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『長野の鷹匠、愛鷹と異世界転移したらグリフォンになっていた ~スキル《猛禽寵愛》でロック鳥もヒポグリフも俺に懐く~』  作者: あちゅ和尚


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第19話 空輸という仕事

 アデル村を離れたのは、二つの月が森の上まで昇ってからだった。


 治療師は村へ残った。


 患者の状態が朝まで安定しているか、自分の目で確かめたいという。


 瑠璃は一足先に、治療師の報告を入れた革筒を持ってリーベルへ向かっている。


 帰りは岳と俺だけだ。


「軽くなったな」


『最初から重くはなかった』


「治療師に聞かせたら怒られるぞ」


『なぜだ』


「人間は体重の話に敏感な人もいるんだよ」


『面倒だな』


「俺もちょっとそう思う」


 岳が夜空を滑る。


 二人乗りの時とは違い、旋回も上昇も明らかに軽い。


 重さそのものより、後ろに乗る人間を気遣って飛び方を変えていた影響の方が大きかったのかもしれない。


「疲れてないか?」


『この程度で疲れない』


「翼の付け根は?」


『問題ない』


「鞍が擦れてる感じは?」


『ない』


『問題ない』だけで済ませようとする岳へ、いくつか続けて確認する。


 二人乗りは初めてだった。


 一度うまくいったからといって、これから何人でも好きに運べると考える気はない。


 人を乗せて飛ぶなら、岳自身が無理をしていないことも同じくらい大事だ。


『隼人』


「何だ?」


『さっきから同じようなことを聞いている』


「初めてだったからな」


『俺は問題ないと言った』


「なら、それでいい」


『本当か』


「一応、帰ったら身体は見るけど」


『やはり信じていない』


「信じてるから確認するんだよ」


 長野にいた頃から、このやり取りは何度もしてきた。


 岳がオオタカだった時だって、狩りのあとには脚や翼を確かめた。


 今は身体が大きくなり、グリフォンになった。


 だから確認する場所が増えただけだ。


     ◇


 リーベルの西門が見える。


 門上の松明は、まだ明るく燃えていた。


 こちらへ向けて一つの灯りが大きく振られる。


「合図してるな」


『分かっている』


「いつもの場所へ」


 岳が高度を落とす。


 夜中に巨大なグリフォンが飛来したにもかかわらず、警鐘は鳴らなかった。


 この門では、俺たちの姿も随分知られるようになったらしい。


 着地すると、西門の兵士が二人駆けてきた。


 そのうち一人の肩には、見慣れた灰白色の影がある。


「瑠璃」


『帰ってきた』


 俺が腕を出すと、瑠璃が兵士の肩から移ってきた。


「ちゃんと渡せたか?」


『渡した』


「偉い」


 革筒はもう付いていない。


 役目は果たしたらしい。


 兵士が俺たちのやり取りを見てから口を開いた。


「報告は受け取った。患者は安定、治療師は朝まで村に残る、で合ってるな?」


「はい。俺が村を出た時点では、その状態です」


「よかった」


「ギルドにも?」


「伝令を出してる。それと、ミラさんから伝言だ。戻ったら今日はもう休め、だと」


「ありがたいですね」


「ただし、明日の朝は来てくれってさ」


「やっぱり仕事はあるんですね」


「俺は知らん」


 兵士が笑う。


 まあ、そうだろう。


 道が崩れたままなのだから、患者一人を助けて全部終わりというわけにはいかない。


 俺は岳の騎乗具を外した。


 腹帯の下。


 胸。


 翼の付け根。


 毛を分けるようにして擦れがないか見る。


『またか』


「すぐ終わる」


『問題ない』


「見れば分かる」


 幸い、赤くなった場所もない。


 応急で付けた後部の毛布と補助帯も、岳の身体へ変な負担は掛けていなかった。


「本当に問題なさそうだな」


『最初から言っている』


「はいはい」


 瑠璃が俺の肩から騎乗具を見る。


『明日も人を乗せる?』


「それはまだ分からない」


 俺は兵士へ向き直る。


「俺たちは小屋へ戻ります」


「この時間からか?」


「岳ならすぐです」


「……その台詞、もう何度聞いても羨ましいな」


「馬角獣よりは速いですね」


 岳が鼻を鳴らす。


 比べる相手が気に入らなかったらしい。


     ◇


