小さな反省2
でもアマリアは、ため息だけで終わらせておいた。
散々、責めた。
向こうからも散々、謝られた。
償ってくれるとも言われた。
レオンに悪気なんてなかったのだし、これ以上怒るのも大人げない。
だからもうやめよう、とアマリアは気持ちを切り替えることにした。
完全に駄目になってしまったわけではないから、不幸中の幸いだわ。
元々、あまりうじうじするような性格でもないのだ。
アマリアはそう自分に言い聞かせ、ブラシを置いた。
髪も綺麗に整ったし、もう寝ようと思う。
メイドがいる間にもう大体の寝支度は整っていたので、あとは手洗いを済ませたりするだけだ。
十分も経たないうちにベッドに潜り込んだ。
今日はなんだか疲れてしまった、と、ふーっと息が出た。
灯かりを消して暗くなった部屋の中、ベッドについた天蓋のレースを見上げる。
色々、波乱万丈だったけれど、と思って、ひとつだけ後悔したことがあった。
被害を被ったのは確かだ。
怒っても当然だった。
でも……あんなふうに睨みつける必要はなかったのではないか。
今更ながらそんなふうに思えてくる。
睨みつけた先のフレイディの瞳を思い出した。
美しい金色のそれは、おろおろしていた。
突然のことに戸惑い、また悪いことをしたと思っている気持ちが溢れていた。
とても素直な色をしていたといえる。
……言い方と態度が乱暴だったのは、謝らないといけないわ。
アマリアはちょっと胸が痛むのを感じて、そう思った。
フレイディの素直さを、なんとなく羨ましく思ってしまったのだ。
レオンの仕出かした悪戯は突然で、予想外のことだっただろうに、即座に自分の非を認めて謝るのだ。
伯爵家のご令息なのに、素直で優しい方なのね。
そうも思った。
身分ある人間は傲慢な性格になってもおかしくないものだ。
それがフレイディにはまったくなく、アマリアはそこを好ましく感じたといえる。
とにかく、明日、改めてレノスブル家から使いが来ることになっていた。
フレイディ本人は流石に来ないだろうが、なにかしら『償い』を決めて、伝えに来てくれるはずだ。
なにをしてくれるのかしら。
新しい絵の具や画材を贈ってくれるとか?
それとも、もっと立派なアトリエを建ててくれるとかかもしれないわ。
それはちょっと嬉しいかも……。
そんなことを考えている間に、アマリアは眠りに落ちていった。
一日の疲れもあって、夢も見ずに、安らかな眠りの一夜だった。