第十三話
つづきです。
う、う〜ん……何か声聞こえる。っていうか暑い……何か腕にまとわりついてる気が……
寝ぼけ眼で目をゆっくりと開けて右を見る。
私の腕に抱きついて、安心して幸せそうな寝顔をしている彩奈だ。
左を見る。私の腕に絡みついて満足げな寝顔を晒す雪愛だ。
なるほど。ここは多分まだ夢の中だね。雪愛はともかく、彩奈がいるのはおかしいし。
起き上がって周囲を見渡すと、日が登ったばかりなのか、柔らかい日の光が照らしてくる。
なるほど。この温度的に夢じゃないらしい。隙あらば布団に潜り込んでくるっていう、この2人なりの警告だろうか。
……って、昨日あの後…というか、ヒプターって男に殺したいほどの恨み抱いたところまでは覚えてるんだけど……
いや、うっすらと赤い何かが……
思い出そうと頭を捻る。しかしながら、ぼんやりとして釈然としない。
何がどうなったの…?あの後私は気絶してた?わかんない。
でも、不自然なほどに軽いから、あの男にまた何かされたんだと思う。
それなら常に気を張っとかないといけないから、常になんて疲れるんだけど。マジでゆるさねぇあいつ。
私のお母さんのことも知ってるみたいだったし、今度あったらちゃんと聞かないと。あの後多分逃げられたか、私たちが逃げたかしたみたいだし。
それで…どうやって2人を剥がそう……がっしり掴まれてて腕どころか首を動かすのでやっとと言ったところだ。
まぁ、しばらくはこのままでも良いかな。別に悪い気はしないし。
ふと時計を見ると、8時にかかろうとしていた。
8時ね眩しけど……って8時!!?ええと、昨日が日曜だから…今日月曜じゃん!やっば、急がないと!
バッと跳ね起きて、すぐにクローゼットの中の制服を手に取る。
あとは、彩奈を起こして…雪愛は…別に起こさなくても良いか。
「彩奈!おきにゃさい!8時!」
やばっ、変なところで噛んじゃった。ちょっと恥ずかしい。
「わぅん…?あれぇ?海莉ちゃんおはよ〜。」
「そんにゃのんびりしてる場合じゃにゃい!準備していくよ!」
あれ?なんか今日あんまり滑舌が……
「わかった〜、起こして?」
彩奈が両手をあげて抱っこ待ちの姿勢をとるが、今そんなことしてると遅刻してしまうため、スルーする。スルーすれば彩奈は起きるだろうし。
こう見えて、彩奈は今までに一回も遅刻したことがない。だからちゃんと起きる。
ちなみに、時間は後30分しかない。昨日に続き、寝坊しすぎでしょ私!
顔は後で洗うとして、まずは制服に着替えて……って、焦ってるせいか、耳と尻尾が出てるせいで着替えにくいんだけど。落ち着いたら元に戻るからいいけどさ。
彩奈を見ると、やはりというべきか、いつの間にか窓から自分の部屋に戻っていた。修理業者いつ呼ぼう……
リビングへと降りるとおじいちゃんが朝食を新聞を読みながらのんびりと食べていた。
「おはよ、おじいちゃん。」
「おはよう海莉。はよう飯を食べなさい。遅刻するぞ。」
「わかってるにゃ!」
……にゃ?え?なんで今語尾に、にゃってついた?
でも、おじいちゃんはそれを気にしてる様子はない。もしかしたら寝惚けてるだけかも。
とりあえず、おじいちゃんが作ってくれた朝食をかきこむ。
「ごちそうさま!それじゃいってくるにゃ!」
「気をつけるんじゃぞ〜」
またしても語尾がおかしい気がしたが、遅刻ギリギリのラインまであと5分ほどしかない。
外へと出ると、そこですでに彩奈が待っていた。食パン片手にモグモグしてる。
「さっ、走っていくにゃ!」
声をかけると、一瞬むせたのか彩奈が咳き込む。しかしすぐに持ち直し、残っていたパンを全部口に放り入れた。
「……んぐっ、よぉし、それじゃしゅっぱ〜つ!」
その掛け声と共に私たちは左右確認して学校に向けて走る……はずだったが…。
気がつけば向かいの家の塀に激突していた。
「いったた…何が起こったの…?」
鈍い痛みを発する頭をおさえ、周りを見る。
私が激突して、彩奈が心配して駆け寄ってきているくらいしか、いつもと違うところはない。
「海莉ちゃん、大丈夫?かなりの勢いでぶつかっちゃってたけど。」
「大丈夫にゃ、平気。でも……あやにゃからはどう見えた?」
「なんか、海莉ちゃんが出発しようって言って、その直後に気づいたらぶつかってた感じ。前に倒れた?走りすぎた?って感じ?」
う〜ん、彩奈視点でもよくわからないのか……もしかしたら力が制御できなくなってる?
