第三十七話 渡されたメモ
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カイゼルは王家のお茶会のあと、母親を連れてエーデル男爵家を訪れていた。
理由は簡単だ。
「ロゼッタに会いたい」
と、またわがままを言ったからである。
今回は母親も一緒だった。
応接室では、カイゼルの母とエーデル男爵夫人マルガレーテが穏やかに談笑している。
その少し離れた場所。
ロゼッタとカイゼルは、小声で話していた。
「会いたかった、ロゼッタ」
カイゼルがそう言うと、ロゼッタは嬉しそうに微笑んだ。
「私もです。カイゼル様」
その瞬間。
カイゼルはさりげなく、小さな紙をロゼッタの手に握らせた。
ロゼッタは何も言わない。
ただ、そっと袖の中に隠した。
書かれていたのは、短い文章だった。
――エヴァルト・シュトラールは転生者
――主人公セリアを探している
――気をつけてくれ
それだけだった。
特に大きな出来事もなく、和やかな社交は終わった。
カイゼルは母親と共に屋敷を後にした。
⸻
カイゼルたちが帰ったあと。
ロゼッタはすぐにセリアを自室へ呼んだ。
セリアが部屋に入ると、ロゼッタは先ほどの紙を差し出した。
「これ、カイゼル様から」
セリアは紙を読んだ。
そして首を傾げる。
「エヴァルトが私を探してるって……なんででしょう」
ロゼッタは少し考えた。
「エヴァルトって、魔導科首席のエヴァルトよね?」
「まあ、そうですね」
セリアはあっさり言った。
「でも、お茶会に気をつければ大丈夫でしょう」
かなり雑な扱いだった。
所詮、セリアは侍女見習いだ。
エーデル男爵家の外に出る機会など、他家のお茶会くらいしかない。
ロゼッタは思い出したように言った。
「お母様から聞いたんだけど
エヴァルトの家、女王派なんですって」
セリアは少し驚いた。
ロゼッタは続ける。
「今のところ、私が呼ばれるお茶会は従兄弟だけだから」
少し安心したように笑う。
「会うことはないわよ」
⸻
同じ頃。
エーデル男爵ハインリヒは執務室で手紙を読んでいた。
差出人は兄。
エーデル伯爵である。
向かいのソファには妻マルガレーテが座っていた。
ハインリヒは手紙を机に置いた。
「兄からお茶会の誘いを受けた」
マルガレーテは微笑んだ。
「まあ、もしかして?」
ハインリヒは頷く。
「甥たちの友達も呼ぶそうだ」
そして言った。
「つまり――ロゼッタちゃんのお披露目会だ」
マルガレーテの顔が明るくなる。
「素晴らしいわ」
ハインリヒは手紙を指で叩いた。
「兄も随分と気を遣ってくれている
国王派の子爵や男爵の家を中心に呼んでくれているらしい」
そして聞いた。
「招待客リストを見るかい?」
マルガレーテは嬉しそうに言った。
「ぜひ見せて」
手紙を受け取る。
そして静かに言った。
「ありがたいわ」
⸻
その話は、爺やを通してセリアにも伝えられた。
爺やは静かに言った。
「またエーデル伯爵家でお茶会です」
セリアは背筋を伸ばす。
「はい」
爺やは続ける。
「今回は前回と違い、他のお客様もいらっしゃいます
もちろん、あなたも同行です」
「はい」
爺やは少し声を低くした。
「今度は他家の侍女もいます
前回のようなおしゃべりは控えるように」
セリアは少し驚いた。
(見られてたのか……)
爺やは続ける。
「他家にうちの事情を話してはいけません
特に――」
少し間を置く。
「私が宰相家に雇われていること
これはエーデル男爵家の沽券に関わります」
セリアはすぐに答えた。
「はい」
爺やは少し表情を緩めた。
「まあ、今回のお客様は子爵や男爵家ばかりです
大きな問題はないでしょう」
セリアは少し考えて聞いた。
「カイゼル様から派閥の話を聞いたんですが
他の派閥の方も来るんですか?」
爺やは首を振った。
「安心しなさい
この家と同じ、国王派だけのお茶会です」
そして少し考えた。
「やはり三人だけの懇親会はやめようか……」
セリアは慌てて言った。
「お願いします」
そして少し照れたように言う。
「ちょっとだけ、背伸びがしたい年頃なんです」
セリアは訳の分からないことを言いながら、
爺やの懇親会の立ち会いを断ったのだった。
爺やは少し驚いたが、何も言わなかった。
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