第15話 空にも敵はいる
翌朝、俺は岳と瑠璃を連れてリーベルの冒険者ギルドへ向かった。
銀嶺は高原へ戻っている。
会いたくなればまた来ると言っていたし、こっちから無理に呼ぶつもりもない。
岳は西門の外で待機し、瑠璃だけが俺の肩に乗ってギルドへ入る。
受付にいたミラは、俺を見るなり一枚の紙を差し出した。
「早速だけど、商人組合から依頼が来てるわ」
「昨日の話ですか?」
「ええ。まずは試しに一度、東街道を見てきてほしいって」
紙を受け取る。
東街道はリーベルから東へ延び、途中で採石場へ向かう道と、いくつかの集落へ向かう道に分かれている。
昨日までに大きな雨は降っていない。
荷馬車の遅れもない。
それでも、街道沿いの斜面に崩れかけている場所がないか、倒木がないか、魔獣が居着いていないかを一度空から見てほしいという話だった。
「何もなければ、それで終わりですか?」
「それでいいそうよ。むしろ何もないと分かることに金を払う仕事ね」
「なるほど」
俺としても分かりやすい。
遭難者や行方不明の荷馬車が出てから探すのではなく、先に危険を見つける。
山では、その方がよほど安上がりだ。
「範囲は?」
「ここから採石場への分岐まで。その先は今日は見なくていいわ」
地図で距離を確認する。
岳なら往復しても大した距離ではない。
「分かりました」
「あと、街道上の荷馬車に何か知らせる必要が出たら、ちゃんと降りて伝えてね。上から叫んでも風で聞こえないでしょうから」
「そのつもりです」
「瑠璃を使う時も同じよね?」
「瑠璃の言葉が分かるのは俺だけです。人へ伝える時は、俺から話します」
肩の瑠璃がこちらを見る。
『私は見つける』
「そうだな。見つける方を頼む」
ミラには瑠璃の声は聞こえていない。
ただ、俺が返事をしたのを見て少し笑った。
「もうその光景にも慣れてきたわ」
「俺もこっちでは普通になってきました」
「町の人にはまだ普通じゃないからね」
そこは忘れない方がいい。
◇
西門を出ると、岳は草地に伏せて待っていた。
『仕事か』
「ああ。東の街道を見て回る」
『飛ぶのか』
「飛ばなかったら俺たちが行く意味がないだろ」
『それもそうだ』
騎乗具を確認する。
腹帯。
安全帯。
革輪。
翼の付け根に擦れている場所がないかも見る。
岳の身体が大きくなってから、まだそれほど長くは経っていない。
騎乗にも慣れてきたとはいえ、道具を付けっぱなしにして皮膚を痛めれば、飛べるものも飛べなくなる。
「問題なし」
『分かっている』
「確認するのが俺の仕事だ」
『昔から変わらんな』
「お前もな」
岳の背へ跨がる。
瑠璃が先に舞い上がった。
「瑠璃、今日は街道の左右も広めに見てくれ。倒木、崩れた斜面、大型の魔獣。気になるものがあったらすぐ知らせてくれ」
『分かった』
「岳は街道に沿って東へ」
『行くぞ』
翼が大きく開く。
地面を蹴った瞬間、身体が持ち上がった。
慣れてきたとはいえ、やはりこの感覚は徒歩とは別物だ。
森を抜けるのに何十分も掛かる距離が、上からなら数分で過ぎていく。
街道は朝の光の中を細長く東へ伸びていた。
荷馬車が二台。
徒歩の旅人が数人。
遠くには畑と牧草地。
今のところ、異常はない。
「これだけ見通せるなら、確かに仕事になるな」
『前から見えていた』
「俺はお前の背に乗れなかったんだよ」
『今は乗れる』
「ああ」
それが大きい。
◇
街道の半分ほどまで来たところで、瑠璃が右へ大きく逸れた。
高度を上げ、森の向こうへ回る。
『隼人』
「何かあったか?」
『荷車が三つ。止まってる』
「街道の上か?」
『うん。動物が騒いでる』
「他には?」
