第五十七話 光魔法の師匠
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エーデル男爵家の応接間。
冬の午後の光が窓から差し込み、暖炉の火が静かに揺れていた。
ソファに向かい合って座るのは、セリアとシスター・アンネである。
テーブルの上には、皿に乗せられた豚肉。
セリアは集中した顔で指先を動かしていた。
指先から伸びるのは、細く輝く光。
光魔法――光の糸。
その糸で、豚肉の裂けた部分を丁寧に縫い合わせている。
しばらくして、セリアがふっと息を吐いた。
「縫い合わせ終わりました」
シスター・アンネは豚肉を手に取り、縫い目を細かく確認する。
光の糸は肉の断面を綺麗に繋いでいた。
アンネは満足そうに頷いた。
「よく縫えています」
そして優しく微笑む。
「頑張りましたね、セリア」
少し間を置いて言った。
「外科的なことで教えることは、もうありません」
セリアはぱっと顔を明るくした。
「ありがとうございます、シスター・アンネ」
アンネは紅茶のカップを持ち上げた。
「次は解毒の方法を教えましょう」
セリアは首を傾げる。
「解毒ですか?」
アンネは紅茶を見せる。
「この紅茶から、茶色い色素を取り出して、無色にするの」
セリアは思わず聞き返した。
「はい?」
アンネは説明する代わりに、実際にやって見せた。
カップの中に、光の糸をそっと落とす。
ゆっくりと引き上げると――
糸の周りに、茶色い色素がまとわりついていた。
アンネは予備のカップにお湯を注ぐ。
そこへ、色素をまとった光の糸を浸す。
すると――
無色だったお湯が、じわりと茶色く染まった。
アンネは同じ作業を何度か繰り返す。
すると、元のカップの紅茶はだんだん色が薄くなり、最後にはほとんど無色になった。
代わりに、隣のカップのお湯が紅茶の色になっている。
セリアは目を輝かせた。
「すごい!」
アンネは穏やかに説明した。
「実際の体の毒素も、やってみるとすぐに分かるはずよ」
少し指で示す。
「炎症している場所や、体が外へ出そうとしている場所
そこに光の糸を埋め込んで、掬い取る感じなの」
セリアは真剣な顔で頷いた。
「そうなんですね」
アンネはカップを指した。
「セリア、紅茶の色素を移し替えるのをやってみなさい」
セリアは自分のカップに光の糸を垂らした。
アンネが言う。
「光の糸に余計なものを吸い付ける感じよ」
セリアは眉を寄せた。
「むむ……」
光の糸を動かす。
しかし、なかなかうまくいかない。
何度か試す。
五回。
七回。
十回。
ようやく糸の周りに、薄く茶色がまとわりついた。
セリアの顔がぱっと明るくなる。
「できた!」
アンネは嬉しそうに頷いた。
「飲み込みが早いわ
教え甲斐がある」
そして少し肩をすくめる。
「あとは自主練で、なんとかしなさい」
セリアは少し驚いた顔をした。
「え?」
アンネはさらりと言った。
「私、もうすぐ王家。王女エリザベート様の専属侍女になるの」
セリアは目を見開いた。
「おめでとうございます」
そして少し寂しそうに言う。
「でも、会えなくなるのは寂しいです」
アンネは優しく笑った。
「私もよ」
少し冗談めかして言う。
「こんな出来のいい生徒を、中途半端に放り出すなんて」
セリアは真剣な顔で言った。
「アンネ先生なら、どこに行かれてもやっていけると思います
頑張ってください」
アンネは少し照れたように笑った。
「ありがとう」
窓の外では、冬の空が少しずつ柔らかくなっていた。
エーデル男爵家の応接間には、春に向けた温かな空気が流れていた。
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