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転生しても居候  作者: ソワル
第一章
10/17

10話 魔法、それは万人の夢

 夜中になった。先ほどまで聞こえていた本をめくる音が消え、嘘みたいに静かだ。部屋を照らすのは、月明かりのみ。その月明かりの下で、邪悪に笑うのは一人の赤子、ではなくその中に住まう俺だ。実際には、笑みを作る顔さえないんだが。


 気分は、マッドサイエンティストだ。好きな実験を目の前にして、笑いを押し殺せない。

 既に俺のテンションはマックスだ。


 しかも嬉しいことに母親が読んでいた本が、魔術書だった。書いてることは何も理解できないんだが、それでも見覚えのある魔法陣が挿絵で入っていたので、魔法書だと分かった。きちんと魔法陣は記憶しましたとも。


 栞が挟んであるので、明日続きを読むつもりなんだろう。どうにかして開いて中身を見たい。覚えている魔法陣が、この前母親が使った物とさっき本を見て記憶した二つしかないからだ。魔力はほぼ質量を持たないので、物は動かせない。何か使えそうな魔法を探せたら、と思ったが本が閉じていたら元も子もない。


 うーん、こればっかりはどうしようもないか。これからいくらだって覗き見る機会はあるだろうしな。そもそも解説が知らない言語だから、何の魔法が発動するかも分からない。びっくり箱みたいなものだ。使ったのが万が一炎なんて出してしまったら、大惨事じゃ済まない。責任は全て「いうあ」に擦りつけられてしまうかもしれない。赤子を犯人扱いする人なんて、そう居ないと思うが。


 こう考えると、魔法は試さない方がいい気がしてくる。


 止めとくか?いやでも、母親が使っていた魔法は綺麗にする効果だった筈だ。あれなら周りに被害を与えずに、使える。何より俺が使いたい。


 詠唱が必要ないことだけを願います。


 まずは、魔法陣を思い浮かべる。だが、練習した時ほどうまくいかない。どうやら外にある魔力は、若干俺との親和性が低いようだ。


 数回練習を重ねる。さっきコツは掴んだからか、思ったよりスムーズに準備は完了する。仕上げに、周りの魔力を流し込んでみる。変な間違いが起きないように、少量だけだ。魔法陣は俺の記憶通りに一瞬白く光り、俺の苦労をあざ笑うかのように消えた。


 あれ?失敗?


 周囲に変化は見えない。ただ光って消えただけなのか?もしかして本当に詠唱が必要不可欠だったりするのだろうか?


 それとも、目標の指定だろうか。考えてみれば、何を綺麗にするか指定されないと俺も困る。魔法陣だって困るだろう。


 もう一度試す。目標は、机の上にある埃だ。メイドさんの功あってかほぼ目に見えない程の小ささだが、魔力を感覚器官のように扱える俺には分かる。


 もう一度魔法陣を組み立てて…発動!

 一瞬の淡い発光の後、机はこれまでにないくらい綺麗になっていた。


 よっしゃあああああ!


 地味だが、初の魔法だ。すごい達成感が俺の中を花火のように飛び交う。音が聞こえるようになった時以上だ。一つ、夢を叶えられた気がする。


 喜びに浸っていると、今度は魔法書に載っていた方の魔法陣のことを思い出す。さっきの掃除の魔法に比べて、幾らかシンプルだ。蜘蛛の巣に似てると言えば、イメージが湧きやすいかもしれない。


 ちょっとだけ、調子に乗ってもいいかな?


 今度は、蜘蛛の巣をイメージしながら魔法陣を描く。慣れたからか、一度で完成させられた。

少しだけ、本当に少しだけ。スポイトで水を一滴垂らすような繊細さを持って、俺は魔力の注入の作業に取り掛かる。


 本当に何が起きるか分からないから、慎重に行かないと。


 とりあえず、指向性を持たせずに、発動だけさせてみる。すると、魔法陣は緑の光を発しながら消えた。その時、周囲の空気が少しかき回されるのを感じる。


 今何が起きた?


 よく分からなかったので、次は装填する魔力を少し多くしてみる。だが、結果はほぼ変わらず、ただ周りの空気をかき回す力が少し強くなった程度だった。


 ふむ、一つ分かるのは掃除の魔法と違って、物理的に働くものだってくらいかな。だとすると、空間をかき回すと言えば、風しかない気がする。少し早合点しすぎか?でも俺の勘が正解だと言っている。


 風を起こす魔法だな。風属性魔法とでも呼ぶべきか。それともシンプルに風魔法?


 兎にも角にもこの魔法、魔力を込め過ぎなければかなり有能な気がする。俺の唯一の弱点だった、世界への物理干渉の難しさを和らげてくれる。上手く使えば、図書室にある本を読むことだってできるかもしれない。試すのは、言語習得の後になるだろうが、今から楽しみだ。


 よし、練習だ。最初の目標は物を浮かせるようになることだ。ただ残念ながら手頃な物がないので、魔法陣を描き始めてから発動に至るまで時間を短縮する為の練習に切り替える。掃除の魔法の方が、複雑なので練習はこちらでやろう。


-—————-


 そんなこんなで朝まで練習してしまった。だが、あまり上達はしていない。やはり詠唱は補助するために唱えるのだろう。どうやってもあの母親の発動の速さに近づける気がしない。一朝一夕じゃ上手くなれないんだろう。練習あるのみだ。それにしてもすごく疲れた。眠気は感じないにしても、疲労は蓄積するようだ。精神的な疲れが。今日は、流石に休もう。朝から寝るなんて、学生時代ゲームで完徹した時以来だな。ではグッドナイト。いや、もう朝か。グッドモーニング。


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