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『長野の鷹匠、愛鷹と異世界転移したらグリフォンになっていた ~スキル《猛禽寵愛》でロック鳥もヒポグリフも俺に懐く~』  作者: あちゅ和尚


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15/31

第15話 空にも敵はいる

 翌朝、俺は岳と瑠璃を連れてリーベルの冒険者ギルドへ向かった。


 銀嶺は高原へ戻っている。


 会いたくなればまた来ると言っていたし、こっちから無理に呼ぶつもりもない。


 岳は西門の外で待機し、瑠璃だけが俺の肩に乗ってギルドへ入る。


 受付にいたミラは、俺を見るなり一枚の紙を差し出した。


「早速だけど、商人組合から依頼が来てるわ」


「昨日の話ですか?」


「ええ。まずは試しに一度、東街道を見てきてほしいって」


 紙を受け取る。


 東街道はリーベルから東へ延び、途中で採石場へ向かう道と、いくつかの集落へ向かう道に分かれている。


 昨日までに大きな雨は降っていない。


 荷馬車の遅れもない。


 それでも、街道沿いの斜面に崩れかけている場所がないか、倒木がないか、魔獣が居着いていないかを一度空から見てほしいという話だった。


「何もなければ、それで終わりですか?」


「それでいいそうよ。むしろ何もないと分かることに金を払う仕事ね」


「なるほど」


 俺としても分かりやすい。


 遭難者や行方不明の荷馬車が出てから探すのではなく、先に危険を見つける。


 山では、その方がよほど安上がりだ。


「範囲は?」


「ここから採石場への分岐まで。その先は今日は見なくていいわ」


 地図で距離を確認する。


 岳なら往復しても大した距離ではない。


「分かりました」


「あと、街道上の荷馬車に何か知らせる必要が出たら、ちゃんと降りて伝えてね。上から叫んでも風で聞こえないでしょうから」


「そのつもりです」


「瑠璃を使う時も同じよね?」


「瑠璃の言葉が分かるのは俺だけです。人へ伝える時は、俺から話します」


 肩の瑠璃がこちらを見る。


『私は見つける』


「そうだな。見つける方を頼む」


 ミラには瑠璃の声は聞こえていない。


 ただ、俺が返事をしたのを見て少し笑った。


「もうその光景にも慣れてきたわ」


「俺もこっちでは普通になってきました」


「町の人にはまだ普通じゃないからね」


 そこは忘れない方がいい。


     ◇


 西門を出ると、岳は草地に伏せて待っていた。


『仕事か』


「ああ。東の街道を見て回る」


『飛ぶのか』


「飛ばなかったら俺たちが行く意味がないだろ」


『それもそうだ』


 騎乗具を確認する。


 腹帯。


 安全帯。


 革輪。


 翼の付け根に擦れている場所がないかも見る。


 岳の身体が大きくなってから、まだそれほど長くは経っていない。


 騎乗にも慣れてきたとはいえ、道具を付けっぱなしにして皮膚を痛めれば、飛べるものも飛べなくなる。


「問題なし」


『分かっている』


「確認するのが俺の仕事だ」


『昔から変わらんな』


「お前もな」


 岳の背へ跨がる。


 瑠璃が先に舞い上がった。


「瑠璃、今日は街道の左右も広めに見てくれ。倒木、崩れた斜面、大型の魔獣。気になるものがあったらすぐ知らせてくれ」


『分かった』


「岳は街道に沿って東へ」


『行くぞ』


 翼が大きく開く。


 地面を蹴った瞬間、身体が持ち上がった。


 慣れてきたとはいえ、やはりこの感覚は徒歩とは別物だ。


 森を抜けるのに何十分も掛かる距離が、上からなら数分で過ぎていく。


 街道は朝の光の中を細長く東へ伸びていた。


 荷馬車が二台。


 徒歩の旅人が数人。


 遠くには畑と牧草地。


 今のところ、異常はない。


「これだけ見通せるなら、確かに仕事になるな」


『前から見えていた』


「俺はお前の背に乗れなかったんだよ」


『今は乗れる』


「ああ」


 それが大きい。


     ◇


