第27話 地図の向こう側へ
東の盆地へ向かう準備は、日の出前に終わらせた。
これまでで一番遠い場所まで飛ぶとはいえ、荷物を増やしすぎれば岳の負担になる。水と保存食、火起こしの道具、毛布、救急用品、予備の縄、それにギルドから預かった地図と東側の調査隊へ渡す封筒だけを選び、騎乗具の左右へ重さが偏らないよう分けて固定した。
「岳、違和感ないか?」
『ない。この程度なら軽い』
「今日は距離があるから、軽いくらいでちょうどいい」
『途中で塔へ降りるのだろう』
「ああ。そこで一度休む。帰りも必要なら寄るつもりだ」
岳はそれ以上何も言わず、翼を一度大きく広げた。
瑠璃は小屋の屋根に取り付けた横木からこちらを見ている。
「瑠璃も今日は長くなるぞ。俺たちの近くで地面を見てくれればいい。銀嶺みたいに遠くまで先行する必要はないからな」
『分かった。道を見る』
「頼む」
銀嶺は高原へ戻ったままだ。
遠距離偵察に向いたあいつがいれば便利なのは間違いないが、必要だからと呼びつけられる相手ではない。会えば力を借りることもある。それでも銀嶺には銀嶺の群れと暮らしがある。
今日は岳と瑠璃、それに俺で行く。
「出るぞ」
『行こう』
岳の背へ跨がり、安全帯を締める。
朝靄の残る森を越え、俺たちは北東の空へ上がった。
◇
見張り塔までの道は、もう初めて見る景色ではなかった。
古い木橋。
風倒木で塞がれた旧道。
大きく崩れた山肌。
地図と眼下の景色を何度も照らし合わせてきたおかげで、どこを飛んでいるのか迷うことはない。
「右下の倒木、少し減ってるな」
『人間が切ったのか』
「道路管理の人たちが調査に入ったんだろう。旧道を本気で直すつもりみたいだ」
『飛べば越えられる』
「昨日も言ったけど、普通の人は飛べないんだよ」
『知っている。言ってみただけだ』
「最近、そういうこと言うようになったな」
岳から返事はなかった。
たぶん分かってやっている。
瑠璃が少し先を飛びながら、ときどき森の切れ目へ高度を落としている。特に異変を知らせてこないところを見ると、旧道沿いは落ち着いているらしい。
尾根が近づくと、石造りの見張り塔が朝日に照らされて見えた。
そして、その頂上にはすでに灰褐色の大きな鳥がいる。
「今日もいるな」
『隼人』
こちらに気づいた岩翼鷲が翼を広げた。
塔から舞い上がり、岳の横まで来る。
「おはよう。少し休ませてもらうよ」
『遠くへ行く?』
「ああ。今日は山の向こうまで行く」
『風、向こうは強い』
「東側?」
『山を越えるところ。昼になるともっと強くなる』
ありがたい情報だ。
「岳、聞いたな」
『聞いている。早めに越えた方がよさそうだ』
「俺もそう思う」
岩翼鷲には、そこまでの会話を説明する必要がない。
ただ、もし東側の風を普段から知っているなら、もう少し聞いておきたい。
「山を越えるなら、どこが飛びやすい?」
岩翼鷲が尾根の南側へ顔を向ける。
『あっち。岩が割れてるところ。風が抜ける。でも昼は荒れる』
「そこを通ればいいんだな」
『朝なら』
「助かる」
俺たちは塔の近くへ降りた。
◇
見張り塔の一階は、前より少しだけ休憩所らしくなっていた。
石工の親方たちが本格的に入る前なので、壁や入口そのものはまだ古いままだが、置いていった木箱には毛布と保存食が収められている。石槽には昨夜までの雨水が溜まり、濁りもかなり落ち着いていた。
俺は持参した水を飲み、岳にも十分休ませる。
瑠璃は塔の外壁にある低い石へ止まった。
岩翼鷲は当然のように頂上へ戻っている。
『上は私』
「誰も取らないよ」
『瑠璃も取らない』
『あそこはあの子の場所』
瑠璃が素直に返す。
「ちゃんと覚えてるもんな」
岳の翼を確認する。
異常はない。