いや、焦りすぎてるだけかもしれない。早く学校に……
「海莉ちゃん!これ掴んで!」
彩奈がリードを渡してきた。やはり彩奈へとつながっている。
「ちょっと目瞑ってた方がいいよ。」
「え?」
その刹那、目を開いているのに明るくなったり暗くなったり、視界の明るさがチカチカと変わって、目が痛くなった。
そして、気がつくと、学校の校門近くまで到着していた。
…………え?何が起こったの今。
そんな私の考えを見透かしたかのように彩奈。
「簡単に言うと、人と人の影を縫って走り抜けたって感じ。」
いや、簡単に言うけど……多分、彩奈の力を使っての移動ってことかな?
「まぁまぁ、そういうものって思ってくれればいいよ。さ、教室までは流石に走らないと。」
「た、確かににゃ。」
私たちは教室へと急ぎ足を進めるのだった。
教室へと着くと、クラスのみんなが私の方を見てザワザワし始めた。聞いてる感じ、困惑してるみたい……って!
私は慌てて頭を触る。反対の手で腰の後ろあたりも。
そう、朝からずっと耳と尻尾をしまい忘れていたのだ。
いや、一応今までに誤魔化しきれてないから、事情を説明してた友達も何人かいたんだけど、説明してないクラスメイトからは、好奇的な目を向けられてる。
すぐに仕舞おうとするも、いつものように、フッと消せない。むしろ、尻尾と耳がぴこぴこ動いてしまって、余計に注目を集めた。
顔が自分でもわかるほどに熱くなる。うぅ…こんな形で注目浴びることになるなんて……
「恥ずかしすぎて死にそうにゃ……」
思わず呟いてしまうと、花奈が持ち前の地獄耳を発揮した。
花奈は私の友人の1人で、そのブロンド色の髪と同じように明るい性格なんだけど、いつも茶化してくる。
「ねね、今語尾ににゃってつけたよね?つけてたよね!?」
すっごい目を輝かせていってくる。前からどうも、猫耳や尻尾を触りたがってたし、猫が好きなのかもしれない。
「……言ってにゃい。」
何だか認めてしまうと、本当に恥ずかしすぎるので否定するも、やはり猫語になってしまう。
「言った!やった、可憐な猫耳少女の猫喋りを生で聞けた!!人生で2番目くらいに聞きたかった!!」
具体的すぎるだろ。あと一番は何だよ気になる。というか、ナチュナルに可憐と言われて少し気恥ずかしくなる。
それと同時に耳と尻尾がヘタれる感覚があるが、突然シャッター音。
「恥ずかしがった海莉ちゃんの写真ゲットあとで飾っとくね。」
シャッターを切ったのは彩奈だったらしい。目が据わってる。それはもうものすごく据わってる。凄みを感じるくらいには据わってる。
「やめてにゃ?それを使って脅すネタにするとかじゃにゃいよね?」
「……………なんのこと?」
「間が空きすぎにゃ!ってもう、にゃっにゃっうるさいにゃぁ!!」
すっごい泳ぐ彩奈の目を追いながら、どうやっても出てしまう猫語に、もう疲れてしまってきていた。
近くの花菜がなぜだか悶絶したように、頬っぺたを緩めながら左右に体を揺らしている。何してんだこれ。
そして、さっきの声が大きかったのか、一度少しだけ離散しかけた視線がまた集まる。
もうやだぁ……早く元に戻って?というか戻りたいよ……
こうなった原因がわからないからには、元に戻る方法もわかんないんだけど。
チャイムが鳴る。先生が入ってきて、私をチラッと見たのちに、すぐにHRが始まる。
「みなさん〜席につきましたね〜。今日の授業は、いつも通りなのですが、体育の先生が代わりました〜。学級委員長さん、しっかりと挨拶してくださいね〜。」
「はい!」
委員長の元気な返事が聞こえた。
そして、先生……朝日先生の顔を見ると、佐古田の事情を知っているはずにも関わらず、何も気にしていないどころか、むしろ喜ぶかのようにニコニコしていた。
いやむしろ知らないのかな…?
いずれにしろ、あいつは他の先生にもセクハラをしていたということだろう。
……やっぱ、目の前で死なれたからか、佐古田のあの後が気になる。やっぱりどこかで「処理」されたのだろうか。
それに何より、物を扱うみたいな言動が許せない。
人は物ではなくれっきとした生物なのに。
考えれば考えるほどにあいつらの外道なやり方に腹が立ってくる。
でも、今それについて腹を立てても仕方がない。目の前にいていつでもぶん殴れるってわけじゃないし。
それよりも、今日の授業だ。午前中が全部体育という普段なら神……ではあるけど佐古田のせいで嫌な人だった。
そして、今日に限って午前中体育だ。
座学ならまだいいけど、体育がたしか、体力テストだったはず。
しかも、今日は持久走以外全部だったと思う。
もしも、力の制御がうまくいかなかったら、とんでもない記録になっちゃう……
どうしよ、休む?いやいや、仮病だとしても休むのは私のポリシーに反するし……
……………よし、なるようになれ!もうどうにでもなれ!
ってことで、早速体操服に着替えないと。ってか、今日タオル持ってくるの忘れた。最悪。
続き書きました。久しぶりの投稿となりました。そろそろペース上げたいなとは思っています。誤字脱字等あれば、ご報告よろしくお願いいたします。




