第16話 鉤翼蜥の巣を潰せ
翌朝、リーベルの冒険者ギルドへ入ると、ミラは俺を見るなり手招きした。
「ちょうどよかった。鉤翼蜥の件、討伐隊が決まったわ」
「早いですね」
「街道のすぐ近くに巣があるんでしょう? 商人組合からも早く何とかしてくれって話が来てる」
昨日、東街道を見回っている最中に三頭の鉤翼蜥が荷馬車を襲った。
二頭は岳と俺で仕留めたが、一頭には逃げられている。
瑠璃に追わせた結果、街道からそれほど離れていない岩場に巣があり、大きな個体が二頭、小さい個体が二頭いることまで分かった。
あのままでは、また荷馬車が狙われる。
「俺たちは何を?」
「巣までの案内と上空からの確認。討伐そのものはC級の四人組に頼んであるわ」
「俺、昨日E級になったばかりですもんね」
「そういうこと。鉤翼蜥が一、二頭ならともかく、巣を潰す依頼にE級一人を放り込んだら、こっちの管理を疑われるわ」
「岳がいても?」
「岳が強いことと、あなたの階級は別」
筋は通っている。
「ただし」
ミラが俺を見る。
「向こうも、あなたたちの空からの偵察は使いたいと言ってる。巣の場所を見つけたのも瑠璃だしね」
「なら十分です」
何でも俺たちだけで片づける必要はない。
むしろ、知らない魔獣の巣へ突っ込むなら、その土地の冒険者と組んだ方がいい。
「それと、念のため確認しておくけど」
「何です?」
「鉤翼蜥には、例の技能は効かないのよね?」
「効きません。猛禽じゃないので」
肩に止まっていた瑠璃が嘴を少し上げた。
『あれ、嫌い』
「瑠璃も昨日追いかけ回されましたしね」
「何て?」
「鉤翼蜥は嫌いだそうです」
俺が伝えると、ミラは苦笑した。
「それはまあ、そうなるわね」
こうして一度俺の口を通せば話は通じる。
岳や瑠璃の言葉そのものが他の人間へ聞こえているわけじゃない。
◇
討伐へ向かう四人は、全員が俺より明らかに冒険者歴の長そうな男たちだった。
大きな盾と槍を持つ男。
長弓を背負った男。
長槍を持つ男。
腰に剣を下げ、太い縄や鉤付きの道具をまとめて背負った男。
派手な装備ではない。
どれも使い込まれ、革や金具に何度も手入れをした跡がある。
西門の外で岳を見ると、盾持ちの男が感心したように口笛を吹いた。
「噂は聞いてたが、近くで見るとでかいな」
「触るのはやめてくださいね」
「分かってる。お前には懐いてるってだけなんだろ?」
「はい」
『こいつは分かっているな』
岳の声が頭へ響く。
「岳も、その認識で合ってると言ってます」
「今の顔で何か言ったのか?」
「俺にだけ聞こえるんです」
「便利だな」
「便利ですけど、皆さんには直接伝わらないので、戦ってる最中は俺から伝えます」
盾持ちの男が頷いた。
「そこは最初に決めておこう。空から何か見つけても、俺たちはそのグリフォンや蒼冠鷹の声を聞けない。お前が声を出してくれ」
「分かりました」
こういう確認を最初にしてくれる相手は助かる。
瑠璃へも伝える。
「俺たち以外にも四人いる。何か見つけたらまず俺に言ってくれ。俺からあの人たちへ伝える」
『分かった』
「岳も頼む」
『いつも通りだ』
「なら行きましょう」
◇
東街道へ出てからは、俺と岳が空、四人が地上を進んだ。
瑠璃はさらに先へ出る。
歩く四人に合わせる必要はあるが、それでも俺たちだけなら周辺を何度も往復できる。
昨日、鉤翼蜥に襲われていた場所にはすでに死骸がなかった。
ギルドの回収班が運んだらしい。
街道脇に乾いた血の跡だけが残っている。
