第十六話
続きです
「我があの症状を初めてみたのは10年前、例の事件じゃな。君も知っているはずじゃ。」
「昨日といい、今日といい、あの記憶を思い出させてくれてありがとうね。あまり思い出したくないんだけど。」
「そう言うな。あの症状を語る上…というより、海莉がああなったきっかけを話すには必須の話だからな。」
狐火先生…改めて狐火ちゃんは目を細めて、昔を想うような表情でいう。
「ああなった…?もしかして、元々はあの力はなかった…?」
「いいや、正確にはあった。だが、発現していなかった。猫又になるのは元々家系的な能力じゃからまぁわかる。問題は…水を操る能力じゃ。」
長座体前屈のセットの前に座り、背中を壁につけて計測を開始する。
水を…たしかに。昨日海莉が水を操ってたね。昨日初めてみた。
「あれは、近いものなら海辺の妖家の能力ではあるが、そやつらはせいぜいコップいっぱいの水を操れる程度じゃ。えぇと?86センチ。柔らかいのぉ。」
まぁ、かなり昔と比べて力は全体的に落ちてるらしいしね妖家の力は。
とはいえ、海莉ちゃんの操る水になぜ癒す力があったのかはわからないんだよね……普通の水はそんな機能ないのに。
「ということは、妖家以外の力が海莉に発現してるってこと?」
「あぁ、おそらく。しかし、あのヘルメットが出現するものとはまた違うだろう。特に感情の昂りにあるときに、水を操り始めているからな。」
う〜ん、あのヘルメットはただの装備っぽいんだよねぇ…仮に海莉ちゃんの親の能力だとしても、どんな妖家の力かわからないし。
3本の線の真ん中に立つ。
「……どんな力であれ、その力が海莉のあのような症状を負わせたといえるじゃろう。自由に使えるわけではないだろうが、この力のことを話すと海莉は容易に使うかもしれない。一応黙っておいてくれぬか?」
「あんたが心配しなくても、海莉ちゃんに負担かけさせるようなことはしないよ。むしろボクが海莉ちゃんに頼って欲しいくらい。」
あれ、ちょっとそっけなくなっちゃったかな?
狐火ちゃんは少し眉を下げてボクを憐れむような眼差しで見てくる。
「その海莉に対する好意…いや執着はやはり…あの時の……」
「うるさい。あんたには関係ないから。」
気づけばそんなことを言っていた。
「記録は…69回。男子顔負けじゃな。」
狐火ちゃんは少し遠慮気味に記録を言ってくる。
「大体、ボクのこと何も分かってないくせに、そんなわかったような口きかないで。」
イラっとしたから。なにが執着だ。ボクは心から海莉ちゃんのことを守りたいし、大好きだ。それは決してあんなことがあったからじゃ……ない。
「海莉ちゃんはボクが守るし、ずっと一緒にいたい。だから、それを邪魔したりしたら……容赦しないから。」
自分でも驚くほどに低い声が出てた。そんなにイラついてたのかボク。
言いすぎたかなと思い、狐火ちゃんの方を見ると、狐火ちゃんはなんか気持ち悪い笑顔を浮かべてた。
「『ボクが守る』か…クク、中々にいい啖呵じゃな。我の若い頃と同じようなことを言っておる。いやはや、昔の自分がこんな感じだったと思うと、少し恥ずかしくなってくるのぉ。」
「やめて。そんなこと言われたら自分で自分を殺したくなるじゃん。」
「ふふ、それくらいの方が良かろうて。生きる意味を見出し諦めてないのならな……」
突然狐火ちゃんの顔にほんのり陰りが浮かぶ。
やっぱり、生きてきた時間の長さの中で色々あったんだろうなと思う。
それはそうと、やっぱり狐火ちゃんは見た目を若作りしてるだけのバb……
「貴様、今妙なこと考えてるであろう?」
狐火ちゃんが鋭く言ってきた。
「こっわ、何でわかるの!?」
「舐めるでない。表情の細かな変化くらい簡単に気づけるわ。」
「年の功ってやつじゃん。」
「そうじゃな……」
「やっぱおばあちゃんじゃん。」
「よし言ったな?喧嘩ならいくらでも買うぞ。」
「売ったつもりはないので結構ですぅ。じゃあ、外の種目に行ってくるね〜。」
そろそろめんどくさくなってきたから、他の子に混ざって外に行く。
狐火ちゃんがなんかじっと見つめてきたけど無視でいいや。
チャイムの音でふと目を覚ました。時間を見ると、ちょうど12時。昼休みだ。
いつの間にか眠っていたらしい。体を襲っていた気だるさはもう消えて、熱っぽい感じもない。
だけどやっぱり、まだ耳と尻尾は勝手に出たままだ。
隣のベッドを見ると空っぽで、ろくろは保健室にはいないようだった。
保健室の先生にお礼だけ言って、教室に戻る。
教室にろくろの姿はなかった。
「あ、海莉ちゃん!体調大丈夫?無理してない?」
なんだか不自然な笑みを浮かべてる彩奈に違和感を覚える。もしかすると、狐火先生に何か言われたのかもしれない。
