エルドが俺を見る。
「話を通したら戻る。勝手に門へ近づくなよ」
「分かりました」
「特に岳を動かすな」
『命令される筋合いはない』
「岳」
『お前が待つなら俺も待つ』
「最初からそう言ってくれ」
岳は鼻先を上げた。
相変わらず気取っている。
三人が荷車とともに街道を進み始める。
俺はその背中が門へ近づいていくのを見送った。
◇
待っている間に、岳の傷を確認した。
羽毛をそっとかき分ける。
昨日より出血はない。
傷口も大きく開いてはいないが、周辺に少し熱を持っている。
「痛むか?」
『動かせばな』
「やっぱり今日も飛行禁止」
『町までなら飛べる』
「飛べるかどうかじゃなくて、悪化させるなって話だ」
『分かっている』
素直に翼を畳む。
そこへ蒼冠鷹が枝から降りてきた。
俺の左腕に止まりかけて、岳を見る。
岳も見る。
『そこは重い』
「お前が言うのか」
蒼冠鷹は気にせず腕へ降りた。
革手袋越しでもずしりと重い。
こいつが何キロあるのか一度ちゃんと測りたいところだ。
『町、嫌い』
「行ったことあるのか?」
『近づいたことはある。人間、多い。音、多い』
「お前は無理に来なくていいぞ」
『隼人が行く』
「俺は行くけど」
『なら行く』
即答だった。
《猛禽寵愛》。
効果そのものは分かりやすいが、どこまで強制的なものなのかはまだ判断できない。
こいつ自身が俺のそばにいたいと思っているのか、それともスキルによってそう思わされているのか。
もし後者なら、少し気になる。
「お前、本当に自分の意思でついてきてるのか?」
蒼冠鷹が首を傾ける。
『自分の意思?』
「俺から離れようと思えば離れられる?」
『離れられる』
そう言って、蒼冠鷹は俺の腕から飛び立った。
上空を一周する。
そのまま森の奥へ飛び去るかと思ったが、数十秒もしないうちに戻ってきた。
今度は近くの木の枝へ止まる。
『戻った』
「……そういう意味じゃないんだけどな」
『隼人の近くがいい』
少なくとも、拘束されているわけではなさそうだ。
俺が勝手に納得していると、岳がこちらを見る。
『俺には聞かなかったな』
「お前はスキルを手に入れる前から一緒にいただろ」
『そうだ』
それだけで満足したらしい。
胸を張る。
本当に分かりやすい。
◇
門の方角が騒がしくなったのは、それから二十分ほど経った頃だった。
金属を打つ音。
続いて、低い鐘が二度鳴る。
「……嫌な音だな」
『武器を持った人間が来る』
岳が先に言った。
俺にもすぐ見えた。
街道をこちらへ向かってくる十人ほどの集団。
先頭にはエルド。
その横に、兜と胸甲を身につけた大柄な男がいる。
後ろには槍を持った兵士が八人。
「説明はしたみたいだけど、完全には信用されてないな」
『当然だ』
「お前が言うな」
『俺なら知らないグリフォンが町の前にいれば警戒する』
「そこは冷静なんだな」
『俺は常に冷静だ』
昨夜、蒼冠鷹が俺の腕へ止まった時に尾で地面を叩いていた奴の台詞とは思えない。
兵士たちは百メートルほど手前で足を止めた。
槍の穂先がこちらへ向く。
岳の身体に力が入った。
「岳」
『分かっている』
声は静かだった。
俺より先に動くつもりはない。
エルドと大柄な男だけが前へ出る。
男は四十代くらい。
日に焼けた顔に短い髭があり、腰には幅広の剣を提げている。
「お前が隼人か」
「はい」
「リーベル西門守備隊長、ガレスだ」
「神代隼人です」
俺が頭を下げても、ガレスの視線は岳から外れない。
「エルドから事情は聞いた。鎌尾豹の群れから三人を助け、そのグリフォンも人間を襲わなかったと」
「岳です」
「……名前まであるのか」
「あります」
ガレスが小さく息を吐いた。
「確認する。その個体はお前が使役しているのか?」
「使役という言葉が、命令に逆らえないという意味なら違います」
「では何だ」
「相棒です」
ガレスの眉間に皺が寄った。
エルドが横で苦笑する。
「俺も同じことを聞いた。こいつはずっとそう答える」
