第五十三話 商人の情報
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セリアがいる国は、アルヴェリア連合王国という。
この国は南東に山脈があり、北西には海岸線が広がる。
元々は南東部の国境周辺の小国であった。
だがその国は軍事力で中央の穀倉地帯を征服し、さらに北西の港湾都市と契約を結んだ。
それぞれの自治権を認めながら、三つの地域は一つの国家としてまとまり、アルヴェリア連合王国が成立した。
しかし問題もあった。
首都が中央の穀倉地帯に移されたとき、建国の地である南東山岳の貴族たちは強く反発した。
結果として、建国の地は辺境伯領として特別な自治権を持つことになった。
軍事の山岳。
農業の中央。
交易の港湾。
それぞれが独自の力を持つ、連合国家だった。
そしてこの国の成立には、もう一つ見逃せない存在があった。
大商家ラウレンツ男爵家である。
アルヴェリア連合王国設立の際、
彼らの情報網と資金は大きな役割を果たしていた。
だが商人である彼らは、男爵以上の貴族位を望まなかった。
武力がないからでもあり、
そして何より――
望まなかったからである。
ラウレンツ男爵家は、商人であることを誇りとしていた。
彼らにとって最大の財産は金ではない。
信用である。
王家からの信頼も厚く、
息子のアルベルトは将来、王太子の側近となる幹部候補と目されていた。
⸻
ラウレンツ男爵家の執務室。
壁一面の帳簿と地図に囲まれた部屋で、ラウレンツ男爵と息子アルベルトが向かい合っていた。
ラウレンツ男爵が静かに言う。
「お前が子供の頃から言っていた、前世の物語の主人公を探したよ」
アルベルトの目が輝く。
「孤児院にいるピンク色の髪、赤目の光魔法が使える少女ですか!
ありがとう父上。大好き」
ラウレンツ男爵は淡々と続けた。
「いなかったぞ」
アルベルトは固まった。
「え?!」
ラウレンツ男爵は机の上の書類をめくる。
「だから、今年の光魔法使い全員を当たった」
アルベルトは父を見つめた。
「父上」
ラウレンツ男爵はさらに言った。
「エーデル男爵の所の侍女が光魔法、ピンク色の髪、赤目だった。
調べたら、孤児院出身だった」
アルベルトの瞳が細くなる。
「それって」
「お前と同じ、前世持ちがエーデル男爵家にいる」
アルベルトは少し笑った。
「誰でしょうね」
ラウレンツ男爵は腕を組む。
「もっと早く動くべきだったな。効率を重視して、光魔法確定まで待ったのが後手に回った」
アルベルトは考え込む。
「物語を利用して派閥を引っ掻き回すつもりでしょうか?」
ラウレンツ男爵は首を振った。
「宰相家が引き取ったならそうだろうが、エーデル男爵家が囲っている」
アルベルトは静かに言う。
「物語の事を知っているが力は無い。
だが孤児院から買い取る財力はある?」
そして続けた。
「エーデル男爵?
夫人?
娘のロゼッタ?」
ラウレンツ男爵は息子を見つめる。
「私はロゼッタだと思うよ」
少し間を置いて言った。
「転生者で物語の内容を知っているなら、始末する」
アルベルトは眉を上げた。
「過激ですね」
ラウレンツ男爵は肩をすくめる。
「息子がたぶらかされて死ぬかもしれない、なら、躊躇はしない」
アルベルトは考えた後、言った。
「もうすぐ王弟殿下の結婚式があります。
僕はロゼッタ嬢と接触してみます」
ラウレンツ男爵は息子を見て言った。
「深追いはするなよ」
⸻
王城。
巨大なダンスホールには、無数の鏡が貼られていた。
天井からは巨大なシャンデリアが下がり、光が宝石のように反射している。
今日は王弟殿下の結婚式だった。
王弟 コンラート・アルヴェリア と、
女王派の名門、ヴァルテンベルク侯爵家の長女
エレオノーラ・ヴァルテンベルク の婚姻である。
この結婚は政治的意味を持っていた。
国王派と女王派の融和。
ダンスホール中央では、二人が厳かに誓いを交わしている。
だが、その端。
人目につかない場所で。
ロゼッタとセリアが小声で話していた。
ロゼッタが囁く。
「王弟殿下って言ったら、六番目の花嫁で出てくる人よね」
セリアがうなずく。
「あ、私が描いた王弟殿下より若い」
ロゼッタは中央を見た。
「十八歳だからね」
セリアは言う。
「聞いている話だと、国王派と女王派をまとめるための政略結婚なんでしょ?」
ロゼッタは肩をすくめた。
「さすがに最初から毒殺はないわよね」
セリアは少しだけ眉をひそめた。
「……どうでしょう」
そのとき。
背後から声がした。
「六番目の花嫁?」
二人はびくっと振り向いた。
そこには、栗色のウェーブした髪、金茶色の目の少年が立っていた。
アルベルト・ラウレンツ。
彼はにっこり笑った。
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