少し間があった。
『空にいる』
「何が?」
『鳥じゃない。大きいのが三つ』
俺は岳の首元へ手を置く。
「岳、瑠璃の方へ」
『もう見えている』
進路が変わる。
間もなく、街道の先に三台の荷馬車が見えた。
停まっている。
荷馬車を引く馬角獣が頭を振り、御者たちが必死に押さえている。
その上空には黒い影が三つ旋回していた。
最初は大きな鳥に見えた。
だが、近づくほど違いがはっきりする。
羽毛はない。
細長い胴に長い尾。
翼は鳥のものではなく、前脚から脇腹へ薄い膜を張ったような形をしている。
「飛ぶ蜥蜴みたいだな」
そのうちの一頭が翼を畳んだ。
真下の荷馬車へ落ちていく。
「岳、急げ!」
『分かった』
岳が翼を絞る。
風が一気に強くなり、俺は革輪を握った。
狙っているのは人じゃない。
荷馬車を引く馬角獣だ。
大きく開いた口の奥に、細い牙が並んでいる。
もう少しで届く。
その直前、岳が横から突っ込んだ。
前脚が飛ぶ魔獣の胴へ叩き込まれる。
空中で身体が弾けるように回った。
「ギャアッ!」
甲高い声が響く。
岳はそのまま組みつかず、すぐに離れた。
『軽い』
「でも牙はある。噛まれるな」
『分かっている』
残り二頭がこちらへ向きを変える。
そこで改めて分かる。
何も感じない。
岳や瑠璃。
ロック鳥や銀嶺に近づいた時に感じたような、向こうから寄ってくる感覚がまったくない。
当然だ。
こいつらは猛禽ではない。
俺の《猛禽寵愛》とは無関係の魔獣だ。
『来る』
瑠璃の声。
振り向く。
一頭が瑠璃を追っていた。
「瑠璃、上へ逃げろ! 相手するな!」
『分かった』
瑠璃が翼を強く打ち、急角度で高度を取る。
飛ぶ魔獣も追う。
速度そのものは瑠璃の方が上らしい。
だが、相手は体格が何倍もある。
「岳、あいつを止める」
『行く』
「俺を一度下ろしてくれ」
『俺だけでやれる』
「分かってる。でも三頭いる。俺も下から撃った方がいい」
街道脇に岩の露出した小さな高台がある。
岳がそこへ降りた。
着地と同時に安全帯を外す。
「瑠璃、岳の近くまで引いてこい。ただし低くなりすぎるな」
『分かった』
弓を外す。
矢を一本抜く。
瑠璃が大きく円を描きながら戻ってくる。
その後ろから飛ぶ魔獣。
岳は地面を蹴り、再び飛び上がった。
俺は弓を構える。
空を飛ぶ相手を撃つのは、地上の獲物を撃つより厄介だ。
距離だけでは足りない。
速度も方向も変わる。
今の俺に、岳の背から当てる自信はない。
だから地上へ降りた。
瑠璃が頭上を抜ける。
追ってきた個体が翼を傾けた。
一瞬だけ腹が見えた。
放つ。
矢が翼の付け根へ刺さった。
「ギャッ!」
飛ぶ姿勢が崩れる。
片翼が十分に開かない。
そこへ岳が上から襲いかかった。
前脚の爪が背へ食い込む。
そのまま地面へ押し落とした。
土煙が上がる。
「岳、離れろ!」
岳は即座に飛び退いた。
魔獣はまだ動いている。
長い尾が地面を叩き、口を大きく開く。
二本目の矢。
首の付け根へ入った。
動きが鈍る。
三本目。
今度は胸。
数度痙攣したあと、動かなくなった。
『一つ』
「あと二つ」
空を見る。
一頭は荷馬車の周囲を旋回。
もう一頭は、最初に岳へ弾かれた個体だ。
こちらも飛び直している。
「瑠璃!」
『見てる』
「二頭の位置を教えてくれ」
『岳の上に一つ。荷車の後ろに一つ』
「岳、上!」
俺の声より早く、岳は身体を横へ捻った。
頭上から爪が空を切る。
飛ぶ魔獣がすれ違う。
『遅い』
「油断するな」
岳が追う。
速度では岳が上だ。
相手が木の上ぎりぎりまで高度を落とす。
岳も追いかける。
俺はそちらを見続けず、荷馬車側へ視線を移した。