しかし、この感じはあまり聞かない方が良さそうだ。彩奈が人の話を聞いてそれを気にするなんてそうそう無いから。
「大丈夫にゃ。むしろ、変な記録にしたりしてにゃい?」
「してないしてない。ある程度手を抜いたつもりだし。本気でやったら疲れるから嫌だし。」
なんか、彩奈らしいと言えばらしいね。真面目にやってそうな気もしてたけど。
まあとりあえずお腹が空いたので、お弁当を食べようと自分の席に戻って気がついた。
そういえば今日、お弁当忘れてる……加えて、財布も今日持ってきてない。朝慌ててたし。
どうしよ。おじいちゃんに電話する?いやでも、最近何かやり始めてるみたいだし……
家まで取りに帰るのもいいけど、この体の状態じゃ逆に危ないんだよね。朝はあやなに連れてきてもらったからいいものの。
どうしようか頭を捻っている時、窓際の席からいくつかの黄色い歓声が上がった。
声のした方を見てみると、そこにはお弁当片手に、帽子マスクサングラスと、中学生くらいの体格だが、いかにも不審者な格好をした人物がベランダにいた。いやここ三階。
しかし、耳が帽子の端から、尻尾がピョンと後ろから飛び出ている。
そしてサングラスは水色で、ほぼほぼ目の向こうが見えているため、ばっちり目の動きが見え、目もあった。
もはやサングラスと帽子はつけている意味がわからないくらいには意味をなしていなかった。
そして、その人物は窓を飛び越えて入ってくると、私の前までズカズカと歩いてきて、弁当を持った腕を出してきた。
「ご主人様〜?お弁当忘れてましたよ〜。なのでぇ、この雪愛がお届けに参りました〜。」
どことなく彩奈に向けてちょっとだけ誇らしそうな顔をした。
彩奈は別に気にしていないという様子で、購買で買ったパンに噛み付いていた。
つまらなそうに口を尖らせた雪愛は、弁当を私に渡すと暑いのか、すぐさま帽子とマスク、サングラスを外した。
今度は教室全体がざわつく。男子達と一部の誰かさんが色めき立つ雰囲気を感じたが、確かに客観的にみれば雪愛はかなり可愛い系の顔だ。
「雪愛、お弁当届けてくれてありがとにゃ。」
「いやいやそんな…素直に言われると照れますよぉ〜。ご褒美にお尻叩いてもらっても〜?」
瞬間、私に冷たい視線が集まる。くっそ、聞き耳立ててる奴らばっかかよ。
「あのね、雪愛。あの時はあんたを止めるためにやっただけにゃから……」
「そ、そんなぁ…ぐすん、やっぱりご主人様にとって、ただの遊びの相手だったんですね……」
冷たい視線がもう少し温度が下がる。一部なんか興奮してる奴もいたが。バカだろ。
「違うにゃ!ああもう、この件は帰ってかりゃにするにゃ!」
「猫みたいなご主人様可愛い〜。」
こいつマジで…こっちが不可抗力だってのに。
「それじゃ、帰ったらご褒美くださいね〜ご主人様っ♪」
そういって、雪愛は窓から飛び出していった。
もはや驚きの声は上がらない。普段から帰る時に私と彩奈がしてるし。
弁当を開けて食べようとすると、ふと人の気配を感じて振り向いた。
「かーいりニャン♪さっきの子は?もしかしてかのじ……じゃなくて、そういうプレイ?」
花奈だった。何かを言いかけてる途中に彩奈の眼圧に負けて言い換えてた。
「あれは………拾い猫かにゃ?変ににゃつかれただけにゃ。」
花奈は何をいっているのかわからないという様子で首を捻った。多分、割と正常な反応してる。
「よくわかんないけど、あの子可愛かったよね!?名前なんていうの?というか、チョコ余ってるからいる?」
多分情報量としてチョコを出してきたんだろうけど……
「ごめんにゃさい。いみゃ猫だから食べれにゃい。」
「……そういえば猫にチョコは毒なんだったね!ごめんね?それでそれで、あの子のお名前は?」
「ユニョアにゃ。雪に愛するって書いて雪愛。」
「ユニョアちゃんかぁ、可愛い名前。」
「違う、ユニョアじゃなくて、ユニョアにゃ!」
「ユニョアちゃんね。ああいう子、食べちゃいたいくらい好き。」
ため息をついて、視線を弁当に落とす。
なんか、所々齧られた跡があるが、まぁ気にしない。
「ねぇ、冗談だから気を悪くしないで。『ユノア』ちゃんでしょ?ちゃんとわかってるから。」
ガクガクと私の肩を揺さぶってくる花奈。あとで色々いっておかねば。
一旦は無視して弁当を食べ続けることにした。そんなに気になるのか、雪愛のことについて聞いてきたが、私も知らないので答えられない。
それを伝えると、少し残念そうにして、彩奈にチョコを分けにいった。あんまり好みの味じゃなかった説。
続き書きました。同時にお久しぶりです。とはいっても、最近は時間の感覚がおかしくなってきていて、月曜がつい昨日だと思ったら、もうすぐ金曜ということに。不思議と時が加速してますねはい。