 街道の半分ほどまで来たところで、瑠璃が右へ大きく逸れた。


 高度を上げ、森の向こうへ回る。


『隼人』


「何かあったか?」


『荷車が三つ。止まってる』


「街道の上か?」


『うん。動物が騒いでる』


「他には?」


 少し間があった。


『空にいる』


「何が?」


『鳥じゃない。大きいのが三つ』


 俺は岳の首元へ手を置く。


「岳、瑠璃の方へ」


『もう見えている』


 進路が変わる。


 間もなく、街道の先に三台の荷馬車が見えた。


 停まっている。


 荷馬車を引く馬角獣が頭を振り、御者たちが必死に押さえている。


 その上空には黒い影が三つ旋回していた。


 最初は大きな鳥に見えた。


 だが、近づくほど違いがはっきりする。


 羽毛はない。


 細長い胴に長い尾。


 翼は鳥のものではなく、前脚から脇腹へ薄い膜を張ったような形をしている。


「飛ぶ蜥蜴みたいだな」


 そのうちの一頭が翼を畳んだ。


 真下の荷馬車へ落ちていく。


「岳、急げ!」


『分かった』


 岳が翼を絞る。


 風が一気に強くなり、俺は革輪を握った。


 狙っているのは人じゃない。


 荷馬車を引く馬角獣だ。


 大きく開いた口の奥に、細い牙が並んでいる。


 もう少しで届く。


 その直前、岳が横から突っ込んだ。


 前脚が飛ぶ魔獣の胴へ叩き込まれる。


 空中で身体が弾けるように回った。


「ギャアッ!」


 甲高い声が響く。


 岳はそのまま組みつかず、すぐに離れた。


『軽い』


「でも牙はある。噛まれるな」


『分かっている』


 残り二頭がこちらへ向きを変える。


 そこで改めて分かる。


 何も感じない。


 岳や瑠璃。


 ロック鳥や銀嶺に近づいた時に感じたような、向こうから寄ってくる感覚がまったくない。


 当然だ。


 こいつらは猛禽ではない。


 俺の《猛禽寵愛》とは無関係の魔獣だ。


『来る』


 瑠璃の声。


 振り向く。


 一頭が瑠璃を追っていた。


「瑠璃、上へ逃げろ! 相手するな!」


『分かった』


 瑠璃が翼を強く打ち、急角度で高度を取る。


 飛ぶ魔獣も追う。


 速度そのものは瑠璃の方が上らしい。


 だが、相手は体格が何倍もある。


「岳、あいつを止める」


『行く』


「俺を一度下ろしてくれ」


『俺だけでやれる』


「分かってる。でも三頭いる。俺も下から撃った方がいい」


 街道脇に岩の露出した小さな高台がある。


 岳がそこへ降りた。


 着地と同時に安全帯を外す。


「瑠璃、岳の近くまで引いてこい。ただし低くなりすぎるな」


『分かった』


 弓を外す。


 矢を一本抜く。


 瑠璃が大きく円を描きながら戻ってくる。


 その後ろから飛ぶ魔獣。


 岳は地面を蹴り、再び飛び上がった。


 俺は弓を構える。


 空を飛ぶ相手を撃つのは、地上の獲物を撃つより厄介だ。


 距離だけでは足りない。


 速度も方向も変わる。


 今の俺に、岳の背から当てる自信はない。


 だから地上へ降りた。


 瑠璃が頭上を抜ける。


 追ってきた個体が翼を傾けた。


 一瞬だけ腹が見えた。


 放つ。


 矢が翼の付け根へ刺さった。


「ギャッ!」


 飛ぶ姿勢が崩れる。


 片翼が十分に開かない。


 そこへ岳が上から襲いかかった。


 前脚の爪が背へ食い込む。


 そのまま地面へ押し落とした。


 土煙が上がる。


「岳、離れろ!」


 岳は即座に飛び退いた。


 魔獣はまだ動いている。


 長い尾が地面を叩き、口を大きく開く。


 二本目の矢。


 首の付け根へ入った。


 動きが鈍る。


 三本目。


 今度は胸。


 数度痙攣したあと、動かなくなった。


『一つ』


「あと二つ」


 空を見る。


 一頭は荷馬車の周囲を旋回。


 もう一頭は、最初に岳へ弾かれた個体だ。


 こちらも飛び直している。


「瑠璃!」


『見てる』


「二頭の位置を教えてくれ」


『岳の上に一つ。荷車の後ろに一つ』


「岳、上!」


 俺の声より早く、岳は身体を横へ捻った。