そこから東へ進み、例の岩場が近づいたところで、瑠璃が戻ってきた。
『いる』
「何頭だ?」
『大きいの、一つ。小さいの二つ』
「もう一頭は?」
『いない』
「分かった」
岳へ高度を落としてもらい、地上の四人の近くへ降りる。
「巣にいるのは大きいのが一頭、小さいのが二頭です。昨日いたもう一頭は見当たりません」
長弓の男が空を見る。
「狩りに出てる可能性があるな」
「俺もそう思います」
盾持ちの男が岩場の方角を見た。
「一頭いないまま巣へ踏み込むのは嫌だな。戻ってきた奴に背後を取られる」
「瑠璃を上に残します。戻ってくれば分かります」
「頼めるか?」
「大丈夫です」
俺は瑠璃を見上げる。
「東側を広く見てくれ。さっきいなかった大きい奴が戻ってきたら、すぐ知らせてくれ」
『分かった』
灰白色の翼が広がり、瑠璃が高度を上げた。
その姿を見送ってから、今度は岳へ目を向ける。
「俺たちも上から巣の形を見てくる」
『乗れ』
「頼む」
◇
鉤翼蜥の巣は、切り立った岩壁の中腹にあった。
地上から見上げるだけでは分かりにくいが、上からなら形がよく見える。
岩壁の途中に横へ長い棚があり、その奥が浅い洞穴になっている。
周囲には枝や枯れ草。
獲物だったらしい骨。
大きな鉤翼蜥が一頭、岩棚の端で身体を丸めている。
その奥に、昨日「小さい」と聞いた二頭がいた。
「……小さいって言っても、結構でかいな」
人間よりは明らかに大きい。
成体より一回り以上小さいだけで、もう自力で飛べそうな翼を持っている。
『飛べる』
岳が言った。
「分かるか?」
『翼の使い方を知っている身体だ』
「なら、雛って感じじゃないな」
巣立ち前か、若い個体と考えた方がよさそうだ。
岳が岩壁から距離を取る。
成体がこちらに気づいた。
首を持ち上げ、細長い口を開く。
こちらを警戒している。
「近づきすぎるな」
『あれくらいなら問題ない』
「問題が起きてからじゃ遅い」
『分かっている』
巣の下を見る。
岩壁の正面には、木の少ない乾いた沢筋がある。
十分な広さがある。
「岳、あそこへ降りよう」
◇
地上へ戻り、見たものを四人へ説明する。
地面へ棒で岩壁と沢筋の位置を描いた。
「巣は中腹の岩棚です。成体が一頭。若いのが二頭。若い方も飛べると岳が見ています」
「なら三頭とも戦力として考えるべきだな」
盾持ちの男が即座に判断した。
長弓の男が岩壁を見上げる。
「登るのは悪手だ。上から襲われながらあの壁は登れん」
「俺もそう思います」
「グリフォンで巣へ直接行けるか?」
「行けます。ただ、俺を乗せたまま岩棚の前で三頭とやり合うのは避けたいです」
「それでいい。空で戦える奴を、こっちの都合で荷運びみたいに使う必要はない」
話が早い。
俺は地面の沢筋を指した。
「岳に成体を引っ張ってもらうのはどうです? 開けたところまで出せれば、弓も槍も使える」
「巣を守ってる奴がどこまで追うかだな」
『追う』
岳が言った。
もちろん四人には聞こえない。
「岳は追ってくると思うそうです」
「理由は?」
「自分が近づけば、たぶん向こうから来ると」
『昨日も来た』
「昨日も鉤翼蜥の方から岳へ攻撃してきてます」
盾持ちの男が少し考えた。
「やってみる価値はある。ただし、岳が無理に組みつく必要はない。追わせるだけでいい」
「俺もそのつもりです」
「若い二頭が一緒に出た場合は?」
「それも上から俺が知らせます」
役割が決まる。
四人は沢筋に展開。
俺は地上で弓を使う。
岳が成体を誘い出す。
瑠璃は上空から周辺監視。