 小屋へ戻ると、さっき作ったばかりの屋根が月明かりの下にあった。


「やっと使えるな」


『遅かった』


 岳は迷うことなく、その下へ入った。


 一周もしない。


 そのまま地面へ伏せる。


「気に入ってるじゃないか」


『眠いだけだ』


「そういうことにしとくよ」


 瑠璃も自分の横木へ止まる。


『私も寝る』


「お疲れ」


 俺も小屋へ入った。


 身体は疲れている。


 だが、不思議と気分は悪くない。


 一人の命が助かった。


 岳の背に俺以外の人間を乗せても飛べると分かった。


 瑠璃は夜でも手紙を届けられた。


 今日だけで、できることがいくつも増えた。


 だからこそ、勢いで何でも引き受けない方がいい。


 人を運ぶなら、今日の応急処置のままでは駄目だ。


 二人目用の座る場所。


 安全帯。


 荷物の固定。


 乗る人間への説明。


 それに天候。


 岳が飛べても、乗っている人間が耐えられなければ意味がない。


「明日、ちゃんと決めるか」


 誰に言うでもなく呟き、俺は横になった。


     ◇


 翌朝。


 岳の寝床を見ると、本人はまだ屋根の下にいた。


 起きてはいる。


 俺が出てくると顔だけ上げた。


「おはよう」


『遅い』


「日の出からそんなに経ってないだろ」


『俺は先に起きた』


「鳥だった頃から朝だけは偉そうだな」


『今も鳥だ』


「半分くらいな」


 岳が立ち上がる。


 身体を伸ばすように前脚を出し、それから翼を大きく広げた。


 昨日の疲労は残っていないように見える。


「痛いところないか?」


『ない』


「じゃあ今日は一度だけ飛び方も見る」


『まだ確認するのか』


「人を乗せる仕事を続けるなら、最初くらいはな」


 屋根の上では瑠璃が羽繕いをしている。


『私は?』


「お前も町へ行くぞ」


『仕事?』


「たぶんな」


     ◇


 ギルドへ着くと、ミラだけではなく見知らぬ男が一人待っていた。


 三十代後半くらい。


 丈夫な作業着に革の上着。


 腰には剣ではなく、巻き尺らしい細い革紐と折り畳んだ地図を下げている。


 俺が受付へ近づくと、ミラが紹介した。


「道路管理を担当してる人よ。アデル村へ行く道の崩落を見てもらいたいの」


「神代隼人です」


「話は聞いてる。昨夜は助かった」


 男と握手する。


「患者の方は?」


「朝一番で瑠璃に確認へ行ってもらおうかと思ってたんですが」


「その必要はなさそう」


 ミラが一枚の紙を出す。


「夜明け前に村から人が崩落地点まで出て、反対側の作業員と声を通したみたい。患者は夜を越えた。治療師の見立てでは、すぐ悪化する様子もないそうよ」


「よかった」


 これで一つ肩の荷が下りる。


「問題は道ね」


 男が地図を広げる。


「昨日の崩れ方を聞いた限り、ただ土を掘れば通れる状態じゃない。上に残ってる土砂が動くなら、下から作業するのは危険だ」


「空から見てほしいと?」


「できれば俺も見たい」


 昨夜の話を思い出す。


 人を運ぶ。


 さっそく二人目らしい。


「岳には乗れます。ただ、昨日は治療師を運ぶために応急で補助帯を付けただけです」


「聞いてる」


 ミラが言う。


「それで馬具職人にも来てもらってるわ」


「もう?」


「人を一人助けた翌日に、同じ装備をそのまま使わせる方が問題でしょう」


 まったくその通りだった。


     ◇


 西門の外には、昨日の馬具係が待っていた。


 岳の騎乗具を地面へ置く。


「昨日のやり方でも一度なら使える。だが毎回毛布を括って、革帯を足して、終わったら全部外すのは面倒だ」


「俺もそう思ってました」


「だから後ろへ追加できる座面を作る」


 男が持ってきた革の部品を広げる。


 一枚の大きな鞍にするのではない。


 今まで使っていた俺用の座面の後ろへ、必要な時だけ固定できる小さな補助座席だった。


「常に付けておく必要はない。人を乗せる時だけ追加する」


「岳への負担は?」


「昨日より分散する。腹帯は共用するが、胸側にも一本取る。ただし締めすぎるな。翼の動きに干渉したら意味がない」


 岳へ実際に付ける。


 翼を広げてもらう。


 閉じる。


 歩く。


 身体を捻る。


 どこにも革が食い込まないか、何度も見る。


『昨日より多い』


「その分、後ろの人が安定する」


『重くなった』


 岳が不満そうに言う。


「人を乗せない時は外すよ」


