第六十話 王弟妃の病
21時に短編「王冠放棄」を上げます。かっこいい王太子レオンハルト。お気に入りキャラのバッドエンドです。
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初夏の吉日。
王弟コンラート殿下の二度目の結婚式が行われた。
王城――。
巨大なダンスホールには、無数の鏡が貼られていた。
天井から吊るされた巨大なシャンデリアの光が、宝石のように反射している。
本来ならば、王族の婚礼は王都を挙げた祝祭になる。
だが今回は違った。
王弟の前妻が亡くなって、まだ一年も経っていない。
王家は喪中である。
それでも――
女王派との融和を優先するため、結婚式は盛大に行われた。
貴族はほぼ全員が招待されている。
ただし街の祝祭は控えめだった。
喪中だからである。
ダンスホールの中央では、厳粛に式が進んでいた。
その様子を、ホールの端から眺めている者たちがいた。
ロゼッタ。
セリア。
アルベルト。
カミラ。
そしてカイゼルである。
カイゼルが小さく言った。
「王弟殿下はこう言っていたらしい」
少し声を落とす。
「亡き妃を忘れたわけではない。だが国のために再び婚姻を結ぶ、と」
アルベルトが肩をすくめた。
「女王派も気を遣ったんだろうね」
そして少し笑う。
「王弟殿下の魔法学院時代の恋人を連れてきたらしいじゃないか」
セリアが首を傾げる。
「恋人?」
アルベルトは説明した。
「元は子爵家の三女だったらしい
それをヴァルテンベルク侯爵家の養女にして送り出した」
ロゼッタは小さく言った。
「前の奥様には悪いけど……」
少し微笑む。
「好きな人と結婚できて良かったわね」
カミラが頷く。
「事故死じゃ、仕方ないわ」
その言葉を聞いて、セリアは心の中で思った。
(表向きは事故死だけど
本当は駆け落ち失敗の心中なんだけどね
かわいそうだなぁ)
式は粛々と進んでいった。
そして――
新しい王弟妃リディアが誕生した。
⸻
それから一ヶ月後。
王城から一つの発表があった。
王弟妃リディアが病に倒れた。
その知らせを聞いたカイゼルは、すぐに動いた。
レオンハルト王太子へ手紙を送る。
セリアを診察に向かわせたい、と。
返事はすぐに来た。
頼む。
短い一文だった。
⸻
王弟の離宮。
王城の敷地内にある、豪華な屋敷である。
宰相家の屋敷と比べても遜色ない。
寝室の扉に入ってすぐ。
カイゼル、ロゼッタ、セリアが立っていた。
部屋の中央では――
王弟妃リディアがベッドに横たわっている。
その傍らには、コンラート王弟殿下が立っていた。
王弟は疲れた声で言った。
「どうやら毒を盛られたらしい
解毒は試みているが……なかなか治らない」
眉を寄せる。
「食事も厳重に管理している。だが原因が分からない」
セリアは少し緊張した顔で言った。
「えっと……
少し診せてもらっていいですか?」
コンラート王弟は頷いた。
セリアはベッドへ近づく。
リディア王弟妃の顔の前に手をかざす。
セリアは小さく呟いた。
「唇……?
全身の神経に混じってる……?」
次の瞬間。
セリアの十本の指から、光の糸が伸びた。
細く輝く糸。
それが、リディア王弟妃の体へと触れる。
そして――
毒を吸い取る。
糸が黒ずむ。
セリアはそれを近くのタライへ落とす。
再び糸を伸ばす。
また吸い取る。
その作業を何度も繰り返した。
しばらくして。
リディア王弟妃がゆっくりと身体を起こした。
「……ずいぶん楽になったわ」
セリアは少し考えてから言った。
「口紅に辰砂っていう顔料を使ってませんか?」
セリアは前世を思い出していた。
美術学校の講義の時間。
絵の具には毒になる物がある。辰砂は赤色の顔料だ。
コンラート王弟が眉をひそめる。
セリアは続けた。
「辰砂には水銀が混じっています
それが神経に入って、症状が出たのではないかと」
その瞬間。
リディア王弟妃の身体が、びくっと震えた。
コンラート王弟が振り向く。
「リディア?
どうした?
何か思い当たることでもあるのか?」
リディアは少し迷った。
そして小さく言った。
「……義理の妹
ベアトリス様がくれた物なのです
今使っている口紅」
部屋の空気が、静まり返った。
コンラート王弟はゆっくりとカイゼルを見た。
そして静かに言った。
「カイゼル
今回はありがとう」
少し間を置く。
「だが、ここからは家族の話になる
帰ってもらえないか?」
カイゼルはすぐに頭を下げた。
「はい」
三人は部屋を出た。
扉が静かに閉まる。
廊下には、重たい沈黙が残っていた。
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