「言い方を変える必要がないので」
ガレスは俺を見る。
「人を襲わない保証は?」
「俺から人を襲わせることはありません。ただ、岳が襲われた場合まで無抵抗でいろとは言いません」
ここを曖昧にする気はない。
町へ入りたいからといって、岳だけに危険を押しつけるつもりもなかった。
後ろの兵士たちが少しざわつく。
ガレスは逆に表情を変えなかった。
「正直だな」
「できない約束をしても意味がありません」
「それはそうだ」
ガレスが岳へ向き直る。
「お前の言葉を理解するというのも本当か?」
「はい」
「証明できるか」
俺は岳を見る。
「岳。三歩下がって座ってくれ」
『見世物ではないぞ』
「分かってる。町に入るためだ」
岳は一瞬だけガレスを見る。
それから三歩きっちり後ろへ下がり、腰を落とした。
獅子の後ろ脚を畳み、前脚を揃える。
兵士たちの間から息を呑む音が聞こえた。
ガレスの眉が上がる。
「今度は立たせろ」
「岳」
『注文が多い男だ』
「我慢してくれ」
岳が立つ。
「右を向いて」
向く。
「戻って」
戻る。
ガレスが腕を組んだ。
「少なくとも、お前の言葉を理解しているのは認める」
『最初からそう言っている』
「聞こえてないからな」
思わず答えると、ガレスの視線が鋭くなる。
「今、グリフォンと会話したのか?」
「はい」
「何と言った」
「最初から理解していると言っている、と」
沈黙。
ガレスが岳を見る。
岳は堂々としている。
「魔獣との意思疎通……テイマーの技能でもそこまでは珍しいな」
この世界にも、魔獣を扱う職業はあるらしい。
今は深掘りしない。
「それと、もう一つ」
ガレスが俺の左側を見る。
蒼冠鷹は少し離れた枝へ移っていた。
「あれもお前の従魔か?」
「違います。昨日、森で会ったばかりです」
「……昨日?」
「はい」
「蒼冠鷹に?」
「はい」
「森で会って、翌日にはお前の後をついてきている?」
「そうなります」
ガレスの顔が初めて大きく崩れた。
エルドが肩をすくめる。
「俺たちも説明してて嫌になった。全部本当だ」
「蒼冠鷹は人間に馴れんぞ」
「セラさんにもそう聞きました」
「聞きましたじゃない」
俺に言われても困る。
蒼冠鷹が枝から飛び、当然のように俺の左腕へ降りた。
兵士たちが一斉に槍を構える。
「動くな!」
「待ってください!」
俺が右手を上げる。
「こいつは攻撃しません」
『槍、嫌い』
「俺も今は嫌いだ」
蒼冠鷹は羽を膨らませたものの、飛びかかろうとはしない。
ガレスが後ろへ片手を上げた。
「槍を下げろ」
「隊長、しかし」
「襲う気なら、とっくにやっている」
兵士たちは渋々穂先を下げる。
ガレスはしばらく俺たちを眺めた。
それから、重く息を吐いた。
「お前を町へ入れる」
「岳もですか?」
「そこが問題だ」
やはり簡単にはいかないらしい。
「A級指定魔獣を、そのまま市街地へ歩かせる許可は俺の権限だけでは出せん。住民が混乱する」
「それは理解できます」
「だが、町の外へ置いておけば済むとも思っていない」
少し意外だった。
ガレスは岳を見る。
「野放しのグリフォンが町のすぐ外にいると知られれば、それはそれで騒ぎになる」
「確かに」
「西門の外に、軍用獣や大型荷獣を一時的に留める囲いがある。まずはそこを使え。壁と柵がある」
『檻か』
岳の目が細くなった。
「待ってください。それは閉じ込める場所ですか?」
「いや。逃走防止用の柵はあるが、上は開いている。グリフォンならその気になれば出られる」
「なら意味がないのでは?」
「兵士と町民に『管理されている場所にいる』と示す意味がある」
なるほど。
物理的に岳を拘束するためではなく、人間側を安心させるためか。
「岳。どうする?」
『お前は町へ入るのか』
「ああ。冒険者ギルドで身分証を作れって言われてる」
『なら行け』
「お前は?」
『そこで待つ』
「いいのか?」
岳はガレスが示した方角を見る。
『空が開いているなら問題ない。嫌なら出る』