『ならいい』


 道路管理の男が訊く。


「岳は何て?」


「常に付けるのは嫌みたいです。人を乗せる時だけならいいって」


「俺でもそう思うな。必要ない椅子を毎日背負いたくはない」


『分かっている人間だ』


「岳も同意してます」


「気が合いそうだな」


 本人同士は直接話せないが、妙に相性はよさそうだった。


     ◇


 いきなり人を乗せる前に、荷物で試す。


 砂を入れた袋を補助座席へ固定する。


 昨日の治療師と同じくらいの重さにした。


「岳、まず低く一周」


『分かった』


 俺だけが前へ乗る。


 砂袋は後ろ。


 地面を離れる。


 昨日より、後ろの荷物が動かない。


 横風を受けても座面そのものがずれず、重さの位置が一定している。


「どうだ?」


『こっちの方が楽だ』


「やっぱり動かない方がいいか」


『昨日の人間は硬くなったり動いたりした』


「人間だからな」


『荷物の方が楽だ』


「それは治療師には言うなよ」


 低空で旋回。


 少しだけ速度を上げる。


 問題なし。


 着地して革を確認する。


 緩みもない。


「次、俺が乗る」


 道路管理の男が言った。


「怖くないんですか?」


「怖いに決まってる」


 即答だった。


「でも俺が上から見なきゃ、どの斜面を落とすべきか決められん」


「仕事ですか」


「そういうこと」


 治療師と同じだ。


 怖くないわけではない。


 必要だから乗る。


「じゃあ説明します」


 俺は昨夜と同じことを、一つずつ伝えた。


     ◇


 東ではなく、北へ飛ぶ。


 俺の後ろには道路管理の男。


 瑠璃は少し先を飛んでいる。


「速すぎませんか!」


「岳、少し落として!」


『これでも遅い』


「後ろには初めての人がいる!」


『分かった』


 翼の動きが変わる。


 男の声が後ろから聞こえた。


「今、速度を落とせって言ったのか!」


「はい!」


「助かった!」


 昨日の治療師より声が大きい。


 怖さを黙って耐えるより、これくらい言ってくれた方が分かりやすい。


「崩落地点が見えたら、一度上を回ります!」


「頼む!」


 やがて瑠璃が戻る。


『人、いっぱい』


「道を直してる人か?」


『土の両側にいる』


「分かった」


 俺は後ろへ伝える。


「瑠璃が、崩落の両側に人がいると言ってます!」


「村側でも作業を始めたか!」


「みたいです!」


 しばらくすると、崩れた斜面が見えた。


 夜に見た時より全体像がはっきりする。


 道を塞いだ土砂は、山側から斜めに流れ込んでいた。


 上には折れた木が何本も引っ掛かっている。


 特に一本。


 太い幹が斜面の途中で止まり、その上側に土と石を溜めていた。


「一度、上を通ります!」


「もう少し右へ寄れるか!」


「岳、右へ!」


『分かった』


 大きく旋回する。


 男は声を出さなくなった。


 怖くて固まったわけではない。


 斜面を必死に見ている。


「もう一周!」


「岳、もう一度!」


 今度は少し高度を下げる。


「やっぱりあの木だ!」


 後ろから声が飛ぶ。


「あれを下から切ったら、溜まってる土砂が全部動く! 作業員を近づけるな!」


「下へ伝えますか?」


「村側へ降りたい!」


「分かりました!」


 着地できる場所を探す。


「瑠璃、広いところ!」


『こっち』


 村側の畑へ誘導される。


     ◇


 地上へ降りると、道路管理の男は岳から降りてすぐ地図を広げた。


「空から見ると全然違うな」


 怖かったはずだが、今は斜面しか見ていない。


「危ないんですか?」


「今のまま下から掘ると危ない。上に残ってる倒木が土留めみたいになってる。その木を誰かが不用意に切ったら、一気に落ちる可能性がある」


「じゃあ、上から処理する?」


「上の安全な場所から縄を取る。木を先に固定して、少しずつ土を落とす。それから下を開ける」


 地上からだけ見ていたら、斜面途中の倒木が何を支えているか分かりにくい。


「俺たちが飛んだ意味はありました?」


「ありすぎる。昨日の夜から下で掘ってたら、死人が出てもおかしくなかった」


 男の顔から冗談が消える。


「隼人」


「はい」


「岳で縄を上へ運べるか?」


 俺は斜面を見る。


 飛ぶ距離は短い。


 昨日の角材とは違い、縄なら振れても危険は少ない。


 ただし、岳へ直接結んで引っ張らせるのは別の話だ。