巣の外へ出ているもう一頭が戻れば、瑠璃が俺へ知らせる。
そして俺が人間側へ伝える。
単純だ。
こういう時は単純な方がいい。
◇
岳が飛び上がる。
俺は沢筋の岩陰に入り、矢筒の位置を直した。
長弓の男は二十メートルほど離れた場所。
盾と長槍の二人は前。
残る一人が予備の槍と縄を持ち、少し後ろへ立つ。
空を見る。
岳が岩壁へ向かう。
成体の鉤翼蜥が立ち上がった。
翼を広げる。
岳は巣の正面を一度横切った。
「ギャアアッ!」
声が岩壁へ響く。
鉤翼蜥が飛び出した。
「一頭出ました!」
俺が叫ぶ。
岳は戦わず、そのまま沢筋へ向かう。
鉤翼蜥が追う。
速い。
だが岳の方が速い。
追いつけそうで追いつけない距離を保ったまま、岳がこちらへ引いてくる。
長弓の男が弦を引いた。
「まだだ」
盾持ちの男が制する。
高度が高い。
岳が沢筋の上まで来た。
そこから一気に降下する。
鉤翼蜥も釣られて下がった。
「今!」
弓弦の音がした。
長弓から放たれた矢が、鉤翼蜥の翼膜を貫く。
俺も射る。
狙うのは翼の付け根。
矢が刺さった。
鉤翼蜥の姿勢が崩れる。
完全には落ちない。
それでも高度は保てなくなった。
「下がれ!」
盾持ちの声。
鉤翼蜥が沢底へ突っ込む。
土と小石が弾けた。
すぐに立ち上がろうとする。
長槍の男が走った。
鉤翼蜥が口を開く。
盾が前へ出る。
牙が木と金属を擦った。
次の瞬間、横から長槍が喉元へ突き込まれた。
巨体が暴れる。
「離れろ!」
二人が下がる。
俺と長弓の男が続けて矢を射る。
一本が胸。
もう一本が首の根元。
鉤翼蜥が数歩よろめき、その場へ崩れた。
「まず一頭!」
声を上げた直後だった。
『隼人!』
瑠璃。
「どうした!」
『戻ってくる! 東から大きいの!』
俺はすぐ人間側へ叫ぶ。
「もう一頭戻ってきます! 東から!」
四人全員の顔が上がる。
「どれくらいだ!」
盾持ちの男に訊かれ、俺は瑠璃へ聞き返す。
「瑠璃、近いか?」
『近い。すぐ来る』
「すぐ来ます!」
「全員、岩陰から離れろ! 上を見ろ!」
さっき倒した一頭に気を取られていたら、背後から襲われていた。
瑠璃を上に残した意味があった。
『見えた』
「どっちだ?」
『右!』
「右から来ます!」
木々の上に黒い影が現れた。
昨日逃げた個体かもしれない。
こちらを見るなり、鳴き声を上げる。
倒れた仲間。
巣の近くにいる人間。
それだけで十分だったらしい。
鉤翼蜥が翼を畳んだ。
「来るぞ!」
今度は岳が横から入った。
飛び込んでくる鉤翼蜥へ真正面から向かわず、側面から肩口を蹴るように爪を当てる。
軌道がずれた。
地上すれすれを鉤翼蜥が通過する。
「今だ!」
四人が動く。
盾持ちが正面を塞ぎ、左右から二本の槍。
俺と長弓が後ろから射る。
鉤翼蜥は翼を広げ直そうとしたが、一度地上へ降りた巨体が狭い沢筋ですぐ飛び立てるわけではない。
岳が上空にいる。
逃げ道も限られていた。
矢が翼膜へ入る。
槍が脇腹へ刺さる。
鉤翼蜥が尾を振り回し、長槍の男を狙った。
「下がれ!」
盾が間へ滑り込む。
激しい音。
男ごと盾が押し戻されたが、倒れない。
その隙に岳が後ろから鉤翼蜥の背へ降りた。
『終わらせる』
「岳、首だ!」
嘴が首筋へ振り下ろされる。
一度。
二度。
鉤翼蜥の動きが止まった。
◇
「二頭とも片づいたな」
盾持ちの男が息を整えながら言った。
「まだ巣に二頭います」
「ああ」
上空を見る。
「瑠璃、周りに他の鉤翼蜥は?」
『見えない』
「分かった。しばらくそのまま見ててくれ」