「勝手に出るなよ」
『襲われなければな』
「それで頼む」
ガレスが俺たちのやり取りを見ていた。
「話がまとまったのか?」
「岳も了承しました」
「……本当に会話してるんだな」
「そう言ってるでしょう」
「頭で理解するのと、目の前で見るのは違う」
それもそうか。
◇
西門の外にある囲いは、想像していたより広かった。
柵の中には大型の牛に似た荷獣が二頭いたが、岳を見た瞬間に奥まで逃げてしまった。
「同じ場所は無理だな」
ガレスが頭を掻く。
「別の区画を開けろ」
兵士が隣の柵を開ける。
岳は俺と一緒に中へ入り、周囲を確認した。
地面は土。
水桶がある。
日陰になる屋根も一部だけ付いている。
広さも岳が身体を伸ばすには十分だった。
「水は交換してもらえるそうだ。俺が戻るまでここにいてくれ」
『分かった』
「知らない奴から餌を渡されても食うなよ」
『子供扱いするな』
「念のためだ」
『お前こそ妙なものを食べるな』
「俺まで言われるのか」
『昨日、知らない獣を解体していただろう』
「食ってない」
岳の嘴がわずかに開く。
『分かっている』
二枚目を気取っているくせに、たまにこうして返してくる。
俺は岳の首元を軽く撫でた。
「すぐ戻る」
『急がなくていい。必要なものを調べてこい』
「分かった」
俺が柵から出ると、蒼冠鷹まで入ろうとした。
「お前はどうする?」
『隼人と行く』
「町の中だぞ」
『行く』
ガレスが渋い顔をする。
「それも連れて入るのか」
「本人が行くと言ってます」
「本人……」
頭を抱えそうな顔をされた。
ただ、蒼冠鷹そのものはグリフォンほど危険視されていないらしい。
「暴れさせるな」
「努力します」
『暴れない』
「だそうです」
「俺には聞こえん」
「そうでした」
◇
リーベルの西門をくぐった瞬間、匂いが変わった。
土と草の匂いに、人の生活の匂いが混ざる。
焼いた肉。
パン。
家畜。
煙。
どこかで革を鞣しているのか、鼻につく臭いもある。
道は踏み固められ、両側に石と木を組み合わせた建物が並んでいた。
服装も様々だ。
革鎧の男。
籠を抱えた女。
大きな斧を背負った人間。
耳の長い人までいる。
そこまでは何とか受け入れられた。
問題は向こうだ。
毛の生えた獣の耳を頭に持つ少女が、普通にパンを買っている。
「……本当に異世界だな」
小さく呟く。
森でグリフォンや魔獣を見た時点で分かっていたはずなのに、人間の町へ入ったことで妙に実感が増した。
そして俺も、かなり目立っている。
原因は分かっている。
左腕の蒼冠鷹だ。
「蒼冠鷹じゃないか?」
「何で腕に乗ってるんだ?」
「テイマー?」
「いや、蒼冠鷹は従魔にできないだろ」
通り過ぎる人々が振り返る。
「岳を連れてなくてこれか……」
『岳、いない』
「町の外で待ってる」
『分かってる』
「なら何で言った」
『俺がいる』
蒼冠鷹が胸を張る。
「お前も結構自信家だな」
猛禽というのは、みんなこんな性格なんだろうか。
エルドが前を歩きながら笑う。
「岳ほどじゃないが、十分目立ってるな」
「これでも減らしたんですけどね」
「A級グリフォンを外に置いてきて『減らした』って言える奴は、この町にお前だけだ」
言われてみればそうだ。
セラは町へ入ってすぐ治療院へ向かった。
フィンが付き添っている。
俺はエルドと二人で冒険者ギルドへ向かうことになった。
「そこだ」
エルドが顎で示す。
三階建ての大きな建物。
入口の上には、剣と杖を交差させた紋章が掲げられている。
扉を開けると、中は思ったより広かった。
右側に長い受付。
左にはいくつものテーブル。
壁一面には紙が貼られた大きな掲示板がある。
昼過ぎだからか、冒険者らしき人間も二十人ほどいた。
俺たちが入った瞬間。
視線が集まった。
正確には、俺ではなく左腕に。
「おい……」
「蒼冠鷹?」
「誰だ、あいつ」
やっぱりこうなるらしい。
俺は小さく息を吐いた。
「慣れるしかないか」
