第八話
続きです。
公民館へとたどり着くと、昼間に見る姿とは大きく違って、何か出てきそうな怖い雰囲気を感じる。
……オバケとか出てきたらどうしよう。え、流石にないよね?来られたら足がすくんでどうしようもなさそうなんだけど。
ていうか、公民館っていう場所はわかったけど、2人の具体的な位置がわかんない。
だから、来たはいいものの、これ以上の手がかりが……
待って、あんまりしたくないけど、多分この方法ならわかる。少なくとも雪愛と彩奈の匂いは覚えてるから。
私は誰にも見られていないことを確認して、地面に手をついて匂いを嗅ぐ。
いくつもの不快な匂いが鼻を刺すが、その中に、安心できる匂いが紛れていることに気がついた。
匂いの強くなる方向は……公民館の裏。
それを追うと、いつもお世話になってる、ダンボール置き場があった。
ここが今の時点で、匂いが1番強い。
一際大きな段ボールを動かすと、地面に埋まった扉が見つかった。
それを開けようと手をかける。
「おい、何をしている。」
どこか聞き馴染んだ声。そして、今…というか基本的に会いたくない人物の声。
「こんな時間に夜遊びか?感心しないな、俺以外にそんな相手がいるとは。」
いや、マジでアンタはキモいし消えて欲しい。口にできないけど。
おそるおそる振り向くと、そこにはうちの体育教師…佐古田の姿があった。
コイツは、うちの学校のあらゆる女子にちょっかいをかける上に、少しでも不快になると、授業中の運動量を倍以上に増やしてくる最悪な奴だ。
しかも、さっきみたいに、冗談か本気かわかんないトーンで気持ちの悪いことを言ってくる。普通に無理。
「猫山、なんとか言ったらどうなんだ?」
う〜ん、やっぱバレてるよね…バレないわけがない。しかも、今ここの位置的に月の光で照らされてるから、パーカーの効果も意味がない。
取り繕うように引き攣った笑みを浮かべながら、口を開く。
「なんでここに…?」
「それはこっちのセリフだ。なぜ、こんな時間にこんなところにいる?ここら辺はカラオケもホテルもないぞ。不純異性交遊目的なr……」
佐古田が吹っ飛ぶ。ほおに大きなあざを作って。フェンスからガシャァァン!!と大きな音が鳴る。
理由は簡単。思わず私が手を出していたからだ。普通に通報案件のセクハラなんですけど。これくらいは許してほしい。
というか、佐古田は本当になんでここに…?隠れてタバコでも吸いにきた?意味わからないか。
吹っ飛んだ佐古田を見ると、かつてないくらい、額に青筋を浮かべて鬼の形相を……って、ホントに角が生えて…!?
「よくも、よくも!普段俺が目をかけてやってるお前が俺をぶん殴ってくれたナァァァ!!」
体が全身真っ赤に染まり、その手にはどこからか出てきた金棒が。
「猫山ァァァ!!その胴体引キちぎって俺の家に飾ってヤルよ!!」
どこかイントネーションがおかしいことが気になるけど、今は気にしてられない!
佐古田が金棒を振り回す。すぐさま射程範囲から逃れて佐古田の様子を見る。
あの感じだと、実は佐古田は妖家だったってことだと思う。しかもわかりやすく鬼の。
そして、あの破壊力。アスファルトに叩きつけられた金棒がアスファルトを砕いて、破片が飛び散る。
「猫山ァァァ!!普段からオれヲ舐めた態度とリやがっテ!!絶対にゆルさん!!」
やっぱり、見た目通りのパワータイプだね。まともに食らったら無事じゃ済まないかも。
というか、舐めた態度って…増やされたメニューをムカつくからすぐ終わらせただけなんですけど。
私は、腰のホルスターからナイフを抜き、佐古田を正面に見据えて構える。
たしかこのナイフで3回切ればいいんだったよね……あれを避けながらって、結構難易度高くない?
でもここでやらないと確定でやれるし…佐古田のことだから、捕まれば何してくるかわからない。
それに、時間がかかりすぎると2人が危ない。とっとと終わらせよう!