 頭上から爪が空を切る。


 飛ぶ魔獣がすれ違う。


『遅い』


「油断するな」


 岳が追う。


 速度では岳が上だ。


 相手が木の上ぎりぎりまで高度を落とす。


 岳も追いかける。


 俺はそちらを見続けず、荷馬車側へ視線を移した。


 もう一頭が低い。


 馬角獣へ飛びかかろうとしている。


「まずいな」


 ここからでは少し遠い。


 街道へ向かって走る。


 向こうでも御者たちが棒や短槍を持っているが、馬角獣を押さえながらでは満足に動けない。


 魔獣が降りる。


『隼人、左!』


 瑠璃の声。


 俺は走りながら左を見る。


 街道沿いに小さな盛り土。


 そこへ上がれば角度が取れる。


「助かる!」


 土を蹴って登る。


 魔獣が馬角獣へ脚を伸ばした。


 弓を引く。


 狙える時間は短い。


 翼ではなく胴。


 放す。


 矢が脇腹へ刺さった。


 魔獣が身体を振る。


 降下をやめた。


「もう一発!」


 二本目を番える。


 今度はこちらへ向いた。


 来る。


「そっちの方が狙いやすい」


 飛び上がったまま、真正面から突っ込んでくる。


 口が開く。


 距離が縮む。


 放つ。


 矢は胸へ入った。


 軌道が僅かに逸れる。


 俺の頭上を通過し、街道脇へ落ちた。


 地面を滑りながら尾を振る。


 すぐには死なない。


 俺は次の矢を取る。


 その時、頭上で大きな羽音がした。


 岳だ。


 最後の一頭を追い払ったらしく、こちらへ戻ってくる。


 地上の魔獣へそのまま降下した。


 爪が首を押さえる。


 嘴が一度だけ振り下ろされた。


 動かなくなった。


「終わったか?」


『もう一つは逃げた』


「怪我は?」


『ない』


「瑠璃は?」


『ここ』


 上を見る。


 瑠璃が俺のすぐ上を旋回している。


「怪我ないか?」


『ない』


「よし」


 それを確認して、ようやく息を吐いた。


     ◇


 荷馬車へ近づくと、三人の男がこちらを見ていた。


 一人は短槍を持った護衛。


 残り二人は御者らしい。


「大丈夫ですか!」


「あ、ああ!」


 年上の御者が馬角獣の手綱を握ったまま答える。


「助かった。いきなり上から来やがった」


「怪我人は?」


「いない。馬角獣も噛まれてない」


 それなら間に合った。


 護衛が倒れた魔獣へ近づき、首や翼を見てから口を開いた。


「鉤翼蜥だ」


「鉤翼蜥?」


「ああ。ワイバーンとは別物だ。もっと小さくて、岩場に巣を作る飛行魔獣だな。二、三頭ならD級扱いだが、家畜を狙って上から来られると厄介だ」


 なるほど。


 見た目だけなら小型の竜種にも見えるが、分類自体が違うらしい。


「この辺りにいるのは珍しいんですか?」


「俺は街道護衛を何度もやってるが、ここで見たのは初めてだ。普段はもっと東の岩場にいる」


 なら、追い払って終わりにしない方がいい。


 突然ここへ来た理由がある。


 俺は頭上の瑠璃を見る。


「瑠璃、逃げた一頭がどっちへ行ったか分かるか?」


『東の岩』


「岩場?」


『高い壁。穴がある』


「一度見てきてくれるか? 他にもいるなら近づきすぎなくていい。数だけ見て戻ってくれ」


『分かった』


 瑠璃が東へ飛んでいく。


 護衛が空を見上げた。


「今の蒼冠鷹も、お前の仲間か?」


「瑠璃って名前です。俺とは意思疎通できます」


「何か頼んだのか?」


「逃げた鉤翼蜥が向かった先を見てもらってます。近くに巣があるなら、街道でまた襲われるかもしれないので」


「なるほどな」


 人間には瑠璃の声は聞こえない。


 だから、必要なことだけ俺から伝える。


 護衛はもう一度、瑠璃が消えた方角を見た。


「空から探せるってのは便利なんてもんじゃないな」


「今日はそれが仕事ですから」


「街道の見回りって話か?」


「試しに頼まれました」


「だったら大当たりだ。見回りがなかったら、馬角獣を一頭は持っていかれてた」


 御者が真顔で頷く。


