下着屋さん
優乃も連れて、家族でショッピングモールへ。優乃の肌着を買った後は、本命の『路上教習』の店。慶一さんは尻込みをする。店には一歩も入らず、斜向かいのベンチで子守だ。せっかくフィッティングを見学させてあげようと思ったのに。
路上教習から五年と経っていないのに、随分前のことのように思い出す。それだけ濃い数年間だったわけだけど、店は陳列されている商品以外はほとんど変わっていない。
「いらっしゃいませ」
あのときの店員さんだ。全く変化していないように見える。
「こんにちは。ちょっとスポブラを見立てて欲しいのですが、採寸やフィッティングをお願いできますでしょうか?」
店員さんは以前と変わらず、採寸をお願いする。奥から、やはりあのときの女性が出てくる。
私の髪を見て驚く。簡単な挨拶をすると、この方、店長だった。の割に、若い店員からの扱いはぞんざいに見える。
二言三言交わした後、例の採寸ブースへ。
私が肌着になると、あれっ? という顔になる。
「もしかして何年か前、竹内さんと一緒に来たことありません?」
「はい。でも、よく判りましたね」
「こんなきれいな骨格の子、なかなか居ないもの。
ところで、その髪は……」
「こっちが本来です。初めて来たときは、視線が集まるのが辛くて、ウィッグを着けてたんです」
「へー。でも、随分大きくなったわねぇ。
ところで、モデルの件、考えてくれたかしら?」
「モデルは、ダメです。夫がヤキモチを妬きます。それに、子どもも居るんですよ」
「結婚してるの? とたんに、歳とった気分だわ」
「お若いですよ。店に来たとき、あのときのこと思い出して、このお店は時間が止まってるんじゃないかって思ったぐらいですから」
「あら、口が上手くなったものね。やっぱり歳とったって気分」
うーん、返しにくい振りだ。
肌着の上から簡単に採寸をすると、やはりブラは替えるべきとのこと。その上で、スポーツブラを選ぶ。こっちはサイズに幅もある上、主にトップのサイズを基準にするので、あまり迷う要素が無い。
それでも、やはりプロの見立てだ。窮屈でもないのにしっかりとホールドされる。
いくつか買い、姓が変わったので改めて会員登録票を書く。
ここでも高橋姓に驚かれる。住所がお義姉さんと同じだから、夫が誰かもバレバレだ。
高額購入なので、店長さんもホクホク顔で外までお見送り。
そして、優乃が大きくなったら見立ててくれる約束。将来は美人とか、いろいろ褒めてくれる。
営業トークで話半分とは言え、娘を褒められると嬉しい。慶一さんは、お店の前で居づらそうだったけど。
帰途につくと、慶一さんは、行き先がランジェリーショップだったことにちょっとご立腹。
大丈夫。巻き込まれたことが明らかだから、その方面では誰も悪口は言いません。やっかみでロリコンとか言われるのは、今後も確定してますけどね。
今夜はお詫びに、ちゃぁーんと『埋め合わせ』しますから。
昨日はちょっとしたデート? だったけど……平日の日中はヒマなんだよね。と言うわけで――何が「と言うわけで」か分からないけど――ゲームを始めた。初期のPS3だから、PS2のソフトが走る。
入れたのは『はじめの一歩』の続編。これは『私』もやってない。初代でもボクシングゲームとしては最高峰に近いけど、続編になって、どれぐらい進歩したのか。
ワクワクしながら起動。
オープニングはムービーじゃない。うーん。
でも始めてみると、ボクシングだ! いや、競技経験自体は無いけど、軽量級のボクシングっぽさが十分出ている。あと、必殺技より強いボディーブローの連打は対策されている。ちゃんと、左右を顔に入れないと。
ストーリーモードはキャラクターに焦点を当てた一作目とは違い、時系列を追う展開だ。性格の違うキャラの使い分けが求められる。あー、前作で出来たハメ殺しとかは出来なくなってる。ダッシュがなくなったからだけど。
初代は、ダッシュ系の必殺技を持っているキャラは、パンチがあたったところでフォロースルーをダッシュでキャンセル。それをパンチでキャンセルし、ダッシュでキャンセルして……という凶悪コンボがあった。ロープ際でフックを一発当てたら、ダウンするまで一方的に連打出来た。
今作は、そういった穴をきっちり潰してあるので、それなりにアウトボクサーらしい戦い方が必要だ。
シナリオをある程度クリアするとパスワードが出る。これを入れることで制限が解除されるわけだ。だったらと、ネットでパスワードを仕入れ、リカルドに挑戦。
意気込んでリカルドに挑んでみたけど……。リカちゃん強い! あっさりTKO負け。コレ、勝てる人居るんだろうか?
何度かチャレンジするが、いいように負ける。単発では倒せない。効果的に連打を入れる必要がある。そして、フックやアッパーは空振りでもしようものなら確実に狙われる。
負けを繰り返して、あることに気づいた。
このゲーム、ワンツーよりも右の後の返しの左の方が速い。つまり、右左の順で当てるのが正解だ。
とは言え、スローバトルを使っても、なかなか難しい。空振りを狙わないとカウンターをもらう。とにかく右を当てないと。
左にスウェイすると右肩が前に出る。ということは、左スウェイ中は右肩が近い分早く届く。
リカルドのパンチを左スウェイで躱して右、そして返しの左というパターンを見つけた。そして、パンチで崩れた姿勢を立て直すところに左を置いておく。そして右、左。あとはこの繰り返し。
少し余裕が出てきたら、ダッキングからの右ボディアッパーから、右のアッパー、良い距離ならコークスクリューを置いておくなど。踏鞴を踏んだら、特にコーナーに追い詰めているときなら、アッパーも混じえた連打と、スウェイからの大振りフック。
これで1RTKO! とりあえず、スローバトルを使えば、安定して勝てる。けど、普通に勝てる人、居るんだろうか?
「よく、勝てたね」
帰ってきた慶一さんはびっくり。
「頭は避けられても、ボディは簡単に避けられないし、パンチを振っている最中も避けられないから、そこを狙うの」
しれっと、したり顔で応える。でも、それなりに大変だし、実際のところ、スローバトル頼りの短期決戦だけど。
でも、ハードでリカルドに勝てたことには、かなり驚いていた。慶一さんも相当挑戦していたみたいだし。