金棒を引き摺りながらこちらへと向かってくる佐古田に、段ボールを投げつけて、懐へとナイフを伸ばす。
にんじんをスッと切るような、硬くて、でも爽快な切れ味を実感したのち、一度距離を取る。
「ウガァァァァァァァ!!」
佐古田は投げられた段ボールを手でグシャっと握り潰し、金棒に振り回されるように振り回しながら咆哮をあげてこちらへと向かってくる。
ダメージはないのね!ダメージ判定つけてよ!
私は、手すりを足場に、公民館の屋根の上に避難して、一瞬佐古田の目線がこちらに向いた時、屋根の裏を蹴って、佐古田の元へと飛び出す。
2回目!勢い余っておでこを地面にぶつけちゃったけど無問題!
佐古田が私に向けて金棒を振り下ろしてくる。避ける暇がない!
辛うじてナイフで受け止めると、金棒の尖った部分が私の胸に当たる。でも、食い込むことはなく、服の表面で無理やり止められてる感じ。
防御力があるってそういうことね。服そのものが盾になってる感じだ。
でも、佐古田の力が強すぎる。このままだと押し切られる……!というかシンプルにこんなちっちゃなナイフだけで止めるとか無理ありすぎ。
段々と強くなる圧力に、思わず歯を食いしばる。それを見て佐古田が勝利を確信したのかニヤニヤとした笑み。
「オイオイ、そんナンジャ、オ、オオレレレレににカテテカテナナナ…」
突然、佐古田の言葉がおかしくなった。その瞬間、佐古田の目が白目を剥き、力が緩む。金棒を力を利用して横へと押し流して、なんとかその場から避けられた。
様子のおかしい佐古田を見ていると、突然血を吐いて倒れた。
駆け寄ってみると、先ほどまでしていた呼吸と鼓動が止まっている。
どういうこと…?なんで急に…えっ、死んだってこと?
わからないけど、急にこうなったのは確か。さすがに、いくらコイツが嫌いだからって、見殺しにする理由はない。
心臓マッサージをする。やり方なんて授業でやってうろ覚えなだけだけど…!やらないよりマシらしいし…!
だけど、鬼の分厚い胸のせいか、全然心臓マッサージできてる感じがしない。表面で突っ張って跳ね返されてる感じ。
そうしているうちに、誰かの気配を感じた。
横に転がって避けると、さっきまでいた地面にナイフが突き刺さってた。私が持ってるみたいな奴じゃない、殺意が乗りに乗りまくった真っ黒なナイフが。
周囲を見渡すが、そこには誰もいない。そして、気がつくと佐古田の姿が消え、ナイフも消えた。
多分、ナイフを地面に突き刺した犯人が回収したんだと思う。全く気配がなかった。
少しだけ佐古田のことが気になるけど、あんな奴より、2人の方が大事!切り替えてさぁ、あの扉から侵入するよ!
ポーチから飴を取り出し、口に入れる。おでこにできたたんこぶがなくなった。
公民館の裏に回り、扉を開く。結構重かった。鋼鉄でできてる扉らしい。
ようやくの思いで開けると、私はフードを深く被って中に飛び込むのだった。
中は、暗いがポツポツと明かりが照らされた、なんとも不気味な廊下だった。所々ドアがあって、人が話すような声や人がうめくような声が聞こえる。
いやでもその声は聞こえてしまう。だから一度、耳と尻尾をしまう。こうすれば多少はマシだ。
恐る恐る進む。だけど、2人がいそうな気配のある部屋がわからない。
加えて部屋から誰か出てきた。白衣みたいなのを着て、手に何かのボードを持っている。
「ふぅ…経過観察完了。やっぱり、あいつら相手にするのは骨が折れるわね。」
肩を回しながらどこかへといった。少しだけ開いた隙間から中が見えたが、何やらガラスで中が仕切られてる部屋になってた。
誰かを閉じ込めてるの…?いや、もしかしたら研究…?あの金髪野郎の話を考えるとなくもない話だ。
2人がこういう所に閉じ込められたことを考えつつ、スマホで時間を確認。
現在10時半……!?
マズイ、本当に急がないと!こういう場所だから何してくるかわからない!