「この先は初めて飛ぶ。山を越えたら一度速度を落として、俺が地図を確認できるようにしてくれ」
『分かった』
「風が強ければ無理に進まない。塔まで戻れるうちに判断する」
『また慎重だな』
「ここから先は、降りられる場所もまだ知らないからな。今までと同じつもりで飛ぶ方が危ない」
岳は今度は反論しなかった。
俺が水袋を戻したところで、岩翼鷲が頂上から声を落とす。
『隼人』
「何?」
『帰りも寄る?』
「たぶん。遅くなったらここで休むかもしれない」
『ならいる』
「待ってなくてもいいぞ」
『私の場所』
「ああ、そうだった」
待っているわけではない。
ここが岩翼鷲の日常なのだ。
それが何となく嬉しかった。
◇
塔を離れ、岩翼鷲に教えてもらった南側の切れ目へ向かった。
山の稜線が途中で大きく低くなり、左右に岩壁が迫っている。
「確かに風が通るな」
岳が翼の角度を変える。
『少し強い』
「飛べる?」
『この程度なら問題ない』
瑠璃も俺たちの横へ寄る。
『揺れる』
「離れすぎるなよ」
『分かった』
高度を必要以上に上げず、岩壁から距離を取る。
谷を抜ける風が岳の身体を横へ押したが、進路が崩れるほどではない。岩翼鷲が言った通り、今なら通れる。
そして尾根を越えた瞬間、景色が大きく変わった。
「……広いな」
昨日遠くから見た盆地が、今は眼下いっぱいに広がっている。
山のこちら側より畑が多い。一本の大きな川が盆地を横切り、その支流沿いにいくつもの集落が見える。
さらに東には、城壁を持つ大きな町。
リーベルより明らかに大きい。
塔らしい高い建物まで見えた。
『人、いっぱい』
瑠璃が言う。
「町には今日は行かないぞ」
『分かってる』
「俺に言い聞かせてるところもある」
『行きたい?』
「少しな」
知らない町を見れば興味は湧く。
だが、今日の仕事は観光じゃない。
地図を見る。
東側の調査隊が待つのは町よりずっと手前、旧道が山へ入る地点だ。
「岳、川を右手に見ながら南東へ。旧道の入口を探す」
『分かった』
◇
東側から延びる旧道は、西側より状態がよかった。
草は生えているが、道幅が残っている。
場所によっては最近も人が通っているらしく、新しい轍まで見えた。
「向こう側はまだ使ってるんだな」
『人がいる』
瑠璃が地上を見る。
旧道の入口近くに、荷馬車が一台。
その横に人影が六つほどある。
大きな赤い布が地面へ広げられていた。
「合図だな」
ギルドから聞いていた。
空から来る俺たちに見えるよう、東側の調査隊は旧道入口へ赤い布を出すことになっている。
「岳、あの人たちの近くへ降りる。ただし荷馬車と馬角獣から距離を取って」
『分かった』
向こうもこちらに気づいた。
人間たちが空を指す。
岳が旋回しながら高度を下げると、荷馬車を引く馬角獣が落ち着きを失い始めた。
「もう少し離れよう」
『そうする』
草地へ着地する。
俺が岳から降りる頃には、調査隊の男たちがこちらへ歩いてきていた。
先頭にいるのは五十歳前後に見える男で、手には地図を持っている。
「リーベルから来た冒険者か?」
「はい。神代隼人です。旧道の調査依頼で来ました」
「待っていた。まさか本当にグリフォンで来るとは思わなかったが」
男の視線が岳へ向く。
「岳です。俺の相棒なので、こちらから何もしなければ問題ありません」
「話には聞いている」
俺の肩へ瑠璃が降りる。
男は今度はこちらを見る。
「蒼冠鷹までいるのか」
「瑠璃です。俺とは意思疎通できます」
「噂より随分すごい一行だな」
「俺自身は普通ですよ」
『普通ではない』
岳の声。
「そこは黙っててくれ」
男には岳の返事が聞こえないので、怪訝そうに俺を見る。
「岳が俺は普通じゃないって」
