第四十話 青年が少年になる
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エーデル伯爵家の廊下。
そこにはまだ、セリアとエヴァルトの二人が立っていた。
セリアが言った。
「ティアナのバッドエンド、早まる可能性もあります」
廊下に静かな空気が流れた。
それでも。
エヴァルトは、まだセリアの手を離さなかった。
セリアは小さく言った。
「レーヴェン侯爵がカルトから抜ける方法はないですか」
エヴァルトは淡々と答える。
「ゲームの知識としては知っている」
少し間を置く。
「だが、レーヴェン侯爵はセイント・サーキット教団の信徒であることを隠している
表向きは国土正教徒だ」
セリアは眉をひそめた。
「じゃあ……潰れるのを待つしかないか」
エヴァルトはすぐに言った。
「セイント・サーキット教団は女王派の資金源だ
潰れることはない」
セリアは少し考えてから言った。
「カイゼル様が動いています
何年かかるかわかりませんけど
教団は潰れます」
エヴァルトは小さく鼻で笑った。
「バカだな」
紫の瞳が冷たく細くなる。
「派閥争いが過激になる
中立派もただでは済まない」
少し声が低くなる。
「そうなればティアナが――」
セリアは言った。
「なら
女王派の誰かが動いてくれたら
内部抗争で済むのに……」
少し考える。
「……無理か
理由がない」
エヴァルトはしばらく黙っていた。
そして言った。
「……誰が動こうと無駄だ」
セリアが顔を上げる。
エヴァルトは続けた。
「セイント・サーキット教団には
未来視できる少年がいる」
セリアの目がわずかに大きくなる。
エヴァルトは言った。
「しかも隠されている
女王派の俺でも
どんな容姿かすら分からない」
セリアは少し考えた。
それから、ぽつりと言った。
「あの……」
エヴァルトが見る。
セリアは言った。
「ボツバッドエンドを描く中で
ディレクターから重要な隠し要素を聞きました」
エヴァルトの目が鋭くなる。
「ディレクター
重要な隠し要素……」
エヴァルトは一言。
「教えてくれ」
セリアは言った。
「フェルディナント」
エヴァルトの眉がわずかに動いた。
セリアは続ける。
「褐色肌
灰銀色の髪
淡い金色の瞳」
エヴァルトの瞳が細くなる。
セリアは言った。
「ボツバッドエンドの時は青年でした
でも今は
バッドエンドの五年前
少年のはずです」
そして少し声を落とす。
「もしかしたら
未来視の少年なんじゃないかと……」
廊下が静まり返る。
エヴァルトはゆっくり聞いた。
「今も絵を描けるか?」
セリアは少し戸惑った。
「描けます
多分」
そして困った顔をする。
「でも画材が――」
エヴァルトは遮った。
「なんとかしろ」
冷たい声だった。
「フェルディナントの青年の姿
それと
想像でいい
少年の姿も描け」
セリアは目を瞬かせた。
エヴァルトは続けた。
「それを
カイゼル経由で俺に渡せ」
そして静かに言った。
「でないと
殺す」
エヴァルトの手が、さらに強くセリアの腕を握る。
セリアは小さくうなずいた。
「わかりました」
エヴァルトは言った。
「絶対だ
新年になる前に
僕に絵が渡らなかったら」
紫の瞳が冷たく光る。
「殺す」
セリアは青ざめた。
「ひえ
わかりました」
ようやく。
エヴァルトは手を離した。
その時。
爺やが静かに近づいてきた。
「話は終わりましたか?」
穏やかな声だった。
だが視線は鋭い。
「セリアが脅されているように見えましたが」
エヴァルトは肩をすくめた。
「心に負担をかけて、数値を測っていただけです」
赤い手袋を軽く見せる。
「この手袋に仕掛けがあってね」
少し笑う。
「ちょっと過激だったかな」
爺やは黙っていた。
「……そうですか」
どうやら納得していない様子だった。
だが、伯爵の嫡男に物は言えなかった。
――その頃。
庭では。
ロゼッタたちがかくれんぼをしていた。
「ロゼッタちゃん、みーつけた!」
子供の声が響く。
ロゼッタが笑う。
「また見つかっちゃった!」
エミリアも笑った。
「わたしも見つかっちゃった!」
ロゼッタは言った。
「お揃いね」
エミリアも言う。
「お揃いね」
子供たちの笑い声が、
冬の庭園に明るく響いていた。
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