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乙女ゲームのバッドエンド絵師、ゲーム世界に転生する 〜バッドエンドしかない世界で、運命を捨てる〜  作者: SUN3
折れた忠誠

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第六十三話 静かな火種

5時30分と17時の2回更新しています。

よろしくお願いします。


本日も読んでいただきありがとうございます。

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秋のある日。


グラディウス宰相家――執務室。


重厚な机を挟んで、二人が向かい合っていた。


宰相と、その息子カイゼルである。


部屋の中は静かだった。


だが、その空気は張り詰めている。


カイゼルが口を開いた。


「死に体だった、セイント・サーキット教団の取り締まりなど――」


声を抑えながらも、苛立ちは隠せない。


「どうでもよかったではありませんか!」


宰相は表情を変えなかった。


「放っては置けない」


短く言う。


「国王直轄の未来視部隊を軽んじることになる」


指を組む。


「国土正教も敵視していた。信徒になる庶民も増えていた」


カイゼルは食い下がる。


「だとしても――」


一歩踏み込む。


「王国最高裁判所など作れば、地方の反発は避けられません」


宰相はゆっくりと息を吐いた。


「今までも、伯爵以上の貴族間の揉め事は国王の裁決で解決してきた」


静かに続ける。


「それが、下級貴族や裕福な庶民にまで広がるだけだ」


カイゼルは眉を寄せた。


「父上は……賛成なのですか?」


ほんの一瞬。


宰相は視線を落とした。


「いずれは必要だと思っていた」


そして顔を上げる。


「だが――いささか早すぎるとも思っている」


カイゼルは拳を握った。


「地方の貴族が、外国勢力と結びつくかもしれない


 独立の動きが出てもおかしくない」


言葉に力がこもる。


「女王派は、理想で動きすぎです」


宰相はゆっくりと頷いた。


「……お前の言うことはもっともだ」


短く言う。


「監視の目は張り巡らせておく」


それ以上は言わなかった。


執務室の中に、重い沈黙が落ちる。



この国には、古い傷があった。


首都が中央の穀倉地帯へと移されたとき。


建国の地である南東山岳の貴族たちは、強く反発した。


その結果――


建国の地は「辺境伯領」として、特別な自治権を持つことになった。


それは、妥協の産物だった。


そして今――


その均衡が、揺らごうとしていた。



同じ頃。


秋の空の下。


首都の高級ホテル、その最上階。


最も豪奢な一室で、二人の男が向かい合っていた。


シュヴァルツリッター辺境伯。


そして、その息子カールである。


重い沈黙を破ったのは、辺境伯だった。


「お前を魔法学院に出しているのはな」


低い声。


怒りを押し殺した声音だった。


「王家に忠誠を誓っているという――パフォーマンスだ」


机を軽く叩く。


「だが」


その目が鋭く光る。


「我らの権力を削るつもりなら、容赦はせん


 誰が国境を守っているのか――思い知らせてやる」


カールは静かに頷いた。


「父上のお怒りはごもっともです」


冷静な声だった。


「王国最高裁判所は、辺境伯家の裁量を越えてきています」


辺境伯は鼻を鳴らす。


「我らの方が歴史は古い」


ゆっくりと言う。


「武力を見せつけてやろうか」


カールは首を横に振った。


「まだ、政治的な解決もあります」


落ち着いた口調で続ける。


「焦ってはいけません」


辺境伯は苛立ちを隠さない。


「分かっている」


だが、拳は強く握られていた。


「……腹の虫が治らん」


カールは一歩踏み出した。


「魔法学院の一門を使います


 各家の動向を探らせます」


静かに言う。


「父上は、王国最高裁判所の反対派と手を組んでください」


そして、はっきりと言った。


「くれぐれも――短気は起こさぬように」


辺境伯はしばらく黙っていた。


やがて、ゆっくりと息を吐く。


「……分かっている」


怒りは消えていない。


だが、それは押し込められた。


本当に必要な時に使うために。



その後。


カールは魔法学院の寮へと戻った。


そして――


一門の者たちを集める。


「各家の動向を探れ」


短い命令だった。


「王国最高裁判所をどう受け止めているか


 誰が動き、誰が沈黙しているか」


淡々と続ける。


「すべてだ」


一門の者たちは、静かに頷いた。


それぞれの繋がりを頼りに、情報は広がっていく。


見えない糸のように。



秋の空は高く、澄んでいた。


だが――


その下で。


誰も気づかぬまま。


静かな火種が、確かに広がり始めていた。

5時30分と17時の2回更新しています。

よろしくお願いします。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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