『分かった』
俺は四人へ伝える。
「今のところ、周辺に他の個体は見えないそうです」
「なら巣へ行くか」
岩壁を見上げる。
残っている二頭は若いとはいえ飛べる。
追い詰めれば当然こちらへ向かってくるだろう。
「俺と岳が先に上から見ます」
「頼む。ただ、無理に巣へ降りるな」
「分かってます」
岳の背へ乗る。
再び上がる。
岩棚へ近づいたところで、二頭の若い鉤翼蜥が同時に立ち上がった。
『来る』
「分かってる」
成体ほど大きくはない。
だが翼を広げれば、人間よりはるかに大きい。
一頭が岩棚から飛び出した。
岳がかわす。
もう一頭も続く。
「両方出た!」
下へ声を張る。
沢筋にいる四人が散開するのが見えた。
「岳、さっきと同じだ。下まで引く」
『分かった』
若い二頭は経験が浅いのか、成体以上に迷いなく岳を追ってきた。
速さは明らかに劣る。
岳が距離を調整しながら下降する。
一頭目が低くなった。
地上から矢が飛ぶ。
翼を射抜く。
二頭目は驚いて上へ逃げようとした。
「岳、そっち!」
『任せろ』
進路を塞ぐように岳が回り込む。
逃げ場を失った鉤翼蜥が旋回した。
そこへ俺は矢を番え――やめた。
岳の背からでは揺れが大きい。
無理に撃って岳へ当てたら話にならない。
「下りる!」
少し離れた場所へ岳が降りる。
俺は飛び降り、地上から弓を構えた。
若い鉤翼蜥が再び低くなる。
狙う。
放つ。
矢が翼の根元へ刺さった。
高度が落ちる。
あとは地上の四人が逃さなかった。
もう一頭も同じだった。
成体より小さいとはいえ、すでに家畜や人間を襲える大きさだ。
街道のすぐ横に巣を残すわけにはいかない。
戦いが終わった頃には、沢筋に四頭の鉤翼蜥が横たわっていた。
◇
巣へ上がる時は、岳を使わなかった。
地上の四人が持ってきた縄と鉤を使い、登れる場所から一人ずつ岩棚へ上がる。
俺も後から続いた。
足場は悪いが、山で動くこと自体には慣れている。
「本当にここだな」
岩棚の奥には、枝と枯れ草を重ねた巣があった。
周囲には大量の骨。
小型の獣。
鳥。
それに馬角獣と思われる太い脚の骨も混じっている。
長槍の男がしゃがみ込んだ。
「かなり食ってるな」
「巣は古いんですか?」
縄を扱っていた男が、枯れ枝の下を調べる。
「いや。新しい」
「分かるんです?」
「古い巣なら糞も羽膜の破片も、もっと何層にも溜まる。こいつは最近作った巣だ」
「じゃあ、やっぱり東から移ってきたのか」
「だろうな」
なぜ移ってきたかまでは分からない。
餌場の変化かもしれない。
縄張り争いかもしれない。
単に巣を作るのに都合がよかっただけかもしれない。
分からないものを無理に決めつける必要はない。
「巣は崩すぞ」
盾持ちの男が言った。
「また別の鉤翼蜥に使われたら面倒だ」
「手伝います」
枯れ枝を外へ運び、巣の材料を岩棚から落とす。
最後に、奥へ溜まっていた骨も確認した。
人骨らしいものはない。
少なくとも、ここへ来た個体が人間を食った痕跡は見つからなかった。
だからといって放置していい理由にはならないが、街道で犠牲が出る前に見つけられたのは大きい。
全て終える頃には、昼をかなり過ぎていた。
◇
リーベルへ戻ると、ミラは報告を最後まで聞いてから大きく息を吐いた。
「四頭全部討伐。巣も撤去。周辺に他の個体は確認できず、ね」
「はい」
「怪我人は?」
「いません」
「本当に?」
「全員無傷です。盾の人が一度押されましたけど、それだけでした」
「なら上出来」
