第十二話
続きです。
……っふ、ふぅ……。雪愛を抱えながら走るのキツいよ流石に。
変な位置で止まった海莉にようやく追いつくと、息を整えるために大きく息を吸う。
この泥棒猫は離せと暴れるから大変だったよぉ…。
海莉は何かを探すようにあたりの様子を探っている。
……ん〜、これ以上急に動かれると困るから…
ボクは指を鳴らして、リードの持ち手を遠隔で海莉の前足に巻きつけた。
これでよし!これでもうどんなに速くても追いかけられるね!
多分、海莉からも見えていないはずだから攻撃されることもないはず。
海莉は、宙を舞うようにして身を翻したのち、近くにいた白衣の人に向けて水を溜めながら近寄る。
「ひっ、ひぃ……ば、バケモノめ…!」
腰を抜かして逃げられないのか、尻餅をついて後ずさる白衣の男。
そいつをまるで確実に仕留めるかのように、一つ、水の玉の凝縮が始まる。
マズイ、ここで何の罪もない…いや、ここにいる時点で間接的にも、海莉を怒らせたことに関わってるから罪なんだけど。そうじゃなくて。
このままだと海莉がこの人を殺してしまう。そうすれば海莉の中にある信念とか、そういう何かが壊れてしまいそうな気がする。
すぐにいかないと。
「ちょっと〜、丁寧に扱ってよぉ〜。」
そんなこと言ってる雪愛を放り投げて、男と海莉の間に滑り込む。
「海莉ちゃん!これ以上はもうやめて!この人を殺しちゃうよ!」
両手を広げて、男を庇うように背中を向ける。あまり人に背中を向けることはしたくないんだけど。この際仕方ない。
海莉がこちらを見るが、やはりというべきか、ボクを見ていない。
いや、見てはいるんだろうけど、その後ろの男をただただ狙っている。
それを良いことに、ボクの後ろの男はボクを盾にするように隠れた。
こいつは後でちょっと蹴り飛ばしておくとして。
「海莉ちゃん!もう止まって!ボクたちはもう大丈夫だし、あいつもどっかに行ったから!」
ここの奴らがどうなろうと知ったことではない。だって他人だし。
でも、そのせいで海莉がおかしくなるのなら、ボクはここの奴らを許さない。
特にあのヒプターって男は特に。
「海莉ちゃん!いつもの海莉ちゃんに……っ…っ!」
突然喋れなくなった。口を塞がれたからじゃない。口は動いている。
空気も喉を通っているはずなのに声が出ない。喉からは空気の抜けるような音が聞こえるだけ。
突然、眩暈がして視界がぼやけてきた。まさかと思って振り向くと、背後にいた男がボクの顔を見て不敵な笑みを浮かべていた。
「守ってくれたところ悪いが、俺たちの役割は決まってるんだ。」
先ほどまでの怯えた様子とは打って変わり、目をギラつかせてそんなことを言ってきた。
……なるほど、こいつが多分肺か喉かを刺してきたらしい。
やっぱり、やっていい…よ?海莉。
朦朧とした意識でそう海莉に視線を向けて、まぶたに重石が乗っかる。
心臓が張り裂けそうなほど叫んでいた。
えっと、何がどうなってるんでしょう〜?
ご主人様が突然私と同じような姿になったかと思えば、水をまるで銃や光線のように放っていて……
訳がわからないね〜。
でも今の状況の方が余計に……
あのワンちゃんが急に関係のない男をご主人様から守ったと思えば、そのまま倒れて…ご主人様が男を水で貫いて〜……
え、ご主人様、あの転がったワンちゃんに近づいてるんだけど〜?