「相棒の方がよく分かってるらしい」
「最近そういうこと言うんですよ」
男が笑った。
初対面の緊張が少し解けた。
◇
持ってきた封筒を渡す。
男は中身を確認し、自分たちの地図を地面へ広げた。
「こちらから歩いて確認できたのは、この辺りまでだ」
指が山側へ伸びる。
「東側は旧道がかなり残ってるんですね」
「ああ。木材を運ぶ連中が今でも一部を使ってる。問題は山へ入ってからだ」
「こっちから見た限り、大きな問題は三つあります」
俺もリーベル側の地図を開く。
「一つ目は補修が必要な木橋。人なら渡れますが、荷馬車を通すなら手を入れた方がいい。二つ目は倒木が道を塞いでる場所。ただ、南側へ迂回路を作れそうです」
「三つ目は?」
「山間部の大崩落です。旧道が三十メートル以上消えてます」
男の表情が険しくなる。
「そこが一番厄介か」
「はい。ただ、北側に岩盤が露出してる場所があります。道路管理の担当者は、そこへ道を切り直せる可能性があると言ってました」
「それができるなら繋がる」
「こっちからも調査に入る予定です」
男は地図を見ながら何度も頷く。
「何年も話だけ出て止まってた道だ。まさか空から一日で向こう側の状態まで分かるとはな」
「俺たちだけで直せるわけじゃないですけどね」
「分かってる。それでも、どこが壊れてるか分からんまま人を何日も歩かせるのとは違う」
そこは俺も実感している。
空を飛べる強みは、移動速度だけじゃない。
地形をまとめて見られる。
離れた場所同士を早く繋げられる。
◇
「それと、もう一つ確認してもらいたい場所がある」
男が地図の北側を指す。
旧道から少し外れた場所に、細い谷が描かれている。
「この谷ですか?」
「ここに古い石橋がある。旧道の本道じゃないが、昔は北側の村から合流する支道だったらしい。地上からだと森が深くて確認に時間が掛かる」
「空から見ればいい?」
「できるなら頼みたい。橋が残ってるかどうかだけでいい」
依頼範囲から大きく外れてはいない。
帰路へ入る前に確認できる。
「分かりました。上から見てきます」
「助かる」
俺は地図へ位置を覚え込む。
そこで瑠璃が北側を向いた。
『鳥、いっぱい飛んだ』
「どっち?」
『谷の方』
「大型?」
『小さい。いっぱい』
何かに驚いて飛び立ったのかもしれない。
俺は男へ事情を伝える。
「瑠璃が、今話してた谷の方から鳥の群れが飛び立ったと言ってます。何かあるかもしれないので、少し離れて見てきます」
「魔獣か?」
「まだ分かりません。だから確認してきます」
決めつける必要はない。
◇
再び岳へ乗り、北側の谷へ向かう。
瑠璃が少し先へ出る。
「近づきすぎるなよ。鳥が逃げた理由が分かってない」
『分かった』
谷は思ったより深かった。
両側を森に覆われた斜面が挟み、その底に細い川が流れている。
木々の間から、人工物らしい灰色が見えた。
「橋は残ってる」
石造りの小さなアーチ橋だ。
上には草が生えているものの、大きく崩れてはいない。
「これなら報告できるな」
そう思ったところで、岳が低く言った。
『何かいる』
「どこ?」
『橋の下』
高度を下げすぎず、角度を変える。
橋の下の影。
最初は岩に見えた。
動いた。
「……でかいな」
四足。
灰色の身体。
背中に苔のような緑が付いている。
頭からは太い角が二本。
牛に似ているが、身体は一回りどころか何倍もある。
橋の下で横になっている。
『鳥じゃない』
瑠璃が戻ってくる。
「ああ。《猛禽寵愛》の相手じゃないな」
こちらには気づいていない。
起こす必要もない。
「橋自体は使えそうだけど、あれが住み着いてるなら地上から調査へ来る前に確認が要るな」
『倒すのか』
岳が訊く。
「今はやらない。相手が何なのかも分からないし、俺たちへ何もしてない」
