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『長野の鷹匠、愛鷹と異世界転移したらグリフォンになっていた ~スキル《猛禽寵愛》でロック鳥もヒポグリフも俺に懐く~』  作者: あちゅ和尚


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第23話 三つの翼、それぞれの役目

 山火事の翌朝、リーベルの空にはまだ薄い煙が残っていた。


 狩人小屋の前で朝食を済ませていると、銀嶺が東の空から戻ってくる。


『火、小さくなった』


「昨日の場所か?」


『うん。煙はまだある。でも赤いのは少ない』


「街道の方は?」


『人がいる。荷車はいない』


「通行止めが続いてるんだな」


 銀嶺には朝から火災跡を見てもらっていた。


 頼んだわけではない。


 本人が「見る」と言って飛んでいった。


 昨日、《遠距離偵察》という役割が表示されたからといって、急に性格が変わったわけではない。


 もともと遠くを飛ぶのが好きだった。


 そこへ役目が後から付いてきた、と考えた方が近い。


「ありがとう。今日は町へ行く」


『仕事?』


「たぶんな」


『私も行く』


「高原へ帰らなくていいのか?」


『あとで帰る』


 自由だ。


 それでいい。


 岳を見る。


「お前は?」


『聞く必要があるのか』


「一応な」


『行く』


 屋根の横木にいた瑠璃も翼を広げた。


『私も』


「全員か」


 朝から賑やかだった。


     ◇


 ギルドへ入ると、ミラは俺の後ろを見た。


「今日は瑠璃だけ?」


「岳と銀嶺は門の外です」


「銀嶺もいるのね」


「昨日そのまま小屋に来たので」


「もう驚かなくなってきた自分が怖いわ」


「慣れですよ」


「慣れていいのかしら」


 そう言いながら、ミラは一枚の地図を広げた。


「ちょうど頼みたいことがあるの」


「どこです?」


 指がリーベルの北東を示す。


 今まで行った場所より遠い。


 アデル村よりさらに北。


 山地を越えた先に、小さな集落が二つ描かれている。


「ここからさらに北へ、旧街道があるでしょう?」


「ありますね」


「昨日の山火事とは別件。昨日の夕方、この街道を通る予定だった商隊がまだ来てない」


「何台です?」


「荷馬車四台。護衛六人。商人と御者を合わせて十二人」


 人数は多い。


「遅れただけの可能性は?」


「ある。ただ、今朝になっても次の宿場へ着いてない」


「火事の影響は?」


「火元からはかなり離れてる。でも煙を見て迂回した可能性はある」


 つまり、どこへ行ったか分からない。


「地上から探すと?」


「一日仕事。下手したら泊まりになる」


「空からなら早い」


「そういうこと」


 ミラの視線が俺の肩の瑠璃へ向く。


「今回は瑠璃だけじゃなく、銀嶺にも頼める?」


「聞いてみます」


 門の外へ出てから、銀嶺へ事情を話した。


「遠い場所まで先に見てほしい。荷馬車が四台。人も多い」


『探す』


「見つけても近づきすぎなくていい。場所だけ覚えて戻ってくれ」


『分かった』


 瑠璃を見る。


「お前は俺たちの近くで、道の脇を細かく見てほしい。荷馬車が道を外れた跡とか、人が歩いた跡とか」


『分かった』


「岳は俺を運ぶ」


『それだけか』


「一番重要だろ」


『ならいい』


 妙に納得した。


     ◇


 銀嶺が先に飛ぶ。


 速い。


 数分もしないうちに、灰白色の姿が小さくなった。


 俺は岳の背へ乗り、そのあとを追う。


 瑠璃は俺たちより少し低い位置。


 地面を見る役目だ。


 同じ空を飛んでいても、三頭の動きはまるで違う。


 銀嶺は前へ伸びる。


 岳は安定して俺を運ぶ。


 瑠璃は左右へ細かく動き、森と道の境目を何度も見ている。


「こうして見ると全然違うな」


『何がだ』


「飛び方」


『当たり前だ』


