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乙女ゲームのバッドエンド絵師、ゲーム世界に転生する 〜バッドエンドしかない世界で、運命を捨てる〜  作者: SUN3
解けない死の術式

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第四十二話 未来視の少年

5時30分と17時の2回更新しています。

よろしくお願いします。


本日も読んでいただきありがとうございます。

もし楽しんでいただけましたら、ブックマークや下の★から評価をいただけると励みになります。




年末の雑踏。


王都は、年の瀬の忙しい空気に包まれていた。


人々は買い物をし、

商人は声を張り上げ、

教会では祈りの鐘が鳴る。


その喧騒から少し離れた場所に、豪華な修道院があった。


セイント・サーキット教団の修道院である。


高い天井の礼拝堂。


少年たちの歌声が響いていた。


聖歌隊。


二十人ほどの少年たちが並び、賛歌を歌っている。


その中の一人。


フェルディナントは、そこにいた。


褐色の肌。

灰銀色の髪。

淡い金色の瞳。


歌いながら――


突然、フェルディナントは知った。


未来が、二つに分かれたことを。


(……未来が、分かれた)


歌いながら思う。


逃げても――酷い未来にはならない。


そんな未来視が見えるなんて。


(……初めてだ)


フェルディナントは思った。


(逃げてもいい未来なんて)


フェルディナントは、未来視の中で見た人物を思い出す。


銀髪。

紫の瞳。


エヴァルト。


その顔を、記憶に叩き込んだ。


その時。


指揮をしていた修道士が、突然歌を止めた。


「フェルディナント!」


鋭い声。


「お前はまた音を外したな!」


修道士は鞭を振り上げた。


「罰だ!」


パシン。


鞭が振り下ろされ、フェルディナントの手を叩いた。


フェルディナントは顔色一つ変えない。


フェルディナントは、歌が上手くて聖歌隊に入ったわけではない。


同じ年頃の少年たちの中に混ざり、

目立たないようにするためだ。


だから、よく叩かれる。


歌の指導者である修道士から。


それだけではない。


フェルディナントは未来視をしなければ、さらに鞭を打たれる。


各地方の天候。


穀物の先物相場。


船舶が安全に帰港するかどうか。


競馬の到着順位まで。


すべてを見せられる。


フェルディナントは、この教団から逃げたがっていた。


だが。


どれだけ未来視をしても。


逃げた未来は、もっと酷い結末になる。


だから諦めていた。


だが。


今日は違った。


逃げても――酷いことにならない未来。


そんな未来が見えたのだ。


(……やっと)


フェルディナントは思った。


(逃げられる)



新年が来た。


新年初日。


王家には宰相や侯爵たちが挨拶に訪れる。


二日目。


宰相家や侯爵家に、伯爵、子爵、男爵の家が挨拶に来る。


宰相家は、多くの客を迎えていた。


玄関ロビー。


宰相と宰相夫人が並んで立っている。


宰相夫人の隣には、カイゼルの二人の姉。


宰相の隣にはカイゼル。


そして――


ロゼッタ。


ロゼッタは将来の宰相夫人として、今年初めて宰相家の人間としてロビーに立っていた。


次々と客が挨拶に訪れる。


中には小声で囁く者もいる。


「ほら、四属性の男爵娘だ」


「見て、あの大きなバングル」


噂が流れる。


だが、ロゼッタは堂々と立っていた。


新年の挨拶には、派閥は関係ない。


女王派も、国王派、中立派も来る。


そして――


エヴァルトも来ていた。


「新年、おめでとうございます」


カイゼルは小さく頷いた。


「新年おめでとう」


エヴァルトは声を落とす。


「今日、新年のどさくさに紛れて例の修道院に行ってみる」


少し笑う。


「失敗したら、後は頼む」


カイゼルは静かに答えた。


「わかった


 何かあったら、父にあのスケッチを渡す」


エヴァルトはカイゼルに笑いかけた。



その後。


エヴァルトの家族は、宰相家を出て馬車に乗った。


シュトラール伯爵が言う。


「主だった面々には挨拶できたな。あとは、


 細かい家だけだ」


エヴァルトは静かに言った。


「個人的に行きたい場所があります」


伯爵は眉を寄せる。


「どこだ。理が薄いとはいえ、まだ挨拶があるぞ」


伯爵夫人が微笑んだ。


「レーヴェン侯爵家でしょう?


 婚約者のティアナちゃんに夢中なんだから」


妹も言った。


「私も一緒に行きたい!」


エヴァルトは淡々と答えた。


「昨日言いました通り


 光魔法研究でお世話になっているシスター達への挨拶です


 新年にわざわざ行くところを見せて、恩を着せたい」


伯爵はため息をついた。


「まったく……研究バカだな


 一度家に帰れ。護衛騎士を付けてやる」


御者に言う。


「おい、家に帰れ」



その後。


エヴァルトは護衛騎士と共に、セイント・サーキット教団へ向かった。


護衛騎士は困惑していた。


予定にない場所だからだ。


エヴァルトは短く言った。


「少し寄るだけだ」



セイント・サーキット教団。


新年の挨拶に来た庶民たちで、ごった返していた。


礼拝堂の奥。


フェルディナントは聖歌隊の列にいた。


そして。


未来視の通り。


監視が緩んでいた。


そっと列から抜ける。


外へ出る。


その瞬間。


一台の馬車が止まった。


そこから降りようとしていたのは――


エヴァルト。


フェルディナントは駆け出した。


「助けて」


エヴァルトは一瞬だけ少年を見た。


そして。


無言でフェルディナントを馬車へ押し込んだ。


「ここにはもう用はない」


エヴァルトは言った。


「国土正教へ出してくれ」


護衛騎士は驚いたが、すぐに頷いた。


「はっ」


護衛騎士は正直、新興宗教の施設から離れられるなら、なんでもよかった。


馬車が動き出す。


エヴァルトは少年を見た。


「フェルディナントだな」


「うん」


「未来視ができる」


「うん」


「僕のところに飛び込んできたのも未来視か」


「うん」


フェルディナントは首を傾げた。


「君こそ、なんでオレを知ってて助けてくれるの?」


エヴァルトは答えない。


「言えない」


少しして言う。


「僕はこれから君を国土正教に預ける


 そこから王国の未来視部隊に入れられるだろう」


フェルディナントは頷いた。


「知ってる」


少し笑った。


「教団よりずっとまし


 ありがとう」


馬車は走る。


新年の雑踏の中を。


フェルディナントが脱出したことは、まだ誰も知らなかった。







5時30分と17時の2回更新しています。

よろしくお願いします。


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