第四十三話 重大な知らせ
5時30分と17時の2回更新しています。
よろしくお願いします。
本日も読んでいただきありがとうございます。
もし楽しんでいただけましたら、ブックマークや下の★から評価をいただけると励みになります。
エヴァルトは国土正教の教会に到着すると、
入口にいた年を重ねたシスターに丁寧に頭を下げた。
「新年おめでとうございます」
シスターも挨拶をした。
「新年おめでとう」
エヴァルトとも長い付き合いのシスターである。
エヴァルトは続けた。
「重大な知らせがありまして、司教様とお会いしたいのです」
静かに言う。
「取り次いでいただくことは可能でしょうか」
そっと小さな袋を差し出した。
寄付である。
年を重ねたシスターは一瞬迷った。
だがこの少年をよく知っていた。
光魔法の論文を書いている貴族の少年。
しかもその論文は、
光魔法の魔力枯渇の危険性
について書かれたものだった。
それによって、シスターたちの労働環境は大きく改善された。
過労で倒れる者が減ったのだ。
その恩があった。
シスターは小さく息をついた。
「……司教様は年始の挨拶でとてもお忙しいのです」
少し考える。
「ですが」
小さく微笑んだ。
「少しだけなら、お時間を取れるかもしれません
お待ちください」
⸻
しばらくして。
エヴァルトとフェルディナントは、教会の司教の執務室へ通された。
護衛騎士は扉の外で待機している。
部屋には、国土正教の司教が座っていた。
年配の男である。
静かな目をしていた。
エヴァルトは礼をした。
「新年おめでとうございます
お時間をいただき、ありがとうございます」
司教は軽く頷いた。
「新年おめでとう
それで」
ゆっくり言う。
「重大な知らせとは何かな?」
エヴァルトは隣の少年を示した。
「こちらはフェルディナントという者です
セイント・サーキット教団に囚われていた」
一拍置く。
「未来視の魔法使いです」
司教の目が、ほんの少し細くなった。
エヴァルトは続ける。
「どうか、この教会で保護していただきたい
そのお願いに参りました」
司教はしばらく黙っていた。
やがて言った。
「……私は派閥争いが嫌いでね」
静かな声だった。
「そんな話を持って来られても困る」
エヴァルトは落ち着いて答えた。
「承知しています
だからこそ、司教様にお願いしています」
司教の眉がわずかに動く。
エヴァルトは続けた。
「司教様は教義に従って生きておられる
政治とは距離を取っている
だからこそ、この少年を預けられると考えました」
司教はフェルディナントを見た。
褐色の肌。
痩せた体。
手には鞭の跡が見える。
司教は少し考えた。
やがて静かに言った。
「……今日
貧民街から未来視ができる少年が現れた」
エヴァルトは何も言わない。
司教は続けた。
「身元不明
行き場なし
だから」
司教は椅子にもたれた。
「私が保護する
それでいいか?」
エヴァルトは深く頭を下げた。
「ありがとうございます」
その時。
フェルディナントが口を開いた。
「ここに来る前のことは」
小さく言う。
「誰にも言いません
貧民街にいたって言います」
司教はゆっくり頷いた。
「賢い子だ」
司教はベルを鳴らした。
シスターが入ってくる。
「この少年を保護する
未来視ができる
目を離すな
それから
この少年に新しい服を用意しなさい
そして」
少しだけ声を低くする。
「このことは誰にも話すな」
「わかりました、司教様」
フェルディナントはシスターに連れて行かれた。
部屋に残ったのは、エヴァルトと司教だけだった。
司教は静かに言った。
「……君は何を考えている?」
エヴァルトは答えない。
司教は続けた。
「セイント・サーキット教団は女王派の資金源
国土正教ですら
手を焼いていた
未来視のせいでね」
エヴァルトは小さく笑った。
「教団は未来視の魔法使いを違法に保有していた。
一人の貴族として
それを正した
それだけです」
司教は少しだけ笑った。
「怖い子だ」
エヴァルトは立ち上がった。
「本日はありがとうございました」
教会を出る前。
エヴァルトは世話になっているシスターたちへ新年の挨拶をして回った。
やがて馬車に乗り込む。
王都の冬の空気は冷たかった。
だがエヴァルトの表情は、少しだけ満足そうだった。
フェルディナントは、もう教団には戻らない。
そして――
セイント・サーキット教団は、必ず崩れる。
エヴァルトはそう確信していた。
5時30分と17時の2回更新しています。
よろしくお願いします。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
もし楽しんでいただけましたら、ブックマークや評価をいただけると励みになります。




