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転生しても居候  作者: ソワル
第一章
4/17

4話 出来ること

 まだ、暗い気持ちは残っている。だが、何かをすると決めた以上、前に進まなければならない。とりあえず、この気持ちは全力で心の隅っこへ放り投げる。必要な感情かもしれないが、今は要らない。


 深呼吸する。こういう落ち着かない時は、深呼吸だ。息は出来ないけど、気持ちを落ち着かせるには最適だ。

 すぅ、はぁ、すぅ、はぁ。気分だけでも味わう。


 よし! 冷静になったところで、出来ることをやっていこう。限られてはいるが、何もしないよりかは、遥かにマシだ。


 だが、その前に腹ごしらえならぬ、状況整理をしなきゃならない。目覚めてから、びっくりしたり、落ち込んだりしかしてないからな。現状確認は大事だ。


 これまでのことを振り返ろう。


 俺、村上奏太は死んだ。完璧に死んだ。完膚なきまでに死んだ。認めたくないが、死んだ原因は自分だ。


 南無。


 そして俺は前世の記憶を持って転生した。


 ここまでは、理解できる。認めたくないし、納得もしてないし、キャパシティーオーバーでもあるが、理解はできる。

 …正直言えば、理解の範疇も超えている。


 だが、これは状況整理だ。無理矢理にでも、理解しなきゃならない。じゃないと次のもっとややこしい議題に手をつけられない。


 さて、ここからが問題だ。前世の記憶を持った俺は、意識と視覚だけを持って状態で目が覚めた。しかし、視覚があっても目は開けない。普通なら発狂するところだ。だが、俺は強靭な精神を持ってこれを乗り越えた。

 …結構ギリギリだったのは、内緒だ。


 そして遂に目が開かれた時、俺は気づいてしまう。俺が転生したのは、赤ちゃんの体の中だったのだ。しかも、元から自我を持った体に、だ


 意味が分からない。理解を放棄してしまおうと思えるほど、複雑だ。何がどうなったら、二つの精神が一つの体で存在できるのだろうか。


 それと、俺の今置かれている状況が分からない。この赤ちゃんが体の機能を全て使えるのだとしたら、俺はもしかしたら脳さえ無いのかもしれない。体を動かす必要が無いのだから。


 これは置いとこう。どうせ考えても分からない。それよりも大事なことがある。俺は転生した。これはいいだろう。


 そして俺は今、赤ちゃんの体の中に意識だけで存在している。


 例えば、この赤ちゃんの体を家だと想像してみよう。これならどうなるだろうか。

 当然、家主は赤ちゃんだ。そして俺は、その家に住まわせてもらっている。家を出ることさえできないし、時折開かれる窓の外を覗くことしか出来ないが、住んではいる。


 これってもしかしなくても、居候なんじゃなかろうか?しかも前よりもひどいニート。我ながら、注目する所がおかしいとは思うが、これは俺にとってかなり重大な事柄だ。何故なら、俺は今日居候を卒業するはずだったからだ!無論、生きていればの話だが。


 人は、誰しも人に迷惑をかけるのが嫌な筈だ。俺の場合は、三年間の居候+今回の死で、トラウマレベルで怖くなっている。そう、怖いのだ。これまでは、申し訳ない、恩は必ず返そうと思う程度だったのに、今では恐怖している。特に、居候関係は駄目だ。賢吾と理恵の新婚生活をひっちゃかめっちゃかにしてしまったことが、尾を引いている。


 だが、流石に今回は仕方ない。転生したのも、居候状態になったのも俺の意思ではない。ここで、クヨクヨする訳にもいかない。

 せめて、この赤ちゃんの為になるように精一杯頑張ろう。そして絶対に迷惑にはならない。今の俺の状態で、迷惑だと言われるのは、存在すること自体が迷惑だと言われるのとほぼ同義だ。


 それは、どうやっても立ち直れなくなる。 だからせめて力になれるようになるのだ。あの記憶力があるし、なんとかなる筈。


 とりあえず、俺の置かれている状況を朧げながらに理解できた。いくつか理解の範疇が超えてはいるが、まあいい。居候を抜け出せなかったのも、かなり歯がゆいが、今は受け入れるしかない。どうやら俺は、転生しても居候になる運命だったようだ。