もう一頭が低い。
馬角獣へ飛びかかろうとしている。
「まずいな」
ここからでは少し遠い。
街道へ向かって走る。
向こうでも御者たちが棒や短槍を持っているが、馬角獣を押さえながらでは満足に動けない。
魔獣が降りる。
『隼人、左!』
瑠璃の声。
俺は走りながら左を見る。
街道沿いに小さな盛り土。
そこへ上がれば角度が取れる。
「助かる!」
土を蹴って登る。
魔獣が馬角獣へ脚を伸ばした。
弓を引く。
狙える時間は短い。
翼ではなく胴。
放す。
矢が脇腹へ刺さった。
魔獣が身体を振る。
降下をやめた。
「もう一発!」
二本目を番える。
今度はこちらへ向いた。
来る。
「そっちの方が狙いやすい」
飛び上がったまま、真正面から突っ込んでくる。
口が開く。
距離が縮む。
放つ。
矢は胸へ入った。
軌道が僅かに逸れる。
俺の頭上を通過し、街道脇へ落ちた。
地面を滑りながら尾を振る。
すぐには死なない。
俺は次の矢を取る。
その時、頭上で大きな羽音がした。
岳だ。
最後の一頭を追い払ったらしく、こちらへ戻ってくる。
地上の魔獣へそのまま降下した。
爪が首を押さえる。
嘴が一度だけ振り下ろされた。
動かなくなった。
「終わったか?」
『もう一つは逃げた』
「怪我は?」
『ない』
「瑠璃は?」
『ここ』
上を見る。
瑠璃が俺のすぐ上を旋回している。
「怪我ないか?」
『ない』
「よし」
それを確認して、ようやく息を吐いた。
◇
荷馬車へ近づくと、三人の男がこちらを見ていた。
一人は短槍を持った護衛。
残り二人は御者らしい。
「大丈夫ですか!」
「あ、ああ!」
年上の御者が馬角獣の手綱を握ったまま答える。
「助かった。いきなり上から来やがった」
「怪我人は?」
「いない。馬角獣も噛まれてない」
それなら間に合った。
護衛が倒れた魔獣へ近づき、首や翼を見てから口を開いた。
「鉤翼蜥だ」
「鉤翼蜥?」
「ああ。ワイバーンとは別物だ。もっと小さくて、岩場に巣を作る飛行魔獣だな。二、三頭ならD級扱いだが、家畜を狙って上から来られると厄介だ」
なるほど。
見た目だけなら小型の竜種にも見えるが、分類自体が違うらしい。
「この辺りにいるのは珍しいんですか?」
「俺は街道護衛を何度もやってるが、ここで見たのは初めてだ。普段はもっと東の岩場にいる」
なら、追い払って終わりにしない方がいい。
突然ここへ来た理由がある。
俺は頭上の瑠璃を見る。
「瑠璃、逃げた一頭がどっちへ行ったか分かるか?」
『東の岩』
「岩場?」
『高い壁。穴がある』
「一度見てきてくれるか? 他にもいるなら近づきすぎなくていい。数だけ見て戻ってくれ」
『分かった』
瑠璃が東へ飛んでいく。
護衛が空を見上げた。
「今の蒼冠鷹も、お前の仲間か?」
「瑠璃って名前です。俺とは意思疎通できます」
「何か頼んだのか?」
「逃げた鉤翼蜥が向かった先を見てもらってます。近くに巣があるなら、街道でまた襲われるかもしれないので」
「なるほどな」
人間には瑠璃の声は聞こえない。
だから、必要なことだけ俺から伝える。
護衛はもう一度、瑠璃が消えた方角を見た。
「空から探せるってのは便利なんてもんじゃないな」
「今日はそれが仕事ですから」
「街道の見回りって話か?」
「試しに頼まれました」
「だったら大当たりだ。見回りがなかったら、馬角獣を一頭は持っていかれてた」
御者が真顔で頷く。
「一頭どころか、こいつらが暴れて荷馬車ごとひっくり返ってたかもしれん」
俺は馬角獣を見る。
まだ落ち着かない。
だが立っている。
荷も無事だ。
何か起きてから探すより、先に見つける。