『分かった』
「瑠璃、特徴をよく見て覚えられる?」
『角が二つ。背中が緑。尻尾が短い』
「それだけ分かれば十分」
俺も形と大きさを頭へ入れる。
戦うことが仕事じゃない。
危険があると先に分かれば、それだけで調査の意味がある。
◇
東側の調査隊へ戻り、石橋と魔獣のことを伝えた。
角の形と身体の大きさを説明すると、護衛の一人が心当たりを口にした。
「苔角牛じゃないか」
「知ってるんですか?」
「山奥にいる大型魔獣だ。気性は比較的おとなしいが、縄張りで刺激すると厄介だ。たしかC級か、でかい個体ならそれ以上だったはずだ」
「橋の真下で寝てました」
「なら支道は今すぐ使わない方がいいな」
調査隊の責任者も頷く。
「橋が残ってると分かっただけで十分だ。魔獣の扱いは、必要になった時に専門の冒険者へ相談すればいい」
「俺もそれがいいと思います」
何でもその場で退治する必要はない。
そこにいるだけなら、わざわざ戦いを始める方がおかしい。
◇
東側での確認を終えたのは、まだ昼前だった。
調査隊の男が東の方角を見る。
「せっかくここまで来たんだ。町へ寄っていかないかと言いたいところだが」
「今日はやめておきます」
「やっぱりか」
「帰りの風もありますし、塔まで戻って岳を休ませたいので」
「堅実だな」
「山で無理すると、帰れなくなるので」
「なら次だな。旧道の話がまとまれば、町の商人組合も直接話をしたがるだろう」
「その時にお願いします」
遠くに城壁が見える。
今なら岳で飛べば、それほど時間は掛からないのかもしれない。
それでも、今日はここまでだ。
行けることと、行くべきことは違う。
「岳、戻ろう」
『塔へか』
「ああ。一度休んでからリーベルへ戻る」
『分かった』
◇
山を越える頃には、朝より風が強くなっていた。
岩翼鷲の言った通りだ。
「昼になると荒れるって、よく分かってるな」
『あの鳥はここで暮らしている』
「地元の案内役って強いな」
『地元?』
「その場所をよく知ってるって意味」
『なら、俺は小屋の周りを知っている』
「長野の山もな」
『当然だ』
一瞬、懐かしい景色を思い出す。
岳がまだオオタカの姿だった頃、一緒に歩いた山。
今は異世界の山を、岳の背で飛んでいる。
変わりすぎた。
それでも、相棒と土地を読みながら動くところは変わっていない。
◇
見張り塔へ近づくと、岩翼鷲がすぐに姿を見せた。
『帰ってきた』
「ああ。風、強くなったな」
『言った』
「その通りだったよ」
塔の近くへ降りる。
岳から荷を外し、水を飲ませる。
俺も石壁へ背を預けた。
瑠璃は岩翼鷲の場所を避け、少し低い位置にある石へ止まる。
「この塔、本当にちょうどいい場所にあるな」
東西のほぼ中間。
風を避けられる。
水もある。
悪天候なら泊まれる。
ここがなければ、朝のうちに山を越え、東側で調査をして、風が強くなってから一気にリーベルまで戻るしかなかった。
今は違う。
休んでから帰れる。
「空の宿場って感じになってきたな」
『ここは私の場所』
岩翼鷲が上から言う。
「上はな。下を少し借りてるだけ」
『ならいい』
そこだけは絶対に譲らないらしい。
◇
リーベルへ戻ったのは午後だった。
ギルドではミラと道路管理の男が待っていた。
「おかえりなさい。向こう側まで行けた?」
「はい。東側の調査隊と合流できました」
地図を広げる。
向こう側の旧道。
合流地点。
支道の石橋。
苔角牛らしい魔獣。
一つずつ説明していく。
「東側はかなり道が残ってます。向こうの人たちも、復旧するなら協力するつもりみたいです」
道路管理の男が地図へ目を走らせる。
「なら最大の問題は、やっぱり山間部の崩落だな」
