第七十二話 ピンクの影
5時30分と17時の2回更新しています。
よろしくお願いします。
本日も読んでいただきありがとうございます。
もし楽しんでいただけましたら、ブックマークや下の★から評価をいただけると励みになります。
春――。
澄み渡る青空。
やわらかな陽射しが、王都の街を明るく照らしていた。
その朝。
三人は同じ馬車に乗っていた。
カイゼル・グラディウス。
ロゼッタ・エーデル。
そして――セリア。
向かう先は、魔法学院。
入学式の日だった。
⸻
学院の門をくぐると、そこはすでに賑わっていた。
色とりどりの制服。
家紋を誇る者、緊張で言葉少なな者、はしゃぐ者。
新入生たちのざわめきが、空気を満たしている。
セリアは、そっと周囲を見回した。
そのとき――
ふと、目が止まる。
「……あ」
小さく声が漏れた。
ロゼッタが振り向く。
「どうしたの、セリア?」
セリアは指を差した。
「ロゼッタお嬢様……」
少しだけ首を傾げる。
「私と同じ、ピンク色の髪をした女の子がいます
案外、あの子がゲームの主人公かもしれませんね」
ロゼッタの視線が、その先へ向く。
そして――
一瞬で、顔色が変わった。
「……え」
蒼白。
明らかに動揺していた。
セリアは慌てて言葉を重ねる。
「落ち着いてください」
冷静に言い聞かせるように。
「男爵家はお金に困っていません」
一拍。
「婚約破棄されても……バッドエンドのようなことにはなりません」
ロゼッタは、はっとしたように息を吸う。
だが、その手はわずかに震えていた。
そのとき――
カイゼルが一歩前に出た。
「……大丈夫だ」
静かな声だった。
ロゼッタの手を取る。
「ゲームの主人公がいようと、関係ない」
そのまま、包み込むように握った。
「無視する」
はっきりと言い切る。
そして――
ロゼッタを見つめる。
「僕を信じてくれ」
ロゼッタの手は、冷たかった。
カイゼルは少しだけ眉をひそめる。
「……こんなに冷たい」
小さく呟く。
「かわいそうに」
ロゼッタは何も言えなかった。
ただ、わずかに頷く。
⸻
その間に――
ピンク色の髪の少女は、人混みに紛れて消えていた。
まるで最初からいなかったかのように。
⸻
やがて。
新入生たちは、一つの場所に集められていた。
掲示板。
そこに、クラス分けが張り出される。
ざわめきが広がる。
自分の名前を探す声。
安堵と落胆が入り混じる空気。
その中で――
「……あった」
カイゼルが呟いた。
指差す先。
そこには、三つの名前が並んでいた。
カイゼル・グラディウス
ロゼッタ・エーデル
セリア・ローゼン
同じクラス。
カイゼルが小さく笑う。
「一緒のクラスになったな」
振り返る。
「よかったな」
ロゼッタの表情が、ぱっと明るくなる。
「当然よ!」
胸を張る。
「勉強、たくさんしたもの!」
セリアも、少しだけ微笑んだ。
「私もお付き合いした甲斐がありました」
ロゼッタが、くすりと笑う。
「セリアをいじめから守らないといけないからね」
さらりと言う。
「一緒のクラスになるために、頑張ったのよ」
セリアは素直に頷いた。
「はい」
その言葉に、ロゼッタは満足そうに息を吐く。
だが――
ふと、真顔になる。
「……ゲームのいじめバッドエンドは二つよね」
さらりと言った。
セリアが即座に反応する。
「池に引きずり込まれて溺死」
淡々と続ける。
「魔法実験中に爆死」
ロゼッタも頷く。
「そう、それ」
そして――
セリアは、少しだけ首を傾げた。
「私は三パターン書きましたよ?」
ロゼッタが目を瞬かせる。
「え?」
セリアは考えながら言う。
「学院の屋上からの転落……自殺」
少し間を置く。
「あ、これ……ディルク様のバッドエンドと被るから、ボツになったんですかね?」
ロゼッタが思わず声を上げた。
「何それ、知らないわよ!」
カイゼルがすぐに口を挟む。
「……二人とも」
ため息交じりに言う。
「物騒な話はやめるんだ」
周囲をちらりと見る。
「入学初日だぞ」
セリアとロゼッタは顔を見合わせた。
そして――
少しだけ笑った。
⸻
春の空は、どこまでも明るかった。
新しい生活の始まり。
期待と、不安。
そして――
まだ見えない何かが、すぐそこにあった。
(……さっきの子)
セリアは、周囲を見回す。
だが――
あのピンクの髪は見えなかった。
5時30分と17時の2回更新しています。
よろしくお願いします。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
もし楽しんでいただけましたら、ブックマークや評価をいただけると励みになります。