「一頭どころか、こいつらが暴れて荷馬車ごとひっくり返ってたかもしれん」


 俺は馬角獣を見る。


 まだ落ち着かない。


 だが立っている。


 荷も無事だ。


 何か起きてから探すより、先に見つける。


 ギルドで考えた通りだった。


     ◇


 しばらくして瑠璃が戻ってきた。


『いた』


「何頭?」


『いっぱいじゃない。四つ』


「大きさは?」


『大きいのが二つ。小さいのが二つ』


「穴の中か?」


『岩の棚。骨もある』


「分かった。ありがとう」


 護衛たちが俺を見る。


 俺は内容をそのまま伝えた。


「東の岩場に巣らしい場所があります。大きいのが二頭、小さいのが二頭。食べた獲物の骨もあるみたいです」


 護衛の表情が険しくなる。


「最低でもあと二頭成体がいるのか」


「さっき逃げた一頭が入ってるなら、そうですね」


「なら俺たちだけでどうこうする話じゃない」


「場所をギルドへ報告します。しばらくはこの辺りを通る時、上を警戒した方がいいです」


「そうさせてもらう」


 御者の一人が倒した鉤翼蜥を見る。


「こいつらはどうする?」


「俺たちは見回りの途中なので、持って帰るのは無理です」


「なら街道脇へ寄せておく。場所が分かればギルドが回収するだろう」


「お願いします」


 俺たちは二頭の死骸を通行の邪魔にならない場所へ移した。


 岳ならもっと簡単に運べるだろうが、無理に持ち帰る必要はない。


 大事なのは巣の位置だ。


「岳、もう一度上がるぞ」


『仕事は終わりではないのか』


「まだ採石場の分岐まで見てない」


『真面目だな』


「金もらってるからな」


『なら仕方ない』


 岳が伏せる。


 騎乗具へ跨がった俺を見て、御者が苦笑した。


「そのグリフォン、ずいぶん話が分かるんだな」


「今、仕事がまだ終わってないって話をしてたところです」


「何て?」


「金をもらってるなら仕方ないって」


 御者たちが笑った。


「そいつ、俺たちより仕事を分かってるかもしれんな」


 岳にはその言葉自体は聞こえているが、こちらの会話の細かな意味までは分からない。


『何を笑っている』


「褒められてる」


『ならいい』


「そこは分かるのか」


 岳が地面を蹴る。


 荷馬車が小さくなっていく。


 瑠璃も横へ並んだ。


     ◇


 その先では大きな異常はなかった。


 斜面が一か所、雨が続けば崩れそうになっている。


 路肩近くに倒れかけた木が一本。


 採石場への分岐まで確認し、地形を頭へ入れる。


 帰りには、鉤翼蜥の巣があるという岩場も上空から確認した。


 岳では近づきすぎない。


 相手が何頭いるか正確には分からないし、巣を守る魔獣へわざわざ喧嘩を売る必要もない。


 瑠璃が教えた通り、岩棚には大きな影が見えた。


 街道からそれほど遠くない。


 放置すれば、また荷馬車が狙われるだろう。


「場所は分かった。帰ろう」


『倒さないのか』


「今は見回りの仕事だ。巣を潰すなら、人員とやり方を決めてからでいい」


『分かった』


 岳は素直に進路を西へ変えた。


 危険を見つけたからといって、全部その場で俺たちが片づける必要はない。


 人間の町には、人間の仕組みがある。


 俺がやるべきなのは、自分たちにしかできないところをやることだ。


     ◇


 昼を少し過ぎた頃、リーベルへ戻った。


 西門の兵士たちは岳を見ても騒がない。


 騎乗具を見て俺が乗っていることまで確認すると、そのまま門前の場所を空けてくれた。


 岳を外へ残し、俺と瑠璃はギルドへ入る。


 ミラへ地図を返す。


「異常ありました」


「その言い方だと、結構ありそうね」


「鉤翼蜥が街道の荷馬車を襲ってました」


「鉤翼蜥?」


 ミラの顔から軽さが消える。


「何頭?」


「三頭が荷馬車を襲ってました。二頭は俺と岳で倒して、一頭は逃げました」


「怪我人は?」


「なし。馬角獣も無事です」


「よかった。それで?」


「瑠璃に逃げた個体を追ってもらいました」


 肩にいる瑠璃を示す。