とはいえ、どこにいるかわからないし…あまり聞きたくないけど、2人を探すためには力使わないといけないのか……
仕方なく、もう一度耳と尻尾を出す。周りの音が鮮明に聞こえるけど、同時に苦しむ声も話す声も数倍聞こえる。
こうなってくると頭が痛くなってきそうだ。人混みとか、人が集まる場所では特にこの力を使うのは苦手。匂いも色々混じるし。
でも不思議なことに、匂いは基本的に消毒されて病院みたいな匂いだ。もちろん他の匂いもするけど、微々たるもの。多少は疲労が抑えられるかな。
廊下を進みながら音を聞くものの、2人のっぽい声は聞こえてこない。
廊下の突き当たりまできたところで、一つ扉が置かれていた。
ここを進む以外に2人を探す方法はない…!
扉を開ける。すると、そこは学校の教室くらいの広さの開けた空間だった。
奥にまた扉が置かれている。でも、それ以外にものは置かれていない。
……明らかに罠だよね。でも、トラップとかが仕掛けられた感じはないし…
明かりがついているので、もうパーカーのフードは脱いで、一歩一歩確かめながら進む。
確実に監視カメラで見られてるだろうが、そもそもここを進まないと2人が見つけられない以上、このまま進むしかない。
相手の土俵でやるって…あんまり私の得意じゃないんだけど。まぁ、大体相手の縄張りで戦うことになるから関係ないんだけど。
部屋の真ん中まで来る。すると、私の耳が風切り音を捉えた。
すぐさましゃがみ、次は足元にくる何かをジャンプして避けた。
一瞬しか見えなかったけど、鎌みたいなのがついてた。もしかして、かまいたちみたいなのいる?まぁ、鎌ってとこでしか連想できてないんだけど。
そしてまた、違う方向から刃物が飛んでくる。今度は胸の辺りを狙ったもの。ナイフを取り出して弾く。
しかし、またそれも見えなくなる。
どうなってるの?相手の攻撃が近くに来た瞬間しかわかんないんだけど!もしかして外でのナイフと関係ある!?
何度も違う方向から飛んでくる武器を、ギリギリで避ける。
察知できる範囲的に避け続けるのは簡単だけど…ずっと続くとさすがにいつか当たりそう。
と思えば、急に攻撃がスンと止んだ。
そして、部屋の右側から誰かが姿を現す。余裕そうに足を崩して座ってる。
…っていうか、あそこ誰かいた!?全く気が付かなかったんだけど。後から入ってきたにしても、気が付かないはずはないし。
「…あんたは?どっから入ってきたの?」
「入る?何をおかしなことを。飛び込んできたのはあなたの方だ。」
……んまぁ、間違いない。そもそもここ敵地だね。攻撃してきて2人を攫ってるって時点で敵以外有り得ないし。
男をちゃんと見ると、ボサボサの髪に、灰一色の服、古傷だらけの顔、そしてどこか私を舐めてるような軽薄な笑みを浮かべていた。
「それで?あなたたちの目的は何?なんで2人を攫ったの?」
「…2人?あぁ、今日連れてこられた2匹か。そしてあなたはそれに釣られた哀れなネズミと。猫なのにネズミってなんだかおかしいですね。」
そう言って男が笑う。ぜんっぜん笑えないんだけど。
私が睨むと、男はおどけたように両手を緩くあげる。
「おぉ、怖い怖い。お嬢さん、そんなに睨むと可愛いお顔が台無しですよ〜。」
ケラケラと何が面白いのか、不快な笑い方をする男。一通り笑ったところで、急にこちらをまっすぐ見据えてくる。
「目的って言ったな?教えてやるのはできるが、条件はつける。それでもいいなら教える。もちろん、拒否権はない。」
低い声でそう言って、男は再び姿を消す。目の前で姿を消すとかいう意味わかんないことが起きたけど、男が透明になったとか、煙になったとかじゃなくて、急にパッて、認知そのものができなくなった感じ。
「さぁて、攻撃を30秒耐えるごとに一つ有益な情報をあげましょうか。」
部屋全体から響くような声で、相手の位置が察知できない。だけど、これだけはわかる。
飛んでくるナイフをナイフで弾く。
クッソめんどくさい敵だわこれ。
続き書きました。個人的な話なんですけど、この前スマホ落として画面の端っこにヒビが入って悲しかったですね。幸い、小さなヒビな上に、表示に支障がある感じではなかったからよかったです。