ギルドで考えた通りだった。
◇
しばらくして瑠璃が戻ってきた。
『いた』
「何頭?」
『いっぱいじゃない。四つ』
「大きさは?」
『大きいのが二つ。小さいのが二つ』
「穴の中か?」
『岩の棚。骨もある』
「分かった。ありがとう」
護衛たちが俺を見る。
俺は内容をそのまま伝えた。
「東の岩場に巣らしい場所があります。大きいのが二頭、小さいのが二頭。食べた獲物の骨もあるみたいです」
護衛の表情が険しくなる。
「最低でもあと二頭成体がいるのか」
「さっき逃げた一頭が入ってるなら、そうですね」
「なら俺たちだけでどうこうする話じゃない」
「場所をギルドへ報告します。しばらくはこの辺りを通る時、上を警戒した方がいいです」
「そうさせてもらう」
御者の一人が倒した鉤翼蜥を見る。
「こいつらはどうする?」
「俺たちは見回りの途中なので、持って帰るのは無理です」
「なら街道脇へ寄せておく。場所が分かればギルドが回収するだろう」
「お願いします」
俺たちは二頭の死骸を通行の邪魔にならない場所へ移した。
岳ならもっと簡単に運べるだろうが、無理に持ち帰る必要はない。
大事なのは巣の位置だ。
「岳、もう一度上がるぞ」
『仕事は終わりではないのか』
「まだ採石場の分岐まで見てない」
『真面目だな』
「金もらってるからな」
『なら仕方ない』
岳が伏せる。
騎乗具へ跨がった俺を見て、御者が苦笑した。
「そのグリフォン、ずいぶん話が分かるんだな」
「今、仕事がまだ終わってないって話をしてたところです」
「何て?」
「金をもらってるなら仕方ないって」
御者たちが笑った。
「そいつ、俺たちより仕事を分かってるかもしれんな」
岳にはその言葉自体は聞こえているが、こちらの会話の細かな意味までは分からない。
『何を笑っている』
「褒められてる」
『ならいい』
「そこは分かるのか」
岳が地面を蹴る。
荷馬車が小さくなっていく。
瑠璃も横へ並んだ。
◇
その先では大きな異常はなかった。
斜面が一か所、雨が続けば崩れそうになっている。
路肩近くに倒れかけた木が一本。
採石場への分岐まで確認し、地形を頭へ入れる。
帰りには、鉤翼蜥の巣があるという岩場も上空から確認した。
岳では近づきすぎない。
相手が何頭いるか正確には分からないし、巣を守る魔獣へわざわざ喧嘩を売る必要もない。
瑠璃が教えた通り、岩棚には大きな影が見えた。
街道からそれほど遠くない。
放置すれば、また荷馬車が狙われるだろう。
「場所は分かった。帰ろう」
『倒さないのか』
「今は見回りの仕事だ。巣を潰すなら、人員とやり方を決めてからでいい」
『分かった』
岳は素直に進路を西へ変えた。
危険を見つけたからといって、全部その場で俺たちが片づける必要はない。
人間の町には、人間の仕組みがある。
俺がやるべきなのは、自分たちにしかできないところをやることだ。
◇
昼を少し過ぎた頃、リーベルへ戻った。
西門の兵士たちは岳を見ても騒がない。
騎乗具を見て俺が乗っていることまで確認すると、そのまま門前の場所を空けてくれた。
岳を外へ残し、俺と瑠璃はギルドへ入る。
ミラへ地図を返す。
「異常ありました」
「その言い方だと、結構ありそうね」
「鉤翼蜥が街道の荷馬車を襲ってました」
「鉤翼蜥?」
ミラの顔から軽さが消える。
「何頭?」
「三頭が荷馬車を襲ってました。二頭は俺と岳で倒して、一頭は逃げました」
「怪我人は?」
「なし。馬角獣も無事です」
「よかった。それで?」
「瑠璃に逃げた個体を追ってもらいました」
肩にいる瑠璃を示す。
「東側の岩場に巣があります。確認できたのは成体らしいのが二頭、小さいのが二頭。逃げた一頭が成体の数に入ってるかもしれません」