「上へ持っていくだけならできます。ただ、岳に木を引かせるのはやめましょう」


「そのつもりはない。固定するのは人間だ」


「それなら」


 岳を見る。


「縄を運ぶ。どうだ?」


『軽いなら問題ない』


「運ぶだけなら大丈夫だそうです」


「助かる」


     ◇


 村側の作業員から長い縄を受け取る。


 俺は端を小さくまとめ、岳の脚ではなく、騎乗具の荷物用の固定具へ括った。


 万一引っ掛かっても、すぐ外せる結び方にする。


「引っ張るなよ。置くだけだ」


『分かっている』


 岳が飛ぶ。


 俺も乗る。


 道路管理の男は地上へ残った。


「瑠璃、斜面の上を見てくれ。人が立てる場所」


『ある。岩の横』


「岳、あそこ」


 上へ回り込む。


 安全な地面へ降り、縄を外す。


 下から登ってきた作業員へ渡す。


 それだけだ。


 だが、長い縄を崩れた斜面の脇から人力で上まで運ぶより、ずっと早い。


 作業員たちは倒木を固定し始める。


 これで道がすぐ開くわけではない。


 ただ、安全に作業できる形には近づいた。


     ◇


 村へ戻ると、治療師がこちらへ歩いてきた。


「ちょうどよかった」


「患者は?」


「朝から少し水も飲めています。熱も上がっていません」


「なら大丈夫そうですか?」


「油断はできません。でも昨日の夜よりずっといい」


 顔にも疲労はあるが、切迫感はない。


「帰れます?」


「帰っても問題ありません。村の薬師さんにも必要なことは伝えました」


 俺は岳を見る。


 今日、すでに人を一人運んでいる。


「岳、もう一人いけるか?」


『問題ない』


「疲れは?」


『ない』


「本当に?」


『また始まった』


「確認だよ」


 道路管理の男が横から訊く。


「何て?」


「まだ運べるけど、俺が何度も確認するのが面倒だそうです」


「確認しろ。俺は帰りも命が惜しい」


「ですよね」


『人間は慎重だな』


「その慎重な人間を乗せるんだよ」


     ◇


 問題は、帰りに二人とも乗せることはできないことだった。


 俺。


 治療師。


 道路管理の男。


 三人は無理だ。


「先に治療師さんを町へ戻します」


 俺が言うと、道路管理の男が首を振った。


「俺は残る。道の作業を指示しないと来た意味がない」


「今日中に戻れます?」


「道が開かなくても、村で一晩くらい寝られる」


「なら決まりですね」


 治療師を後部座席へ乗せる。


 昨日よりしっかりした補助座席を見て、治療師が感心したように触った。


「もう変わったんですか?」


「昨日のまま何度も使うのは危ないので」


「仕事が早いですね」


「馬具係の人がです」


 俺が作ったように言うのは違う。


 安全帯を確認する。


 治療道具も固定。


「出ます」


「お願いします」


 岳が村を離れた。


     ◇


 帰りは明るい。


 治療師も二度目だ。


 昨日ほど身体が硬くない。


「少し慣れました?」


「怖いのは怖いです。でも、昨日よりは周りを見られます」


「下、見ても大丈夫ですか?」


「聞くと見たくなるので黙っててください」


「すみません」


 岳の声が頭へ届く。


『面白い人間だ』


「聞こえなくてよかったな」


「何か言いました?」


「いえ、こっちの話です」


 治療師には岳の言葉は聞こえていない。


 余計なことまで通訳する必要もない。


 リーベルが見え始めた頃、瑠璃が俺の横へ並ぶ。


『今日はいっぱい運んだ』


「人も縄もな」


『私も見つけた』


「ああ。お前も働いた」


『肉?』


「岳に似てきたな」


『違う』


 否定だけは早かった。


     ◇


 ギルドへ戻ると、ミラは患者が無事だった報告より先に、俺たちの騎乗具を見た。


「本当に二人乗り用になってる」


「必要な時だけ後ろへ追加できるようにしました」


 治療師が横から口を挟む。


「昨日よりかなり楽でした。揺れ方が全然違います」


「それは大きいわね」


「ただし」


 俺は先に言っておく。


「何でも運びます、にはしないでください」


 ミラの目が細くなる。


「どういう意味?」


「岳が運べる重さだけじゃ決められません。風が強い日。雨。夜。乗る人の体格や状態。荷物の量。それで条件が変わります」


「当然ね」