 状況整理はこれで終わりだ。


 -------------


 次に、今の俺に出来ることを探そう。


 俺は、あの異常な記憶力のことを考える。記憶力というより、もうパソコンの記憶装置に近い気がする。それぐらい綺麗に、鮮明に思い出せた。


 しかも記憶を映像で再現してみせたのだ。パソコンと遜色ない。


 これも気になるが、俺には先に確かめたいことがあった。


 相変わらず体は動かせない。これは何度も確認している。だが、最初にあがいた時に感じた、動かせるものが、赤子の体とは別にある感覚。体ではない何かが、そこにある気がする。


 そちらに意識を向ける。やはり何かが、ある。それは、確実だ。集中する。これまでにないくらい集中する。俺の存在の根本に関わりそうなものだから、当然だ。


 白い靄をかき分けるイメージで探し続けた結果、やっとそれを捉えることが出来た。形のない透明で流動的なものだ。水を想像するとわかりやすい。それが、大きな器に入っているのを想像してほしい。器というより、湖や海っぽいな。


 動け、と命じてみる。ほとんど動かなかったが、表面がさざめいた気がする。うん、行けそうだ。


 ふむ、これは一体何なのだろうか。普通に考えてみれば、これは体内の水や血だろう。だが、水や血がこんな大量に一箇所に固まっているのはおかしい。これでは、あの赤子が生きていけないだろう。それに俺が動かせる。ということは、赤ちゃんの体の一部では無いということだろう。では、何か?


 少しだけ考え込む。最悪これは、俺の前世には存在しなかったものかもしれない。例えば、俺がいる場所が本当に異世界だと仮定するならば、魔力、とか?


 ありうるのか?


 うーん、断定できないな。先ず、どこにいるかさえも定かじゃないのだ。もしかしたらここは、前世と同じ世界かもしれない。


 分からないことが、多すぎるな。とりあえず「何か」と呼ぶことにしておこう。


 そのあと、試行錯誤を繰り返しながら、何度も何度も、「何か」に対し、命令を下してみた。最初の100回ほどはほぼ変わりなかったが、途中で全体ではなく、部分的に動かせばいいと気づいてからは、早かった。

 …気付くのが、遅すぎた気がするがそれはご愛嬌だ。


 球体を作ったり、四角い箱を作ったり、東京タワーなどの難しい構造にもトライしてみる。流石に、東京タワーはまだ無理だったが、色々試しているうちに、それほどの集中力を必要とせずに、動かせるようになった。


 満足したところで、最後に全体を動かすことにもう一度挑戦してみる。複雑じゃなく、かつゆっくり動かす。イメージは海水の大循環だ。氷になったりする過程をすっ飛ばして、ただ対流だけを考える。


 なかなか動かない。固定されているものを動かそうとしているような手応え。どれほど力を入れれば、動かせるのか想像もつかない。


 集中。集中だ。部分的に動かせるなら、一気に全て動かせる筈だ。慣れが足りないか、練度が足りないか。もしかしたら今は無理なのかもしれない。だが、一度始めてしまったのだ。出来れば、動かして気持ち良く終わりたい。


 これは、かなり手強い。さっきよりも集中しなけらばならないようだ。動け、と強く、強く念じる。この「何か」を完全に支配下に置いているのだとイメージする。


 『ぐあっ』


 既に、限界を超えて集中している。体があったら、鼻血が出ているかもしれない。現に、痛みが走り始める。どこが痛いのかは分からないが、確かな痛みがある。


 なんで、こんなにも俺は頑張っているのだろうかと疑問が頭の隅をかすめる。だけど、中途半端では諦めない。こうなったら意地だ。絶対動くまで止めない。


 グググッ。


 どれほどまでに頑張っただろうか。亀の歩みの様な速さで、「何か」が動き始める。莫大の量の透明な流動体が動くのは、実に荘厳だった。


 が、俺にはこんな感想を抱く余裕が無かった。バットでぶん殴られたような痛みがする。しかもそれは、かなりの早さで強くなっていく。


 やばい。なんだこれ。また死ぬのか?


 集中を切ったのに拘らず、痛みは加速度的に増えていく。

 痛みで何も考えられなくなる。


 遂に耐え切れないほどの痛みが襲いかかってきた時、俺は意識を手放した。


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