「お前はそう言うと思ったよ」


     ◇


 旧街道へ入って一時間も経たないうちに、瑠璃が進路を外れた。


『隼人』


「何かあったか?」


『道の横、変』


「どこ?」


『こっち』


 岳に高度を落としてもらう。


 街道脇の草地。


 一見すると何もない。


 だが低くなると分かった。


 草が広い範囲で倒れている。


 轍もある。


「荷車が道を外れてる」


『四つ?』


 岳が訊く。


「少なくとも二本以上の轍が重なってる。数までは地上で見た方が早い」


 近くの開けた場所へ降りる。


 地面を確認する。


 轍は四台分。


 蹄跡も多い。


「当たりだ」


『見つけた』


 瑠璃が胸を張る。


「ああ。銀嶺より先だったな」


『私の方が近くは得意』


「そうみたいだな」


 轍は街道から北側へ逸れている。


 理由もすぐ分かった。


 少し先で街道そのものが崩れていた。


 幅はそれほど大きくないが、荷馬車では越えられない。


「迂回したのか」


 轍を追う。


 森へ入っている。


 荷馬車で無理に通った跡が残っていた。


 折れた枝。


 削れた幹。


 深く沈んだ車輪跡。


「道じゃないところを通ったな」


『危ないのか』


「荷車にはな」


 地面が湿っている。


 四台続けて通れば、後ろほど条件が悪くなる。


 嫌な予感がした。


     ◇


『隼人』


 今度は銀嶺の声だった。


 姿はまだ見えない。


「見つけた?」


『荷車。四つ』


「人は?」


『いる。動いてる』


「怪我人は?」


 少し間がある。


『一人、寝てる』


「場所は?」


『川の近く。大きい木が倒れてる』


「戻って案内してくれ」


『分かった』


 岳を見る。


「見つかった。全員いるらしい」


『なら行くぞ』


「銀嶺を待つ」


『場所が分からないのか』


「そういうこと」


 速く飛べることと、俺が場所を知っていることは別だ。


 数分後、銀嶺が戻ってきた。


『こっち』


 再び飛ぶ。


     ◇


 商隊は、小さな川沿いの窪地で止まっていた。


 荷馬車は四台。


 三台は無事。


 一台だけ、大きく傾いている。


 後輪が泥へ沈み、車体が斜めになっていた。


 人々がロープを掛けている。


 その少し離れた場所に、一人寝かされている男がいた。


「降りるぞ」


『分かった』


 岳が広い河原へ着地する。


 護衛たちが武器へ手を伸ばす。


「冒険者ギルドから捜索に来ました!」


「リーベルからか!」


 年配の商人らしい男が走ってくる。


「助かった。誰か来ると思ってた」


「怪我人は?」


「あっちだ。荷車が傾いた時に脚を挟まれた」


 見に行く。


 男は意識がある。


 右脚を木の板で固定していた。


「骨が折れてるかもしれない」


「村の薬師じゃなく、リーベルで診てもらった方がいいですね」


「だが荷車が抜けん」


「皆さんまでここに残る必要はありません」


 商人が俺を見る。


「どうする?」


「まず状況を整理します」


 傾いた荷馬車を見る。


 泥へ嵌まっているだけではない。


 後輪の片側がずれている。


 無理に引けば車軸ごと壊れる。


「荷物は?」


「鉱石と加工前の皮だ」


「重いですね」


「ああ」


 全部積んだまま動かそうとしていたらしい。


「荷を一度降ろした方がいいです」


「盗賊が出たら?」


「ここに全員残る方が危ないでしょう」


 商人は黙る。


「それと、怪我人は先に町へ送れます」


 岳を見る。


 商人の視線も岳へ移った。


「グリフォンで?」


「俺と怪我人一人なら飛べます。脚を固定したまま乗せられるかは、状態を見てからです」


 怪我人の方へ戻る。


 腫れが強い。


 無理に曲げるのは駄目だ。


 後部座席へ跨がせるより、脚を伸ばせるよう座り方を変えた方がいい。


「岳」


『何だ』