「東側の岩場に巣があります。確認できたのは成体らしいのが二頭、小さいのが二頭。逃げた一頭が成体の数に入ってるかもしれません」


「場所は?」


 地図へ印を付ける。


「ここです」


 ミラが眉を寄せた。


「街道に近いわね」


「はい。あのままだと、また荷馬車が狙われると思います」


「討伐依頼を出す。鉤翼蜥なら複数人の組を回した方がいいわ」


「俺たちは?」


「今日はもういい。あなたの依頼は街道の確認なんだから、巣を見つけた時点で十分」


「なら、もう一つ。ここは斜面が緩んでます」


 別の場所を指す。


「それと、この辺りに倒れかけた木があります。今すぐ街道を塞ぐ状態じゃないですけど、次に強い雨が来たら危ないかもしれません」


 ミラが一つずつ書き込んでいく。


「分かった。道路管理の方へ回す」


「他は問題ありませんでした」


 ミラが少し黙った。


 それから、俺を見る。


「これ、商人組合が喜ぶわね」


「鉤翼蜥が出たのに?」


「出たからよ。荷馬車が襲われて死人が出てから見つかるのと、見回りの初日に巣まで見つけるのとじゃ全然違うでしょう」


「ああ、そういう意味ですか」


「試しどころか、継続決定になると思う」


 机の上へ硬貨が置かれる。


「今日の依頼料。それと鉤翼蜥二頭の討伐分は確認後に追加。素材が回収できれば、その取り分もね」


「結構入るんですね」


「命の危険があった分は当然よ。それから、荷馬車を助けた商人側からも謝礼が出るかもしれない」


 予想より早く、この世界で稼ぐ手段が形になり始めている。


 狩りだけでも生きてはいける。


 だが、それだけじゃない。


 岳が飛べる。


 瑠璃が見つけられる。


 俺が山と地形を見て判断できる。


 その組み合わせ自体に値段が付く。


「この分なら、小屋の修理も少し進められそうだな」


 つい口にすると、ミラが笑った。


「まだ雨漏りしてるの?」


「ひどいところは塞ぎました。でも屋根も壁も、ちゃんと直すなら材料が要ります」


「岳の寝る場所もいるんじゃない?」


「それも考えてます。小屋の中には入れないので」


 雨風を避けられる簡単な庇くらいは作ってやりたい。


 瑠璃が俺の肩から机の端へ移る。


『私の場所も』


「お前は屋根に勝手に場所作ってるだろ」


 ミラが俺を見る。


「瑠璃、何か言った?」


「自分の場所も欲しいそうです」


「やっぱり会話できる家が必要なんじゃない?」


「そこまで大げさなものを建てる金はまだないですよ」


『大きいの』


「要求だけ増やすな」


 ミラには内容が分からないので、俺の返事を聞いて笑っているだけだ。


「そのうち狩人小屋じゃなくて、猛禽小屋になりそうね」


「それは困ります」


 俺が住む場所がなくなる。


     ◇


 ギルドを出ると、岳が西門の外で待っていた。


『遅い』


「報告してたんだよ」


『飯は』


「帰ってからだ」


『それは昨日も聞いた』


「毎日飯は食うだろ」


『当然だ』


 騎乗具へ手を掛ける。


「でも、今日は少し稼げた。材料も買える」


『肉もか』


「まず小屋を直す」


『肉は』


「買うって」


『ならいい』


 瑠璃が横から飛び上がる。


『私も』


「分かってる。二頭ともだ」


 岳の背へ跨がる。


 翼が開いた。


 地面を離れ、リーベルの城壁が下へ沈んでいく。


 東には、さっきまで見回っていた街道が細く伸びていた。


 空を飛べるから安全なわけじゃない。


 空にも、こっちを獲物として見る奴はいる。


 《猛禽寵愛》が通じない相手も、当然いる。


 それでも、地上だけでは見えない危険を先に見つけられる。


 今日助かった荷馬車が、その答えだった。


 鷹匠だった俺が、異世界で何をして生きていくのか。


 少しずつ見えてきた気がする。


 岳が翼を大きく打った。


 瑠璃がその横を飛ぶ。


 俺たちは狩人小屋へ向かって、午後の空を西へ進んだ。



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