取り調べ2
「ねえ、じゃないほうの刑事さん」
「じゃないほう?」
山田は眉を顰めた。
「なんでしょうか?」
雪屋が返事をした。
「名前、もう一度教えてもらえる?」
「雪屋梛木です」
源馬は「雪屋さんはそのままでよさそう」と微笑んだ。
山田は「さすがアイドル、ファンでなくても思わず見惚れそうになる笑顔だ」と思った。
「雪屋さん、今から私、もっのすごくたくさん喋るんで、頑張ってメモを取ってね」
源馬はウインクをしながら「キュルン」と言った。
「まず、さっき聞かれた時間に何をしていたか答えるね」
「お願いします」
「あの日はカキダシマツリーズ選抜メンバー人気投票の〆切日だったの。で、私は今回不参加だったから、結衣ちゃんと結果待ちをするために、おうちに遊びに行ったの。人気投票ってやっぱり順位がはっきり出ちゃうから、投票〆切から結果発表まで、落ち着かないのよね。それから、私って見た目は美少女だけど、性別はあれでしょ。結衣ちゃんと私が二人きりになるのは後でなんか問題になっちゃうかもって心配した花さんも、同席したってわけ」
山田は楠の証言を思い出していた。マネージャーがいたという点以外は今のところ一致している。
「自分、一つ質問あります」
雪屋がペンを置いた。
「なに? なに?」
「どうして自分は、雪屋のままでいいんですか?」
山田は「関係ないことを聞くな」とたしなめた。
「ジギー、硬いこと言わずに」
山田は源馬の言葉に呆れて、ついため息をついた。ジギタリスが長いから短縮したのだろうが、そもそも山田と呼べば済んだことだ。
「えっとね、私には、山田さんって呼ぶ相手が他にもいるから、ジギーはジギーにしたの。雪屋さんは初めて会う雪屋さんだからそのままで問題ないの」
雪屋は「理解しました」と返した。
山田は納得していなかったが、呼ばれ方は本題とは関係ないため、そのまま受け入れることにした。
「私に確認してるのってあれだよね、アリバイが成立するかどうか」
急に、源馬の表情が引き締まった。
「いえ、お話を伺いたいのはたしかですが、そんな意図では」
山田は曖昧に返した。
「花さんがいたこと知らなかったなら、結衣ちゃんを疑ってるってこと? それなら絶対ないから、あの子はほんと天使なんだからさ」
源馬から先ほどまでの愛らしさは消え失せ、凄みさえ感じられた。
「漣のやつに恨み持ってた人間なんていくらでもいるんだから、わざわざ結衣ちゃんをターゲットにする必要ないよね。他を当たったら?」
「もちろん、他の方にもお話を聞きますよ」
「じゃあ、もう結衣ちゃんには聞かない?」
「必要があれば協力を求めることになりますね」
源馬は口を尖らせた。
「結衣ちゃん、体調崩してるんだよ」
「その場合は、回復を待ちます」
「あの日は、お昼過ぎからずっと私が結衣ちゃんと一緒にいたんだから、私に話を聞けば済むよね?」
「まあ、源馬さんがもっと協力してくださるなら、楠さんにお話を聞くのは最小限にできるかもしれません」
源馬は頷くと「わかった。なんでも聞いて」と姿勢を正した。
「では、あなたと被害者の樋口漣さんとの関係を教えてください」
「関係? そんなのないよ。漣は、ライブの時に時々やってきて、しれっと私らの打ち上げに紛れ込んでくる変なやつだっただけ」
「樋口さんは、カキダシマツリーズのファンだったんですか?」
「違う違う。あいつはマツラーじゃなくて……」
源馬の歯切れが悪くなった。
「なんですか?」
山田は続きを催促した。
「多分、私のストーカー」
「ファンではないということは、別の場所で接点があったのですか? 樋口漣さんの職業はホストでしたが、店で知り合ったんですか?」
源馬は頷いた。
「ホストと客の関係で、ホストの方がストーカーになったんですね」
「違うの」
「違うんですか?」
源馬はなぜか声を潜めて「前は、私もホストだったの」と言った。
雪屋が「何気にショック……」と呟いた。
「樋口さんはあなたのストーカーではなく、ゆすりのためにつきまとっていたという可能性はありませんか?」
「ゆすり?」
源馬が首を傾げた。
「あなたの実際の性別や過去を暴露すると脅されませんでしたか?」
「うーん、それ別に脅しにならないから……」
「つこさんは、男の娘として活動しているので、性別は偽ってないんですよ」
雪屋が補足してくれた。
「自分としては、つこさんが元ホストだったのは少し衝撃でしたが、つこさんファンはかえって喜ぶかもしれませんね」
山田は、雪屋がカキダシマツリーズに詳しいことを知らなかった。雪屋に質問をさせたら効率が良いかもしれないと感じた。
山田が雪屋に声をかけようとした時、源馬がパチンと両手を打ち鳴らした。
「そうだ。私、警察に知り合いがいるんだけど、ちょっとその人も呼んできてよ。なんだか、ギャラリーが二人だと物足りないし」
源馬は、山田が返事をする前にポケットから一枚の名刺を取り出した。
山田は名刺に書かれた文字を見て息を呑んだ。
『黒星★ちい子』
山田も雪屋も、黒星課長が源馬と知り合いだとは把握していなかったので、驚いて顔を見合わせた。