「いつもの後部座席じゃなく、怪我した脚を外側へ伸ばす形でも飛べるか?」


『重さが偏る』


「やっぱりそうか」


『反対側へ荷を付ければ近づけられる』


「なるほど」


 商人には聞こえていない。


 俺は説明する。


「岳は、怪我した脚を伸ばすと左右の重さが変わると言ってます。反対側に荷を固定して釣り合わせれば飛べる可能性があります」


「そんなところまで分かるのか」


「岳が実際に飛ぶので」


 適当には決められない。


     ◇


 使う荷物は、水袋と比較的軽い皮の束にした。


 怪我人の右脚を保護する。


 右側へ伸ばす。


 反対側へ同じ程度の重さを固定する。


「岳、立ってみて」


 岳がゆっくり立つ。


『少し右が重い』


「左へもう少し足す」


 皮を一枚追加。


『今はいい』


「歩ける?」


『問題ない』


 怪我人を見る。


「痛みます?」


「動かなきゃ大丈夫だ」


「離陸と着陸の時だけ揺れます。無理ならすぐ言ってください」


「頼む」


 商人が訊く。


「町までどれくらいだ?」


「岳ならそれほど掛かりません」


「俺たちは?」


「荷車を直してから戻るなら、今日中は厳しいかもしれません」


「だろうな」


「ギルドへ位置を伝えます。回収班と修理のできる人を送ってもらいます」


 そこで瑠璃を見る。


「先に町へ戻って報告を届けられるか?」


『できる』


 紙を出す。


 簡単に書く。


 商隊発見。


 全員生存。


 一名脚部負傷。


 荷馬車一台損傷。


 場所。


 修理人員と荷運び要員を求む。


 革筒へ入れる。


「ミラへ渡してくれ」


『分かった』


 瑠璃が飛び立つ。


 商人が見送る。


「今の鳥が?」


「瑠璃です。あいつなら俺たちより先に町へ着きます」


「便利どころじゃないな」


「役割が違うだけですよ」


 銀嶺を見る。


 遠くまで探したのは銀嶺。


 街道から外れた痕跡を見つけたのは瑠璃。


 俺と怪我人を運ぶのは岳。


 誰か一頭だけでは、ここまで早く動けなかった。


     ◇


 リーベルへ戻る飛行は、普段より慎重になった。


 急旋回はしない。


 高度も上げすぎない。


 怪我人の右脚が大きく揺れないよう、岳も翼の使い方を抑えている。


「痛みますか?」


「大丈夫だ!」


 後ろから返事が来る。


 銀嶺が少し先を飛んでいる。


「銀嶺!」


『何?』


「前に強い風があったら教えて!」


『分かった』


 銀嶺が少し高度を変える。


 その数分後。


『右から風が強い』


「岳、銀嶺が右から強い風だって」


『分かった』


 進路を僅かに変える。


 風を真正面から受けない角度へ。


 大きく揺れずに抜ける。


「今のも銀嶺か?」


 怪我人が訊く。


「はい。前の風を見てもらってます」


「ヒポグリフってそんな使い方する魔獣だったか?」


「普通はしないと思います」


「だよな」


 返事に困る質問だった。


     ◇


 西門へ着くと、すでに担架を持った人間が待っていた。


 瑠璃の報告が先に届いている。


「怪我人を降ろします!」


 治療院の人間が集まる。


 安全帯を外す。


 固定していた荷を先に下ろし、怪我した脚を動かさないよう二人掛かりで身体を持ち上げる。


「ゆっくり!」


 担架へ移す。


 男が息を吐く。


「助かった」


「治療院で診てもらってください」


「ああ」


 担架が門の中へ運ばれていく。


 俺は岳の身体を確認する。


「右、痛くないか?」


『問題ない』


「変な力掛からなかった?」


『少しだけいつもと違った』


「どこ?」


『右の背中』


 触る。


 腫れはない。


 熱も左右で変わらない。


「今日は人を乗せるの終わりな」


『問題ないと言っている』


「問題が出る前にやめるんだよ」


『また慎重だ』


「そこは変えない」


     ◇


 ギルドへ入ると、ミラがすでに人員を集めていた。