討伐隊の四人も口々に報告する。
「空から見てもらえるのが思った以上にでかかった」
「戻ってきた成体を先に見つけてもらえなかったら、危なかったぞ」
「巣から引っ張り出せたのも楽だった」
ミラが俺を見る。
「だそうよ」
「岳と瑠璃のおかげです」
肩にいる瑠璃が首を上げる。
『私、見つけた』
「瑠璃は、自分が見つけたって言ってます」
俺が伝えると、長弓の男が笑った。
「そこは本人にちゃんと伝えてくれ。助かったってな」
「瑠璃、助かったって」
『知ってる』
「……本人は分かってるそうです」
「自信あるな、その鳥」
「最近ちょっと増してますね」
『いいこと』
俺にだけ聞こえた声へ、思わず苦笑する。
四人には内容までは分からない。
ミラが書類へ討伐完了の印を入れた。
「これで東街道の件は一旦解決。商人組合には、継続監視を正式に依頼するよう話しておくわ」
「決まりですか?」
「今日の結果を見て、やめる理由がないでしょう」
確かに。
昨日の見回りで荷馬車を助け、巣を発見した。
今日、その情報を使って被害を出さずに巣を潰した。
空から先に見つける意味は、十分示せたと思う。
「報酬は?」
「昨日の二頭分と、今日の案内・偵察分。それに討伐参加分も出るわ」
「結構ありますね」
「命を張る仕事なんだから当然よ」
受け取った袋には、思ったより重みがあった。
これなら食料だけじゃなく、小屋の修理に回せる。
◇
その日の帰り、俺は材木屋へ寄った。
屋根の補修用の板。
太めの角材。
釘。
油を染み込ませた防水用の布。
一度に全部を直せるほどではないが、必要なものから揃えていく。
狩人小屋へ運ぶ分については、翌日荷車で近くまで届けてもらえることになった。
西門を出る。
岳が待っていた。
『買ったのか』
「ああ」
『肉は』
「それも買った」
『ならいい』
「お前、本当にそこだけは確認が早いな」
瑠璃が飛んでくる。
『私の場所は?』
「屋根を直してからだ」
『私の屋根』
「俺の家の屋根だよ」
『私も使う』
「それは知ってる」
岳の背へ跨がる。
狩人小屋へ向かって飛びながら、頭の中で簡単な形を考える。
小屋の横に屋根を延ばす。
岳が雨を避けて伏せられる程度の広さ。
地面には水が溜まらないよう少し手を入れる。
瑠璃には屋根の高いところへ止まり木を作ってもいい。
銀嶺が遊びに来ても、外なら場所はある。
全部一度にやるつもりはない。
必要になったものから作ればいい。
異世界へ来た直後は、今夜眠れる場所があるかどうかだけを考えていた。
今は、その寝床を少し先まで使える場所に変えようとしている。
それだけでも随分違う。
『隼人』
「ん?」
『家、大きくするのか』
岳が前を向いたまま訊いた。
「少しずつな」
『俺の場所も作ると言った』
「ああ。作るよ」
『なら手伝う』
「何するんだ?」
『運ぶ』
思わず笑った。
「それは助かる」
大きな角材なら、人間一人で運ぶより岳に頼んだ方が早い。
空を飛ぶことだけが、岳の力じゃない。
『私も手伝う』
瑠璃が横から入る。
「お前は何を運ぶ?」
『釘』
「それは嘴で運ばなくていい」
『できる』
「落としたら探すの俺なんだよ」
瑠璃は納得していない顔をしている。
岳の翼がゆっくりと上下する。
下には森。
その先には、俺たちが使い始めた狩人小屋がある。
仕事が増えた。
知り合いも増えた。
帰る場所も、少しずつ形になってきた。
この世界でどう暮らすか。
ようやく「生き延びる」だけじゃなく、その先を考えられるようになっていた。