「場所は?」
地図へ印を付ける。
「ここです」
ミラが眉を寄せた。
「街道に近いわね」
「はい。あのままだと、また荷馬車が狙われると思います」
「討伐依頼を出す。鉤翼蜥なら複数人の組を回した方がいいわ」
「俺たちは?」
「今日はもういい。あなたの依頼は街道の確認なんだから、巣を見つけた時点で十分」
「なら、もう一つ。ここは斜面が緩んでます」
別の場所を指す。
「それと、この辺りに倒れかけた木があります。今すぐ街道を塞ぐ状態じゃないですけど、次に強い雨が来たら危ないかもしれません」
ミラが一つずつ書き込んでいく。
「分かった。道路管理の方へ回す」
「他は問題ありませんでした」
ミラが少し黙った。
それから、俺を見る。
「これ、商人組合が喜ぶわね」
「鉤翼蜥が出たのに?」
「出たからよ。荷馬車が襲われて死人が出てから見つかるのと、見回りの初日に巣まで見つけるのとじゃ全然違うでしょう」
「ああ、そういう意味ですか」
「試しどころか、継続決定になると思う」
机の上へ硬貨が置かれる。
「今日の依頼料。それと鉤翼蜥二頭の討伐分は確認後に追加。素材が回収できれば、その取り分もね」
「結構入るんですね」
「命の危険があった分は当然よ。それから、荷馬車を助けた商人側からも謝礼が出るかもしれない」
予想より早く、この世界で稼ぐ手段が形になり始めている。
狩りだけでも生きてはいける。
だが、それだけじゃない。
岳が飛べる。
瑠璃が見つけられる。
俺が山と地形を見て判断できる。
その組み合わせ自体に値段が付く。
「この分なら、小屋の修理も少し進められそうだな」
つい口にすると、ミラが笑った。
「まだ雨漏りしてるの?」
「ひどいところは塞ぎました。でも屋根も壁も、ちゃんと直すなら材料が要ります」
「岳の寝る場所もいるんじゃない?」
「それも考えてます。小屋の中には入れないので」
雨風を避けられる簡単な庇くらいは作ってやりたい。
瑠璃が俺の肩から机の端へ移る。
『私の場所も』
「お前は屋根に勝手に場所作ってるだろ」
ミラが俺を見る。
「瑠璃、何か言った?」
「自分の場所も欲しいそうです」
「やっぱり会話できる家が必要なんじゃない?」
「そこまで大げさなものを建てる金はまだないですよ」
『大きいの』
「要求だけ増やすな」
ミラには内容が分からないので、俺の返事を聞いて笑っているだけだ。
「そのうち狩人小屋じゃなくて、猛禽小屋になりそうね」
「それは困ります」
俺が住む場所がなくなる。
◇
ギルドを出ると、岳が西門の外で待っていた。
『遅い』
「報告してたんだよ」
『飯は』
「帰ってからだ」
『それは昨日も聞いた』
「毎日飯は食うだろ」
『当然だ』
騎乗具へ手を掛ける。
「でも、今日は少し稼げた。材料も買える」
『肉もか』
「まず小屋を直す」
『肉は』
「買うって」
『ならいい』
瑠璃が横から飛び上がる。
『私も』
「分かってる。二頭ともだ」
岳の背へ跨がる。
翼が開いた。
地面を離れ、リーベルの城壁が下へ沈んでいく。
東には、さっきまで見回っていた街道が細く伸びていた。
空を飛べるから安全なわけじゃない。
空にも、こっちを獲物として見る奴はいる。
《猛禽寵愛》が通じない相手も、当然いる。
それでも、地上だけでは見えない危険を先に見つけられる。
今日助かった荷馬車が、その答えだった。
鷹匠だった俺が、異世界で何をして生きていくのか。
少しずつ見えてきた気がする。
岳が翼を大きく打った。
瑠璃がその横を飛ぶ。
俺たちは狩人小屋へ向かって、午後の空を西へ進んだ。




