第六十六話 クラウディアの覚悟
21時に短編「折れた忠誠」を上げます。ディルクはいい奴なので、バッドエンド書くのが辛かったです。
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夏――。
陽射しは強く、空はどこまでも高かった。
だがその下で。
国の均衡は、静かに崩れ始めていた。
⸻
王都。
一流ホテル、その最上階。
最も豪奢な一室で、二人の男が向かい合っていた。
シュヴァルツリッター辺境伯。
そして、その息子カールである。
辺境伯は不機嫌を隠そうともしなかった。
「……忌々しい」
低く吐き捨てる。
「王国最高裁判所の法案が、通ってしまった」
拳がわずかに軋む。
カールは落ち着いた様子で答えた。
「ですが、我々は譲歩を引き出しています」
指を組み、淡々と続ける。
「辺境伯領には五年の猶予期間
さらに交渉による延長の余地」
一拍置く。
「それだけではありません」
辺境伯の目を真っ直ぐに見る。
「私と、国王の外戚との婚姻」
辺境伯は鼻を鳴らした。
「五年の猶予など、余計だ」
吐き捨てるように言う。
「辺境伯領だけ、永遠に適用外でよかろう」
カールは静かに首を振った。
「それでは“反乱”と見なされます」
冷静に言う。
「今は、正面から対立する時ではありません」
辺境伯は黙った。
だが、その目の奥の怒りは消えていない。
カールは続ける。
「宰相家の長女――国王の外戚です」
わずかに口元を緩めた。
「それを差し出してきたのです
十分な譲歩でしょう」
辺境伯は低く唸る。
「……お前は甘い」
だが、それ以上は言わなかった。
怒りは、押し殺されている。
使うべき時のために。
⸻
同じ頃。
グラディウス宰相家――応接間。
そこには、まったく別の空気が流れていた。
マルティナが、泣いていた。
ロゼッタが、その手を取っている。
クラウディアは、少し離れて立っていた。
「マルティナ姉様……どうして……」
ロゼッタが戸惑いながら問いかける。
クラウディアが静かに答えた。
「私が魔法学院を辞めるからよ」
ロゼッタは目を見開く。
「え……?」
言葉が出ない。
「どうして……?」
クラウディアは、あくまで穏やかに言った。
「結婚するからよ」
ロゼッタは思わず言った。
「王都の国王派の侯爵家ですよね……?
そこから通えないんですか?」
クラウディアは首を横に振った。
「その家とは、婚約破棄したわ」
一拍。
そして――
「私、辺境伯家に嫁ぐの」
空気が凍った。
マルティナが顔を上げる。
涙でぐしゃぐしゃになったまま叫んだ。
「違う!」
声が震える。
「結婚なんて名ばかりよ!」
クラウディアを見上げる。
「お姉様は……人質に行くのよ!」
ロゼッタの息が止まった。
「え……」
マルティナは涙を拭おうともせず続ける。
「どうしてお姉様なの……!」
クラウディアは静かに言った。
「辺境伯は、グランヴァルト王国との国境を守っている」
穏やかな声だった。
「だから、その分は優遇しなければならないの」
マルティナは首を振る。
「理屈は分かってる!」
涙がこぼれ落ちる。
「でも……」
声が震える。
「一緒に魔法学院に行こうって……約束してたのに……」
ロゼッタも、耐えきれなかった。
「……分かります」
小さく言う。
「クラウディア姉様が、突然いなくなるなんて……」
マルティナは強く言い返した。
「分かってない!」
涙に濡れた目で睨む。
「人質として行くのよ……!」
ロゼッタは言葉を失った。
そして――
マルティナと一緒に、泣き出した。
静かな部屋に、嗚咽が広がる。
クラウディアは、そんな二人を見ていた。
そして、静かに言う。
「マルティナ」
穏やかな声だった。
「ロゼッタに当たらないで」
マルティナが息を詰まらせる。
クラウディアは、微笑んだ。
涙は――見せない。
「私は、グラディウス家の娘よ」
それだけだった。
それが、すべてだった。
⸻
その少し離れた場所。
壁際に、カイゼルとセリアが立っていた。
セリアが小さく呟く。
「……王国最高裁判所の法案を通す代わりに」
言葉を選びながら続ける。
「辺境伯領に五年の猶予と交渉権
それに……クラウディア様を」
一瞬、言葉が詰まる。
「人質として……」
カイゼルは、何も言わなかった。
やがて、低く言う。
「辺境伯領は……実質、何も失っていない」
拳を握る。
「それどころか――」
歯を食いしばる。
「姉上という人質まで手に入れた」
声が震えていた。
「……自分が子供なのが、悔しくてたまらない」
セリアは、少しだけ視線を落とした。
そして言う。
「クラウディア様のお相手は……どんな方なんでしょう」
カイゼルは答える。
「カール・シュヴァルツリッター」
短く言う。
「今年、魔法学院を卒業した十八歳」
視線を遠くに向ける。
「成績優秀、剣も強い
頭の切れる男だと聞いている」
セリアは小さく頷いた。
「……大切にしてくださると、いいですね」
カイゼルは答えなかった。
ただ――
「ああ」
とだけ言った。
その手には、強く力が込められていた。
本当に大切にされるのか。
それは――
誰にも分からなかった。
⸻
夏の光は、強く降り注いでいた。
21時に短編「折れた忠誠」を上げます。ディルクはいい奴なので、バッドエンド書くのが辛かったです。
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