第七十六話 学院の屋上からの転落死
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春――。
魔法学院、教室。
静かな空気の中、授業は進んでいた。
セリアとロゼッタも、いつも通り席についている。
そのとき――
扉が勢いよく開いた。
「授業中にすみません!」
飛び込んできたのは、保健医だった。
息を切らしながら言う。
「生徒が、魔力制御装置を逆走させて……魔力暴走を起こしました」
教室がざわつく。
「ひどい火傷です」
一拍。
「セリアさんの光魔法で、救済をお願いできませんか」
ロゼッタはすぐに立ち上がった。
「分かりました」
振り返る。
「セリア。行きましょう」
セリアも、迷わず頷いた。
「はい」
⸻
保健室。
焦げた匂いが、かすかに残っていた。
ベッドの上。
包帯に巻かれた少女。
「……ピンク髪」
ロゼッタが小さく呟く。
リゼットが、かすかに目を開いた。
「あ……」
セリアはすぐに手をかざした。
「しゃべらないでください」
静かな声だった。
ロゼッタが、思わず前に出る。
「セリア」
強く言う。
「女の子の顔に傷が残るなんて……かわいそう」
手を握る。
「治して、セリア」
セリアは、ゆっくりと頷いた。
「……分かりました」
周囲を見る。
「皆さん、目を閉じてください」
空気が張り詰める。
そして――
光が溢れた。
柔らかく。
だが、圧倒的な輝き。
「――っ」
音もなく、熱もなく。
ただ、光が満ちる。
やがて――
「……終わりました」
リゼットが、恐る恐る手を動かす。
「……痛くない」
包帯が外される。
肌は――
何事もなかったかのように、綺麗に戻っていた。
「……」
言葉が出ない。
やがて、絞り出すように言う。
「ありがとうございます……」
セリアは、静かに答えた。
「もう」
視線を落とす。
「ゲームの筋書きをなぞるのは、やめてください」
顔を上げる。
「それと――高位貴族に気軽に話しかけるのも」
少しだけ強く言う。
「今は、国王派、女王派、中立派……どこも、余裕がありません」
ロゼッタが重ねる。
「カイゼルには」
鋭い声。
「絶対に近づかないで」
それだけ言うと、背を向けた。
「行きましょう、セリア」
セリアは一瞬だけリゼットを見た。
「……はい」
二人は、そのまま保健室を後にした。
⸻
教室に戻ったリゼットを待っていたのは――
静かな地獄だった。
視線は、ある。
だが――誰も話しかけない。
女王派。
中立派。
露骨に距離を取る。
国王派も、港湾関係者以外は避けていた。
居場所が、ない。
机に座っても。
ノートを開いても。
何も、頭に入らない。
魔力制御装置の授業。
その器具を前にした瞬間――
手が震えた。
触れない。
(……怖い)
息が浅くなる。
(また、爆発する)
結局、その日は何もできなかった。
⸻
放課後。
学院の屋上。
風が、強く吹いていた。
池に引き摺り込まれた。
誰がしたのかわからない。
だが、確実に殺意があった。
魔力制御装置の逆走による魔力暴走。
本当に事故だったのか。わからない。
だが、自分だけ。
事故に見せかけて殺す気だった?
屋上の手すりの向こう側に――
リゼットは立っていた。
「……」
一歩、踏み出せば。
それで、終わる。
そのとき――
「自殺はいけないわ」
声がした。
振り向く。
ロゼッタだった。
ロゼッタとセリアはボツバッドエンドを思い出した。
主人公がイジメを苦にして屋上から身を投げるバッドエンドエンドだ。
ロゼッタとセリアは嫌な予感がして屋上に来た。
そして、運良くリゼットを止められたのだった。
ロゼッタは真っ直ぐに見つめる。
「話を聞いてあげる」
ゆっくりと近づく。
「簡単に、死なないで」
その後ろで。
セリアも言った。
「……ピンク髪の人」
静かな声。
「“ライクラ”は、クソゲーです」
一拍。
「人生をかけるほどのものじゃありません」
リゼットの体が、震えた。
「……っ……」
膝が崩れる。
その場に、座り込む。
「……どうすればいいの……」
涙が溢れる。
「帰れないし……」
声が震える。
「何も、うまくいかない……」
泣き崩れた。
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