『私は何も悪くない』
「俺も悪いとは言ってない」
エルドが受付の一つへ向かう。
中にいたのは三十歳前後に見える女性だった。茶色い髪を後ろでまとめ、手元の書類を整理している。
「ミラ。ちょっといいか」
「エルド? 戻ったのね。セラは――」
そこまで言って、女性の視線が俺へ動いた。
そして蒼冠鷹で止まる。
「……何、それ」
「それを説明しに来た」
「鳥なのは分かるわよ」
「蒼冠鷹だ」
「見れば分かる!」
受付嬢――ミラが声を抑えながら身を乗り出す。
「どうして人の腕に乗ってるの?」
「懐かれました」
俺が答える。
ミラがこちらを見る。
「あなたが?」
「はい」
「蒼冠鷹に?」
「はい」
「どうやって?」
「特に何もしてません」
沈黙。
エルドが俺の肩を叩く。
「俺も同じ反応をした。諦めろ」
「何を諦めるのよ」
「理解することをだ」
ひどい言われようだ。
ミラは額へ指を当てた。
「それで、この人は?」
「隼人。俺たちを助けてくれた。冒険者登録をしたいそうだ」
「登録ね。それなら――」
「まだある」
エルドが続ける。
ミラが嫌そうな顔をする。
「何?」
「町の外にグリフォンを待たせてる」
受付の周囲から音が消えた。
ミラの口がゆっくり開く。
「……今、何て言った?」
「グリフォン」
「聞こえたわよ!」
ギルド内の冒険者たちまでこちらを見る。
「何でグリフォンが町の外にいるの!?」
「隼人の相棒だ」
「相棒?」
ミラが俺を見る。
「A級指定魔獣のグリフォンが?」
「岳といいます」
「名前の問題じゃない!」
もっともな指摘だった。
エルドが笑いを堪えている。
俺は受付の前へ進む。
「事情が長くなりそうなので、先に登録だけできますか?」
ミラはしばらく俺を見つめていた。
それから、大きく息を吐く。
「……分かったわ。身分証は?」
「ありません」
「出身地は?」
一瞬考える。
「かなり遠い場所です」
「国は?」
「説明しても分からないと思います」
ミラの目が細くなる。
ここは誤魔化しきれないかもしれない。
だが、彼女は追及しなかった。
「事情ありね。珍しくはないわ。犯罪歴の照会と登録用の魔道具に問題が出なければ、最低位から登録できる」
カウンターの下から、透明な板と銀色の小さな金属板が取り出された。
「ここへ手を置いて」
「これで何が分かるんですか?」
「名前、種族、それから本人が持つ技能の一部。全部が表示されるわけじゃないし、本人が強く秘匿したい能力は出ないこともある」
なるほど。
ステータスそのものを丸裸にされるわけではないらしい。
俺は右手を透明な板へ置く。
淡い光が走った。
銀色の板にも文字が浮かんでいく。
ミラがそれを見る。
「神代隼人。二十三歳。人間……ここまでは普通ね」
その目が次の行で止まった。
「《山野生存》……《狩猟》……《解体》……かなり高い。あなた、本当に何をしてた人なの?」
「山で育ちました」
「山で育っただけでこの評価にはならないと思うけど……」
さらに視線が下がる。
ミラの表情が消えた。
「……《猛禽寵愛》?」
俺も板を覗く。
そこには、はっきり表示されていた。
《固有技能 猛禽寵愛》
ミラがゆっくり顔を上げる。
「隼人」
「はい」
「これ、見たことがない技能なんだけど」
「俺も昨日知りました」
「昨日?」
しまった。
また口が滑った。
ミラが何か言う前に、ギルドの入口が勢いよく開いた。
「ミラ!」
兵士が一人、息を切らして飛び込んでくる。
「西門の外でロック鳥が降りた!」
ざわめきが一瞬で消える。
エルドの顔色まで変わった。
「ロック鳥?」
「でかい個体だ! グリフォンの囲いのすぐそばにいる!」
俺は嫌な予感がして左腕を見る。
蒼冠鷹もこちらを見る。
『来た』
「何が?」
『隼人に会いに』
俺は目を閉じたくなった。
まだ冒険者登録すら終わっていない。
なのに、どうやら《猛禽寵愛》の方は、こっちの都合なんて待ってくれないらしい。