「瑠璃から報告は受けたわ。場所も分かってる」


「怪我人は治療院へ送りました」


「商隊は?」


「残り十一人は現地。荷馬車一台が泥に嵌まって、後輪もずれてます。荷を下ろせば修理できると思います」


「修理職人と護衛を出すわ」


「荷運びも何人かいた方がいいです。積んだままじゃ動かせません」


「分かった」


 ミラが紙へ追加する。


「それにしても、早かったわね」


「銀嶺が先に商隊そのものを見つけて、瑠璃が街道から外れた轍を見つけました」


「両方?」


「はい」


「岳は?」


「怪我人を運びました」


 ミラがしばらく黙る。


「綺麗に役割が分かれてきたわね」


「俺もそう思ってました」


 銀嶺は遠くへ行ける。


 瑠璃は細かいものを拾える。


 岳は大きく、安定して人や荷を運べる。


「でも、それだけじゃないですよ」


「何が?」


「銀嶺は風も先に見てくれました。岳は怪我人の重さが片側に寄った時、自分で違和感を教えてくれた。瑠璃は紙を運べる」


「どんどん仕事が増えるわね」


「増やしすぎないでください」


「分かってるわよ」


 ミラが笑う。


「それに、あなたが全部判断してるのも仕事の一部だからね」


「俺?」


「誰をどこへ飛ばすか決めてるのはあなたでしょう」


 言われてみればそうだ。


 銀嶺が見つける。


 瑠璃が拾う。


 岳が運ぶ。


 でも、三頭が勝手に別々に動くだけでは、救助にはならない。


 情報を受け取って、次に何をするか決める人間が要る。


「鷹匠っぽいですね」


「何が?」


「鳥を飛ばして、自分は全体を見るところが」


 日本にいた頃とは規模が違う。


 相手もオオタカ一羽ではない。


 それでも、根っこは似ているのかもしれない。


     ◇


 夕方。


 修理班から伝令が戻った。


 荷馬車は応急修理できた。


 商隊は野営せず、日没前に旧街道へ戻れたらしい。


 全員無事。


 荷もほとんど失っていない。


「よかったな」


 狩人小屋の前で報告を聞き終え、俺は岳たちへ伝えた。


「商隊、無事に動き出したって」


『そうか』


 岳。


『見つけた』


 銀嶺。


『私も見つけた』


 瑠璃。


「二頭とも見つけたよ」


『私が先』


 銀嶺が言う。


『道の跡は私』


 瑠璃も言う。


「また始まったな」


『俺は運んだ』


 岳まで入ってきた。


「お前まで張り合うの?」


『事実だ』


「全員事実だから困るんだよ」


 三頭が互いを見る。


 誰が一番だったか。


 そんな話ではない。


「銀嶺が遠くを見つけた。瑠璃が近くを見つけた。岳が人を運んだ。それで全員助かった」


 銀嶺が首を傾げる。


『全部いる?』


「ああ」


 瑠璃も俺を見る。


『私も?』


「もちろん」


 岳は何も訊かなかった。


 ただ、少しだけ胸を張っている。


「一頭だけじゃ無理だった」


『なら、みんなでやればいい』


 銀嶺が言った。


 単純な答えだった。


 でも、その通りだ。


「そうだな」


 空を飛べる奴が増えた。


 最初は、それだけだと思っていた。


 今は違う。


 飛び方が違う。


 見えるものが違う。


 できることが違う。


 それを合わせれば、一頭では届かないところまで手が届く。


「今日は肉、多めにするか」


『俺は働いた』


『私も』


『私も』


「分かったって」


 三頭の返事が重なる。


 結局、最後に一番分かりやすくまとまるのは食事だった。




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YouTubeでショート動画作ってみました


https://youtube.com/shorts/spSkAdkT0sE?si=_5PpM7nCYZM6czxo

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