「それと、一度に乗せられるのは俺ともう一人までにします。今日も道路管理の人は村に残ってもらいました」


「分かった」


「緊急だからって、無理に飛べって依頼は受けません」


 ミラは少し笑った。


「そこまで先に言えるなら安心した」


「昨日、人を乗せてみて分かりました。飛べることと、安全に運べることは別です」


「じゃあ、ギルド側でも条件を決める」


 ミラが紙を出す。


「人の緊急輸送は、あなたと岳が可否を判断する。悪天候では断れる。荷物の重量はその都度確認。通常の移動手段として安売りはしない」


「最後は?」


「珍しいからって、金持ちが『グリフォンに乗ってみたい』って言い出す可能性があるでしょう?」


「ああ……」


 ありそうだ。


「それは断ってください」


「もちろん」


 岳は観光用の乗り物じゃない。


 必要だから人を運ぶのと、遊びで人を乗せるのは全く違う。


「それから」


 ミラがもう一枚の紙を出した。


「アデル村への道は、少なくとも二日は完全には開かない見込み」


「道路管理の人も、すぐには無理って言ってました」


「村に食料はある。でも治療師が使った薬と包帯、それから作業員用の工具が足りない」


「運ぶんですか?」


「できる?」


 すぐには答えない。


「量を見てからですね」


「そこもちゃんと確認するのね」


「さっき決めたばかりでしょう」


「そうだった」


 裏から荷物が運ばれてくる。


 薬箱。


 包帯。


 小さな工具。


 縄。


 それに作業員用の保存食。


 全部合わせても、昨日の治療師一人より軽い。


「これならいけます」


 ミラが紙へ何かを書き込む。


「依頼として出すわ」


「何て依頼です?」


「アデル村への緊急物資輸送」


「そのままですね」


「分かりやすい方がいいでしょう」


 確かに。


 岳が空を飛べる。


 瑠璃が遠くを探せる。


 それだけだったものが、少しずつ町の中で役割になっている。


 捜索。


 伝令。


 偵察。


 人の搬送。


 そして今度は物資輸送。


 俺が異世界へ来る前、岳とやっていたのは狩りだった。


 それが今では、人の暮らしを繋ぐ仕事になり始めている。


「今日、もう一往復できる?」


 ミラが訊く。


 俺は岳を見る。


「どうだ?」


『肉が出るなら』


「報酬から買うよ」


『なら行く』


 俺はミラへ向き直った。


「行けます」


「今、何て?」


「肉を買うなら働くって」


 ミラが吹き出した。


「それ、報酬に肉を入れた方が早いんじゃない?」


『それがいい』


 俺にだけ岳の即答が聞こえた。


「……本人も賛成みたいです」


     ◇


 荷物は二つに分けた。


 左右の重量を揃える。


 岳の身体へ直接ぶら下げず、騎乗具の荷物用固定具へ取り付ける。


 揺れない。


 翼へ触れない。


 着地した時に地面へぶつからない。


 最後に一つずつ確認する。


「瑠璃」


『何?』


「また村まで頼む」


『行く』


「今度は手紙じゃないぞ」


『分かってる』


 岳へ跨がる。


 西門の前には、荷を預けたギルド職員と兵士が数人立っていた。


 その中の一人が、岳の両脇に固定された荷を見て呟く。


「本当に空を使って村へ物を送れるんだな」


 俺にも聞こえた。


 昨日までなら、俺も同じことを思ったかもしれない。


 橋が落ちても。


 道が崩れても。


 地上が塞がれても。


 空までは塞がらない。


「岳、行こう」


『今度は荷物だけだな』


「文句あるか?」


『こっちの方が楽だ』


「だろうな」


 翼が広がる。


 風が起こる。


 瑠璃が一足先に舞い上がった。


 俺たちもその後を追う。


 眼下には、リーベルから北へ続く街道が伸びている。


 途中で、その道は土砂に消える。


 だが、その先にも人は暮らしている。


 道がなくなったからといって、繋がりまで切れる必要はない。


 俺たちが飛べるなら。


 空を、新しい道にすればいい。




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YouTubeでショート動画作ってみました


https://youtube.com/shorts/spSkAdkT0sE?si=_5PpM7nCYZM6czxo

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