第六十一話 髪飾り
21時に短編「王冠放棄」を上げます。かっこいい王太子レオンハルト。お気に入りキャラのバッドエンドです。
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夏の風が、窓から柔らかく吹き込んでいた。
グラディウス宰相家の応接間。
明るい陽光の中、テーブルの上には色とりどりの髪飾りが並べられている。
金細工に宝石をあしらったもの。
繊細な花を模したもの。
淡い色合いのリボン飾り。
どれも一級品だった。
その前で――
クラウディアとマルティナが真剣な顔でロゼッタの髪を見ている。
「ロゼッタの赤茶色には、黄色が似合うわ」
クラウディアが一つ手に取る。
それは柔らかな金色の髪飾りだった。
マルティナはすぐに首を振る。
「でも、黄色でも少しオレンジ寄りの方が馴染むと思うの」
別の飾りを手に取る。
より温かみのある色合いだ。
クラウディアは目を細めた。
「あら、でもこちらのデザインの方が可愛らしくない?」
ロゼッタは困ったように口を開く。
「あの、お姉様方……」
マルティナは聞いていない。
「ロゼッタはこちらの方が好きよね」
にこりと笑う。
「大人っぽいわ」
クラウディアも負けじと続ける。
「こういう物はつけられる時間が短いのよ」
少し優しく言う。
「つけられるうちにつけましょう?」
ロゼッタは小さく苦笑した。
「どちらも好きですけど……」
視線を逸らす。
「どちらもお高すぎます」
その言葉に、二人は顔を見合わせた。
そして――
「大丈夫よ」
「気にしなくていいの」
ほぼ同時に言った。
女子の姦しいお喋りは、まだまだ続きそうだった。
⸻
少し離れた場所。
宝石商の従業員が控えるその近くで、三人が低い声で話していた。
カイゼル。
セリア
そしてアルベルトである。
アルベルトは宝石商の従業員について来ていた。
アルベルトがため息交じりに言う。
「王弟殿下に嫁を送り込んだ家が、その嫁を殺すってさ」
肩をすくめる。
「意味が分からないんだけど」
そしてにやりと笑った。
「教えてくれないと変な噂を流すよ?」
わざとらしく続ける。
「女王派の裏切りとして、大々的にね」
カイゼルは眉をひそめた。
「脅すなよ」
少し間を置く。
「……アルベルト。お前の父親以外には話すな」
セリアが控えめに口を挟む。
「私も知りたいです」
カイゼルは一度息を吐いた。
そして静かに話し始める。
「一人目の妻も、二人目の妻も――
同じヴァルテンベルク侯爵家から出ていただろ?」
アルベルトは頷く。
「うん」
カイゼルは続ける。
「一人目の妻は、結婚三ヶ月で駆け落ち心中で命を落とした」
セリアは小さく息を呑んだ。
「二人目の妻は、同じことが起きないように
王弟殿下の元恋人を養女にして、あてがった」
アルベルトが言う。
「なるほどね」
軽く笑う。
「家同士の力関係で嫁を出してるわけか」
カイゼルは頷いた。
「そうだ
女王派の中で、同じ家から出すのが一番自然だった」
少し視線を落とす。
「だが――
人間の心は、関係ない」
空気が少しだけ重くなる。
カイゼルは静かに言った。
「一人目の妻の妹は、深く傷ついた」
セリアは息を潜めて聞く。
「姉は、不幸な結婚の末に死を選ばざるを得なかった
なのに王弟殿下は、元恋人との結婚を許され
幸せに暮らしている」
アルベルトが呟く。
「……逆恨みだね」
カイゼルは首を横に振った。
「そうとも言い切れない
姉が無理やり引き裂かれ、未練に苦しんで死んだとしたら
許せないと思うのも、人間だ」
少し間を置く。
そして言った。
「魔法学院の水銀を口紅に混ぜて
それを義理の姉リディア王弟妃に贈った」
セリアは目を見開いた。
「やっぱり……」
カイゼルは続ける。
「妹はヴァルテンベルク侯爵の末娘だ
まだ若く、魔法学院に通っている年齢
処分は――修道院送りで手打ちだ」
アルベルトは呆れたように言った。
「王家の人間に毒を盛って、それで終わり?」
カイゼルは静かに答える。
「宮廷では今、女王派の声が強い
それに……」
少し言い淀む。
「リディア王弟妃は養女だ
子爵家の出
代えがきく、と見られている」
セリアは小さく顔をしかめた。
「そんな……」
そしてふと呟く。
「でも、あのまま亡くなっていたら……」
少し遠くを見る。
「王弟殿下、壊れていたかもしれませんね」
アルベルトが反応する。
「ああ、あれか」
軽く笑う。
「カミラ嬢の『六番目の花嫁』のバッドエンド」
セリアは頷く。
「ナイチンゲール症候群で、次々と……」
少し肩をすくめる。
「設定、ちゃんとあったんだなって」
アルベルトが感心したように言う。
「こんなところで伏線回収か」
カイゼルは小さく息を吐いた。
「いずれにせよ
リディア王弟妃の命は助かった」
そしてセリアを見る。
「口紅に毒が入っているなんて、誰も思わなかった
ありがとう、セリア」
セリアは少し照れたように言った。
「毒は外しちゃいましたけどね」
少し首を傾げる。
「辰砂じゃなかったんです」
アルベルトは笑った。
「それでもいいさ」
肩をすくめる。
「生きてるってだけで十分だ」
少し真面目な顔になる。
「派閥の揉め事は、ないに越したことはない」
窓の外では、夏の風が揺れていた。
応接間の中には、軽やかな笑い声と、重たい現実が同時に流れていた。
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