第七十話 婚姻許可制度
21時に短編「不慮の寵姫」を上げます。念の為。ゲーム内のアデリーナを書きました。本編の転生者のアデリーナとは別人です。安定のバッドエンドです。
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翌年、春――。
柔らかな陽射しが王都を包み込んでいた。
花々が咲き始め、街には穏やかな空気が流れている。
その中で。
ロゼッタは十三歳になった。
一つ、大人に近づいたはずだった。
だが――
世界は、それを待ってはくれなかった。
⸻
王都に、激震が走る。
去年の王国最高裁判所設立に続き――
さらに中央集権を強める法案が提出されたのだ。
「伯爵以上の婚姻、王家許可制」
発令は三年後。
だが、その影響は今すぐにでも広がる。
貴族社会の根幹を揺るがす法案だった。
⸻
ノルドハーフェン港湾。
海に面した豪奢な屋敷。
重厚な扉の奥で、三人の男が向かい合っていた。
ノルドハーフェン港湾伯爵。
ゼーヴィント港湾伯爵。
シュテルンフェルト港湾伯爵。
いずれも、王国の物流を握る存在である。
ノルドハーフェンが、低く口を開いた。
「伯爵以上の婚姻許可制度……」
不快感を隠さない声音だった。
「我々の婚姻外交を縛るつもりか。王家の職権濫用もいいところだ」
ゼーヴィントが腕を組む。
「伯爵で終わるはずがない」
吐き捨てるように言う。
「いずれ、子爵や男爵にも及ぶ。今我々が許可を出している婚姻すら、王家の管理下に置かれるだろう」
シュテルンフェルトは静かに頷いた。
「王家は分かっていない」
窓の外の海を見る。
「商人は、利益の出る方へ流れる」
冷静な声だった。
「規制が強くなれば――カルメリア海商共和国へ流れるだけだ」
ノルドハーフェンが眉をひそめる。
「辺境伯はどうだ」
ゼーヴィントが答えた。
「最高裁判所の件で、まだ協議中だ」
肩をすくめる。
「協力は取り付けられそうにない」
ノルドハーフェンは舌打ちした。
「……最高裁判所の件では港湾整備と引き換えに賛成に回った。」
シュテルンフェルトが続ける。
「今も工事中だ。大きな船が停泊できるかどうかで、港の命運は決まる」
ゼーヴィントが低く言った。
「だが、今回は事情が違う」
視線を鋭くする。
「婚姻許可制度は、我々が直接、外と結びつく道を断つ」
ノルドハーフェンはゆっくりと頷いた。
「分かっている」
そして、わずかに口元を歪める。
「来年――王太子が魔法学院に入学する」
二人が視線を向けた。
「俺の娘の話が本当なら」
ノルドハーフェンは楽しげに言った。
「面白いことが起きるはずだ」
沈黙が落ちる。
やがて――
「……王都での政治活動を続けながら」
シュテルンフェルトが静かに言う。
「観戦といこうか」
三人の間に、同意が広がった。
静かな同盟が、結ばれた瞬間だった。
⸻
その頃――
王城。
小さな応接間。
そこでは、子供たちだけのお茶会が開かれていた。
主催は、王太子レオンハルト。
十三歳。
その隣には、弟ルードヴィヒが座っている。
集められたのは、それぞれの立場を背負う子供たちだった。
国王派。
カイゼル・グラディウス。
女王派。
レオニード・ヘリオドール。
エヴァルト・シュトラール。
中立派。
フェリクス・レーヴェン。
ディルク・ヴァルグレイ。
アルベルト・ラウレンツ。
静かな空気。
誰もが、何かを考えている。
その沈黙を破ったのは――
アルベルトだった。
「今回の婚姻許可制度」
軽い口調だった。
だが、その目は笑っていない。
「……まずいかもね」
その一言で。
場の空気が、はっきりと変わった。
誰も、すぐには口を開かない。
だが――
全員が理解していた。
これは。
ただの法案ではない。
次の火種だと。
春の光は、穏やかに差し込んでいる。
だがその下で。
確実に、何かが動き始めていた。
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