「そこが繋がれば、旧道全体が生きる可能性は高いと思います。ただ、俺は道を作る専門じゃないので、最終判断はお願いします」
「十分だ。これだけ分かれば、地上の調査班をどこへ入れるか決められる」
ミラが別の箇所を見る。
「この苔角牛っていうのは?」
「石橋の下で寝てました。こっちからは何もしてません。東側の護衛の人によると、刺激しなければ比較的おとなしい魔獣らしいです」
「討伐は?」
「橋を使う必要が出てから考えればいいんじゃないですか。今のところ、人を襲ってるわけでもないので」
「そうね」
ミラは簡単に頷いた。
最近、何かを見つけても全部討伐へ繋げないことを、向こうも分かってきた気がする。
「それから、見張り塔は帰りにも使いました」
「風が強かった?」
「はい。岩翼鷲が朝に言ってた通り、昼から山越えの風がかなり強くなりました。塔で岳を休ませてから帰ってます」
道路管理の男が少し笑った。
「もう完全に中継所だな」
「まだ仮運用ですけどね」
「使えてるなら十分だ」
◇
報告を終えて席を立とうとした時、ミラが封筒を一枚持ち上げた。
「隼人さん、もう一つだけいい?」
「仕事ですか?」
「仕事というより、向こうの商人組合からあなた宛て」
「俺に?」
「今日会った調査隊から、もう先触れが届いたの。向こうの町へ来ることがあれば、正式に話をしたいそうよ」
「早いですね」
「旧道が繋がれば、向こうにとっても大きいからでしょうね。それに、空を飛んで一日で山を往復する冒険者なんて珍しいもの」
「岳のおかげですけどね」
「分かってる。でも交渉するのは岳じゃないでしょう?」
それはそうだ。
「急ぎじゃないですよね?」
「ええ。旧道の調査もまだ途中だし、好きな時でいいそうよ」
「なら、少し落ち着いてから考えます」
封筒を受け取る。
これまで遠くに見えていただけの町が、少しずつこちらへ近づいてきた。
まだ行ってはいない。
だが、向こうにはもう俺たちのことを知る人間がいる。
◇
小屋へ戻った頃には、夕方になっていた。
岳は新しい寝床へ入るなり伏せた。
「今日はさすがに疲れた?」
『少しだけだ』
「ちゃんと休めよ。明日は遠出なしな」
『分かった』
瑠璃は横木へ止まり、羽繕いを始める。
『東、広かった』
「ああ。村も多かったな」
『大きい町もあった』
「そのうち行くことになりそうだ」
『明日?』
「明日は行かないって今言っただろ」
『そのうち』
「そう。そのうち」
俺は小屋の前へ腰を下ろし、今日使った地図をもう一度広げた。
リーベル。
狩人小屋。
見張り塔。
山を越えた東側の旧道入口。
少しずつ、実際に行った場所が線で繋がっている。
前までは地図に描かれた知らない場所だった。
今は、風の強さまで思い出せる。
どこで岳を休ませられるか。
どこなら瑠璃が低く飛べるか。
どこに魔獣がいるか。
それを知っているだけで、同じ距離でも意味はまるで違う。
『隼人』
「何だ?」
『飯はまだか』
岳だった。
「せっかく真面目に地図見てたのに」
『腹は減る』
「それはそうだけど」
『私も』
瑠璃まで加わる。
「分かったよ。今日は働いたから多めにする」
『当然だ』
「その台詞、ほんと好きだな」
地図を畳む。
東の町へ行くのは、まだ先でいい。
急ぐ理由はない。
けれど、もう「行けるかどうか」を考える場所ではなくなっている。
休む場所を作り、道を覚え、風を知った。
今なら、自分たちの判断で向こうまで飛べる。
空の道が一つ、確かに山を越えた。
──────────────────
YouTubeでショート動画作ってみました
https://youtube.com/shorts/spSkAdkT0sE?si=_5PpM7nCYZM6czxo




