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乙女ゲームのバッドエンド絵師、ゲーム世界に転生する 〜バッドエンドしかない世界で、運命を捨てる〜  作者: SUN3
最終章 いじめ、三連続

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第七十三話 港湾都市と辺境伯

5時30分と17時の2回更新しています。

よろしくお願いします。


本日も読んでいただきありがとうございます。

もし楽しんでいただけましたら、ブックマークや下の★から評価をいただけると励みになります。




春の夜――。


魔法学院の寮は、昼間の喧騒とは打って変わって静まり返っていた。


だが、その一室だけは違った。



港湾伯爵家の子供たちが集まった部屋。


厚い扉の内側。


外には漏れないよう、声は自然と低くなる。


そこにいたのは三人――


ピンク色の髪に赤い瞳。


リゼット・ノルドハーフェン港湾伯爵令嬢。


青髪に青い瞳。


ルーカス・ゼーヴィント港湾伯爵嫡男。


そして――


緑の髪に、エメラルドの瞳。


クラリッサ・シュテルンフェルト港湾伯爵令嬢。



最初に口を開いたのは、リゼットだった。


「……光魔法が使えないだけで」


苛立ちを隠さない声。


「私がゲームの主人公だと思っていたのに」


机に指先を軽く打ちつける。


「学院にいたわ。ピンクの髪、赤い目……光魔法持ち」


部屋の空気が、わずかに張り詰める。


ルーカスは、椅子に深く腰掛けたまま答えた。


「ピンク色がもう一人、ね」


興味はあるが、驚きはない声音。


「それが本物の主人公でも――関係ない」


視線を細める。


「やることは同じだ」


クラリッサがくすりと笑う。


「そうね」


紅茶を揺らしながら言う。


「中央の子たちに近づいて――結びつく」


軽い調子で続ける。


「港湾都市に利益を引き込むのよ」


リゼットは眉をひそめた。


「簡単に言うけど……」


視線を逸らす。


「王太子の護衛、見たでしょう?」


少しだけ声を落とす。


「とても、港の令嬢が気軽に声をかけられる雰囲気じゃないわ」


クラリッサはすぐに答えた。


「じゃあ他でいいじゃない」


指を折りながら並べていく。


「宰相の息子、カイゼル」


「ヘリオドール侯爵家のレオニード」


「シュトラールの光魔法に傾倒している。エヴァルト」


「中立派の雄。レーヴェンのフェリクス」


「豪快団長の息子。ヴァルグレイのディルク」


にこりと笑う。


「王太子を外しても、五人もいるわ」


リゼットは即座に言い返した。


「ゲームに出てこないのを入れないで」


苛立ちが混じる。


「レオニードとフェリクスは、未知数よ」


ルーカスが肩をすくめる。


「未知数だから価値がある」


そして、淡々と続けた。


「だが――最優先は王太子だ」


視線をまっすぐに向ける。


「ゲーム通り恋に落ちてくれれば、それが一番儲かる」


リゼットは、ゆっくりと問い返した。


「……ゲーム通りにいかなかったら?」


その瞬間。


クラリッサの笑みが、わずかに冷えた。


「その時は――」


やわらかい声のまま。


「港に帰れると思わないことね」


静かな一言だった。


だが、その意味は重かった。


リゼットは、言葉を失った。


胸の奥に、冷たいものが広がる。


ここは学園。


だが――


逃げ場ではない。


(……帰れない)


その現実が、じわじわと重くのしかかる。


「……分かってるわよ」


小さく呟く。


それ以上は、何も言わなかった。



その隣の部屋。


壁一枚隔てた先。


一人の少年が、静かに立っていた。


風魔法で聞き耳を立てていた。


アルヴィン・シュタールヴェルト。


辺境伯の寄子、伯爵嫡男。


日に焼けた銀髪。


鋭い金の瞳。


気配を殺し、完全に息を潜めている。


(……なるほどな)


心の中で呟く。


(港湾にも、いるのか)


転生者。


自分達だけではなかった。


そして――


(ピンクの髪。赤い目。王太子と同年代)


そこまで聞けば、答えは一つだった。


(ゲームの主人公……)


だが、もう一つの存在が浮かぶ。


(エーデル男爵家の侍女……セリア)


同じピンクの髪。


光魔法。


(どっちだ?)


ほんのわずかに、口元が歪む。


(……面白い)



アルヴィンは、音もなく部屋を離れた。


そして、その夜のうちに――


一通の手紙を書き上げる。


宛先は。


カール・シュヴァルツリッター。


辺境伯嫡男。


(“ゲームの主人公候補が二人”――)


簡潔に、だが正確に記す。


(動きがある)


封を閉じる。



なお――


アルヴィンが転生者であることは、


すでにカールに知られている。



春の夜は、静かだった。


だがその闇の中で。


港湾。


辺境。


そして王都。


それぞれの思惑が、ゆっくりと絡み合い始めていた。



5時30分と17時の2回更新しています。

よろしくお願いします。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

もし楽しんでいただけましたら、ブックマークや評価をいただけると励みになります。

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