第三十九話 解けない死の術式
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爺やの後ろ。
そこに立っていたのは――
エヴァルト・シュトラールだった。
銀髪。
紫の瞳。
やや細身の体格。
そして――赤い手袋。
その姿を見た瞬間。
セリアの頭の中に、ある絵が浮かんだ。
エヴァルトと主人公の心中エンド。
タイトルは――
「解けない死の術式」
なかなか、きついエンドだった。
セリアがぼんやり考え込んでいる間に、エヴァルトはすぐ目の前まで来ていた。
そして。
セリアの腕を掴んだ。
「えっ」
強引に引かれ、セリアは廊下へ連れ出された。
エヴァルトは爺やに言った。
「話を聞くだけだ
二人きりにしてくれ」
爺やは少し警戒した顔をしたが、やがて数歩離れた場所へ移動した。
完全に見えない場所には行かない。
だが会話は聞こえない距離だ。
エヴァルトは、まだセリアの腕を掴んでいた。
セリアは小さく息を吸い、言った。
「カイゼル様から聞いています
あなたが転生者だと」
エヴァルトの目がわずかに細くなる。
セリアは続けた。
「私も転生者です
あなたの邪魔はしません」
一瞬。
空気が止まった。
エヴァルトの瞳が鋭く光る。
「……?」
セリアは言った。
「私は前世で
ライクラのバッドエンド専門絵師でした」
エヴァルトは驚いた顔をした。
だが。
手は離さない。
むしろ少し力が強くなった。
「びっくりした」
小さく呟く。
「だが」
冷たい声になる。
「カイゼルの入れ知恵かもしれない」
エヴァルトは自分の赤い手袋を指差した。
「この手袋には、お前の魔力を吸収する魔法陣を組み込んでいる」
セリアの顔が引きつる。
「下手な動きをすると」
エヴァルトは淡々と言った。
「魔力枯渇で死ぬぞ」
「ひえ」
セリアは素直に怯えた。
エヴァルトはさらに言った。
「本当は
有無を言わさず殺すつもりだった」
セリアは小さく息を吐いた。
「よく主人公がここにいるってわかりましたね」
エヴァルトは答えた。
「カイゼルが微妙な言い方をしていた
エーデル男爵家にいる光魔法使い
それが主人公だと推理した」
セリアは頷いた。
「なるほど」
エヴァルトは続けた。
「今日会えたのは偶然……」
少し考える。
「いや
いると思っていた」
セリアは首をかしげた。
エヴァルトは言う。
「魔力暴走の危険がある子供がいる
なら
念のため光魔法使いを連れてくるだろう」
セリアは納得した顔をした。
「確かに」
そして言った。
「転生者の証明ってできないですけど
知識なら語れます」
セリアはゆっくり言った。
「『解けない死の術式』」
エヴァルトの目がわずかに揺れる。
「エヴァルトと主人公の心中エンド」
セリアは続けた。
「愛する人を独占するためだけに
誰にも解けない呪いを構築する
二人は氷の中に閉じ込められる」
セリアの目は少し遠くを見ていた。
「CG、私が描きました
二人が恍惚と見つめ合った瞬間
そのまま氷に閉じ込められている
憐憫があふれるCGになるよう頑張りました」
エヴァルトは少し黙った。
そして聞いた。
「ティアナのエンドは?」
セリアは即答した。
「『最愛の生け贄』エンド」
エヴァルトの眉が動く。
セリアは淡々と言った。
「レーヴェン侯爵がカルト宗教にハマる
そして
教祖に唆されて
一番可愛い末娘を差し出す」
エヴァルトの手の力が強くなる。
セリアは続けた。
「脂ぎったおっさん教祖に差し出されて
絶望するティアナ
描くの大変でした」
セリアは苦笑した。
「ディレクターとキャラクター原案者が揉めてて
原案者が一番愛してたキャラがティアナだったんです
だから
どんどん不幸になっていって
リテイクが増える増える」
エヴァルトが呟いた。
「ディレクターがティアナを嫌っていたのか」
セリアは首を振る。
「嫌ってたかは知りませんけど
原案者が嫌がるように
何がなんでも酷いバッドエンドにするって感じでした」
エヴァルトは小さく言った。
「……だから
僕のルートが掲示板で初心者ルートと呼ばれていたのか」
セリアの顔が一瞬で険しくなる。
「掲示板!?」
思わず声を上げた。
「あいつら嫌い!
無断転載ばっかりでムカついた!」
エヴァルトは軽くため息をついた。
「それより
ティアナのことを教えてくれ」
セリアは少し真面目な顔になった。
「カルト教祖
サド設定追加されてましたよ」
そして続ける。
「それより
今世のカルト
セイント・サーキット教団」
セリアは小さく声を落とした。
「やばくないですか?」
エヴァルトの目が細くなる。
セリアは言った。
「庶民に広がっています
広まり方が異様です」
少し考えて言う。
「終末観が漂うこの時代
逃げ場になってるみたいです」
そして最後に言った。
「ティアナのバッドエンド
早まる可能性もあります」
廊下に静かな空気が流れた。
それでも。
エヴァルトは、まだセリアの手を離さなかった。
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