そう思った矢先に、ご主人様がさっき私の足にしたように、ワンちゃんの胸周りに水をまとわり付かせた。
ご主人様がこうする理由が何となく分かってきたけど〜、痛みどころか、体が怪我してることにも気がつかないって、恐ろしいよね〜。
多分、さっきも私は白衣の奴らに足を刺された。それは多分ワンちゃんも同じ。
そのせいで足に力が入らなくなって動けなくなった。通常ならその後すぐに回復するはず。
そう考えると、私たちの意識が刺されたと感じない上に、体も刺されたことに気がついてないってことになるよね〜。
全く、前々から聞いていたことではあるけど、実際に受けてみると思ったより困惑するものだね〜。
でもまぁ、ここにいる奴らなんて、生かしておく価値もないからとっとと始末して〜…って思ったけどやめとこ〜。
今それすると都合が悪いし〜。
ともかく、ご主人様を止める方法を見つけないとね。見てる感じ、私とは違って相当体への負担が大きいみたいだし〜。
「ねぇねぇ、ご主人様〜?こっちにくればぁ、外に出れて、奴らもいるよ〜!」
大きい声を出してご主人様の気を引く。ご主人様はこっちを向いて、ワンちゃんを水で包んで運びながら私のところに来た。
う〜ん、見た感じご主人様の意識はないみたいなんだよね〜。でも確実に何かしらの意思で動いてる……やっぱり私と同じなのかもね〜。
さてと、早く外に出ないとまたお掃除しないといけないから〜、とっとと地上に戻っちゃおう。
あ、壁ぶち破ろうとして、向こうが土で手を痛めたのは内緒ね?
外への経路は大体わかる。ここに連れてこられた時、見えてたしね〜。まぁ、所々にある扉の向こうで何してるのかは見れなかったけど。
多分認識を遮断する何かの力が働いてる。私たちに傷をつけて認識させなかったものと同じような…ね〜。
めんどくさい奴らと遭遇しちゃったな〜。まぁ、あの胡散臭いアプリの時点で怪しさしかないけど。
あのアプリ自体はどうでも良い。むしろご主人様がお金稼げて喜んでるなら尚のこと。
だから止めたりはしないんだけど〜、それで監視されてる可能性があるってのが気持ち悪いんだよね〜。
公園で居場所が割れたのもそれのせいの可能性があるし〜?もっと言えば……
数年前に私の妹を奪った奴らに繋がる手がかりだ。そして、さっきのヒプターって男が犯人に繋がってると確信した。
ご主人様には悪いけど、足取りを追うために利用させてもらうよ。ターゲットとして狙われてるみたいだし〜。
親戚ってことで潜り込みやすいし〜?かなり前だけど、ご主人様の両親にはお世話になった覚えがあるからね〜。
何かあったら助けつつ利用させてもらお〜っと。
まぁ、ご主人様に一目惚れしたのは事実だし〜、ワンちゃんからワンチャン狙って奪える時に奪っちゃお〜。
にしても〜ここの施設広いね〜。地下にあるのに競技場くらいの広さはあるんじゃないかな〜?
ここまでくり抜いてると地盤がゆるゆるになって落ちそうなものだけど。
私たちに見えない攻撃ができる時点で、その理由とかは考えなくても良いかな〜。
っと、そろそろ外に出られそう。ご主人様は……
ふと後ろを振り返ると、地面に降りてワンちゃんも下ろして座り込むご主人様(猫又)の姿が。
ご主人様はそのまま丸くなって寝ちゃった。
……ええとつまり〜?私が連れて帰らないといけないってことだね〜。
大きくなって背中に乗せても良いけど、絶対に落とさない程度に大きくなると目立っちゃうしな〜。
よし、人の姿に戻って引っ張って帰るしかないね〜。
それじゃ、ちょっと深呼吸。そして人の姿を意識する。
手足が伸びて体の表面で夜の空気の冷たさを感じられるようになる。
そして風の音が雑音じゃない。ザワザワと木々から響く音が不穏な空気を醸し出していた。
ご主人様を片手で抱いて、このワンちゃんは……まぁ、首くらい引っ張っても死なないでしょ〜。
ってことで、服の襟を掴んで持っていく。服の汚れは…気絶して私に運ばせた方が悪いってことで。
マップアプリを開いて時々立ち止まって見ながらご主人様のお家に帰る。
その道中、襲われたりしないか不安になったけど、体の気づくことのできない傷を除けば特に何事もなかった。
あとでちゃんとご主人様に確認してもらお〜っと。それこそ隅々までね〜。うへへへへ〜。
続き書きました。前回から少し間が空きましたね。雪愛がまだ少し何かを知ってるみたいでしたね。個人的には意外と計算高い言動をしてるつもりになってると美味しいです。
それとは別になんですけど、もしも誤字や脱字、辻褄の合わないところがあったら教えてください。自分じゃ気づかないことも多々あるので。
それと、いつでも感想等お待ちしておりますので、是非是非気軽に感想聞かせてください




