小さな反省1
「まったく、災難だったわ……」
はぁ、と小さくため息をついたアマリアは、今日の大事件を思い出して肩を落としていた。
夜になった私室、もう眠る前の時間。
夜の手入れとして、手にしていたブラシで髪をとかしていく。
ふわふわしたロングヘアは、月の光を映しとったような銀色。
やわらかだが、毛が細いので絡まりやすいのだ。
普段は勿論メイドが支度をしてくれるのだけど、眠る前には自分でも一度、とかすようにしていた。
銀の髪と、紫色の瞳が美しいアマリアは今年十六歳になる。
エヴァーレ男爵家の一人娘だ。
見た目は繊細で美しいと評されるのだけど、中身はあまり見た目通りではなかった。
大胆な気質であるし、気に入らないことははっきりそう言う。
物怖じもしなければ、興味のあることならなんでも手を出す積極さもあった。
貴族の令嬢として礼儀は完璧であるし、今日のように憤慨でもしなければ、態度は丁寧に決まっている。
だがやはり、素が大胆極まりない。
父はそれを「もっと慎ましく育ってほしかった」と嘆くが、使用人たちは毎回「男爵様のお若い頃にそっくり……」なんて囁き合うのであった。
どうしましょう……一応、直ることは直ると思うけど……。
心の中で考えながら、丁寧にブラシを動かす。
今日も綺麗に洗ってもらったので、するすると引っかかることなく髪はとかされていった。
直る、とは今日、散々な状態にされた絵のことだ。
アマリアは絵が好きで、幼い頃から油絵だの、水彩画だの、様々な絵を描いてきた。
父にも使用人にも「上手い」とか「とても美しい」とか褒めてもらえるような出来栄えで、多分、身内贔屓はあるにしても、少しばかりは上手といえる部類なのだろう。
ちょうど十歳の誕生日には父からあのアトリエをプレゼントされて、今では時間さえあればこもって好きな絵を描いているというわけ。
今日のあの絵は油絵だった。
塗りかけだったので絵の具は乾いておらず、それでレオンは絵の具まみれになったのであるが、絵のほうはまた絵の具を塗り直せば良い。
一回乾けば削り落とせるので、飛び散ったところはそうして修復すればいい。
しかし気に入るように塗れていたのに、という気持ちはある。
同じようにと思って塗っても、まったく同じには絶対できないのだから。
それを思うと、絵を駄目にしてきたレオン、ひいては管理不行き届きであったフレイディへの怒りが復活しそうになる。




