第七十五話 魔法実験中に爆死
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春――。
魔法学院の寮。
夜の帳が降り、廊下には静かな灯りだけが残っていた。
その中で――
一人の少女が、濡れたまま帰ってきた。
⸻
扉を開けた瞬間。
リゼットは足を止めた。
「……なぜ、アルベルト様がここに?」
部屋の中央。
椅子に腰掛けていたのは――
アルベルト・ラウレンツだった。
軽く手を挙げる。
「やあ」
いつも通りの軽い調子。
だが、その目は違った。
「僕、来年入学予定だったからさ」
肩をすくめる。
「知らなかったんだよ」
一拍。
「君が“ゲームの筋書き”をなぞってるなんて」
リゼットの体が強張る。
アルベルトは続けた。
「カイゼルから急ぎの手紙が来てね」
視線をまっすぐ向ける。
「リゼット――君、転生者なの?」
沈黙。
やがて、リゼットは小さく頷いた。
「……ええ」
そして、少しだけ驚いたように言う。
「アルベルト様も?」
アルベルトは笑った。
「そうだよ」
軽く言う。
「小さい頃からの知り合いなのにね」
少しだけ肩をすくめる。
「お互い、知らなかった」
そして――
表情が変わる。
「王太子やカイゼルも転生者だ」
さらりと言う。
「他にも、数人いる」
その言葉は、重かった。
「だから」
ゆっくりと告げる。
「ゲームの筋書きをなぞるのは、やめるんだ」
リゼットは、俯いた。
「……はい」
それ以上、何も言えなかった。
アルベルトは立ち上がる。
「じゃあね」
それだけ言って、部屋を出ていった。
⸻
静寂。
リゼットは、しばらく動けなかった。
やがて――
扉がノックされる。
「入るわよ」
クラリッサとルーカスが入ってきた。
クラリッサは腕を組み、にやりと笑う。
「国一番の豪商の後継が、直々に訪問?」
首を傾げる。
「やっぱり“主人公パワー”かしら?」
ルーカスが静かに制した。
「あまり冷やかすな」
視線をリゼットに向ける。
「何と言われた?」
リゼットは、ぽつりと答えた。
「……筋書きをなぞるのはやめろ、って」
ルーカスは眉をひそめた。
「……なるほど。忠告か。
それより」
視線が下がる。
「お前、濡れてないか?」
リゼットは少しだけ苦笑した。
「池に引き摺り込まれたの」
ルーカスの顔色が変わる。
「池に!?」
一歩引く。
「……もういい」
短く言う。
「僕は外に出る。着替えろ」
そう言って、部屋を出ていった。
⸻
残されたクラリッサが、静かに近づく。
「誰にやられたの?」
リゼットは首を振る。
「分からない」
小さく言う。
「気づいたら、引きずり込まれてた」
そして――
ぽつりと呟いた。
「……死ぬかと思った」
クラリッサは一瞬だけ黙る。
だがすぐに、表情を戻した。
「で?」
冷静に言う。
「全員試したの?
ゲームの筋書き」
リゼットは頷いた。
「フェリクス様以外は」
力なく笑う。
「全部、だめだったわ」
クラリッサはため息をつく。
「じゃあ、そこよ」
きっぱりと言う。
「中立派の雄。レーヴェン侯爵家」
一歩踏み込む。
「フェリクスは外す理由がない」
リゼットは顔を歪めた。
「……もうやめたい」
その言葉に。
クラリッサの目が、わずかに冷えた。
「だめよ」
静かな声。
「声だけでもかけなさい」
一拍。
「でないと――お父様たちに報告するわ」
リゼットの肩が震える。
「……分かった」
絞り出すように言った。
その瞬間――
「くしゅんっ」
小さなくしゃみ。
クラリッサはふっと笑った。
「お大事に」
軽く手を振る。
「風邪、ひかないようにね」
⸻
――その夜。
リゼットは、熱を出した。
三日間。
ベッドから起き上がれなかった。
⸻
数日後。
学院の中庭。
フェリクスとディルクが、並んで立っていた。
「剣道は両手で持つだろ?」
フェリクスが言う。
「この世界は片手剣が主流だ」
首を傾げる。
「不思議だと思わないか?」
ディルクは笑った。
「簡単だ」
肩を軽く叩く。
「日本の鎧は肩当てが盾代わりになる」
剣を持つ手を示す。
「こっちは盾を持つ。だから片手になる」
フェリクスは納得したように頷いた。
そのとき――
一人の少女が近づいてきた。
ピンクの髪。
リゼットだった。
「……あの」
少し緊張した声。
「フェリクス様」
頭を下げる。
「お会いできて光栄です」
フェリクスが振り向く。
「ああ」
軽く言う。
「噂のピンク髪の子か」
首を傾げる。
「名前は?」
ディルクが一歩前に出る。
「フェリクス」
低く言う。
だが、リゼットは答えた。
「リゼット・ノルドハーフェンです」
フェリクスは、じっと見つめた。
「……君も転生者?」
リゼットは一瞬固まる。
「え?」
フェリクスは肩をすくめた。
「違うのか?」
その言葉に。
リゼットは、慌てて言った。
「違いません!」
強く言う。
「転生者です」
その瞬間――
空気が少しだけ変わった。
フェリクスは、興味を示した。
「へえ」
口元が緩む。
「どこ出身?」
そこから――
会話は続いた。
前世の話。
仕事の話。
文化の違い。
二人は、自然と盛り上がる。
だが――
周囲は、静かだった。
中立派の中心。
レーヴェン侯爵家。
そこに近づく“異分子”。
誰もが、黙って見ていた。
⸻
その日の午後。
魔法制御装置の授業。
講師の声が響く。
「これは魔力暴走を止める装置だ」
一人一つ。
配られる小さな器具。
「手順通りに操作しなさい」
リゼットは、深呼吸した。
(大丈夫)
ボタンに触れる。
指で押す。
その瞬間――
閃光。
爆発。
「――っ!!」
熱。
痛み。
視界が揺れる。
「痛い……!」
手が焼ける。
顔が焼ける。
「痛い……痛い……!」
意識が遠のく。
⸻
目を覚ましたとき。
そこは、保健室だった。
包帯が、巻かれている。
手も。
顔も。
ぐるぐるに。
痛み止めを飲まされる。
だが――
効かない。
「……っ……」
歯を食いしばる。
涙が滲む。
⸻
しばらくして――
扉が開いた。
「……ピンク髪」
聞いたことのある声。
ロゼッタだった。
その後ろに、セリア。
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