成人式と共通テスト
三が日明けから、かなり長い帰省で実家暮らし。
曾孫の顔にお祖父ちゃんお祖母ちゃんは大喜びだったけど、お母さんはどうなんだろう?
優乃の姿に、終始目尻は下がっているけど、『孫』のことについては、どこか割り切れないのかも知れない。そんな素振りは見せないけど、そう思ってしまう。それとも私の考えすぎ?
少なくとも、私がおさんどんを全て引き受けていることには、助かっているみたいではあるけど……。
成人式は、実質三学年上の人たちと一緒になる。やはり、あまり行きたいという気分ではない。集まる新成人が同窓生でないどころか、これまで接点も無かったから、誰一人知らない人ばかり。当然ながら同窓会にも呼ばれない。
それでも式典には出ておくべきということで、黒留袖を着付けてもらうが、やっぱり似合わない。髪については……、諦めてる。どの髪型も和装には似合わない。同じ白髪でも比売神子様は和装がバッチリ似合うのに、この違いは何だろう。
お母さんに送ってもらって会場に着くが、駐車場に停められない。それ以前に入れない。結局、近くのコンビニの駐車場で降ろしてもらい、そこから徒歩で会場に向かう。
が、道すがらも注目される。
当然だろう。
この髪色だし、見たことが無い顔だし、仮に見たことがあったとすれば、学年が違うことも知っているはずだ。
それでも、視線が集まる割に、誰一人声をかけてくるでもなく、遠巻きに見るだけだ。
式自体は滞りなく、何事もなく終了。会場でハメを外す人もおらず、ありがたい訓示と新成人代表の決意を聞き流して終わった。
面倒くさかったのが写真撮影。男性ではなく女性の集団に捕獲され、ひな壇に並ぶ。周囲りは知らない人ばかりだ。
記念撮影後、女性達に囲まれいろいろ訊かれ答える。
髪と目の色は自前であること。純粋日本人であること。病気治療で『十六歳』まで海外だったこと。三年遅れで義務教育を終えたこと。
私を見たことがある人は、もっと下だと思っていたらしい。それもそうだ。一昨年までは中学生だった。年齢はプロフィールに矛盾を出さないためで、実際の肉体年齢は十七だ。
それでも、私の噂は案外拡がっていなかった。よく考えれば当然か。私が高校を退学したとき、彼女たちは既に大学生か社会人。
三年の時間差は大きい。それにネット上では私の情報はどんどん消されている。
「ねぇねぇ高橋さん、私たち、夕方からカラオケと食事も行くんだけど、どう? 男の子も来るわよ」
女の子って、あまり合コン的な場に私みたいな子を誘うことは無いと思ってたんだけど……。
「ごめんなさい。男性が居る場での食事は……。それに」
「どうして? もしかして、男性が苦手?」
「いえ、そういう訳でなくて、私は夫もいて。それにまだ授乳中だから、お酒も飲むわけにいかないし」
周囲りは「えっ?」という顔。隅っこの方で「だから留袖……」とか聞こえる。
間が良いのか悪いのか、慶一さんだ。
「あ、慶一さん」
周囲りは一斉に私の視線を追う。ノータイだけど、ジャケットが似合っている。こうしていると、見た目だけはなかなかの男前だ。
「や、遅くなって済まない。なかなか駐車場に入れなくて」
「いえ。私も記念撮影が終わったところだから」
女の子達は「へー」って表情で見ている。ふふーん。うちのダンナ、見た目だけはイケメンだぞ。別に見せびらかすわけじゃないけど、こういう視線はちょっと嬉しい。
「ナンパなんか、されなかった?」
「こんな短い間に、されるわけ無いでしょ。それに、これだけ女の子に囲まれてたら、ナンパ男も近づけるわけないし」
「そうだね。
妻を護ってくれてありがとう」
いやいや、そういう笑顔とセリフは要らないから。
「ほらほら、さっさと帰るよっ。優乃も待ってるし」
慶一さんの左腕をとって引く。
「すみません。お誘いはありがたいのですけど、そういう訳で」
新成人の合コンに子持ちの既婚者が行くのは問題だ。
駐車場に行くと、いつものクラウンじゃなく、レクサスの高い車。見栄っ張りなんだから。と、思ったら、タイヤがパンクして先週末からディーラーだそうだ。
でも、車だったら私のステーションワゴンもあるんだから、やっぱり見栄っ張りだ。
帰る途すがら、会社のことを聞かされる。
「とりあえず、二月一日付けで設備課な。保育所が決まるまでは育休扱いになるけど」
至れり尽くせりだ
新卒採用とタイミングを合わせると、扱いも彼らに準じたものにせざるを得ない。そうなれば、地元以外の生産拠点での研修などで帰宅できない日もあるし、本社機能が東京にもある以上、そちらに出向くこともあるだろう。
そこで、中途扱いでというわけだ。
慶一さんとしては総務部門、お義姉さんの睨みが利く総務課か、秘書室――なぜか秘書室長が私を高く買っているらしい――に行かせたかったようだけど、総務課はあからさまだし、私を秘書に望む人も居ない。
私としては、生産技術部門の方が、知識がある分野で気楽だけど、さすがに慶一さんと同じ課というわけにもいかない。
もっとも、設備課と生産技術課は同じ部屋だし、初めはCADの練習をしている体裁で電話番だろうから、製造部の間接工ならどこでも同じだろう。
成人式後は、入試センターの共通テストだ。
一応、過去問や模試もやってみるが、古文・漢文の知識に抜けがある。漢文はともかく、古文はこの短期間では難しかった。
地歴公民も、情報の更新が不足している。まぁ、今年は試験の感覚を見るだけで、大学自体は受けないから準備不足でも仕方ない。
今にして思えば、新聞に出る問題を一日遅れで解いても良かったのかも知れないけど。いやいや、やはり本番のつもりで。
試験はセンターのときと同様、インターバルが無駄に長い。知った人が周囲りにいるでもなく、ぼんやり文庫本を読んで過ごす。それでも、私の髪色が珍しいのか、視線を感じる。
お手洗いが混んでいたので別の階に行くと、見知った制服。一学年上の女子生徒達だ。ということは、学ランの男子生徒も含めて、この階は私の『先輩』達が来ているのだろう。
私の姿を認めると、何やらヒソヒソと話し始める。これでリラックスできるなら良いけど。とにかく、準備がしっかり活きて、実力を十分発揮してくれれば、と思う。
私は黙礼して、元の階に戻った。
結果は……、まぁまぁ。
やっぱり、古文と地歴公民が良くなかったが、それでも『私』の現役時代よりは得点率が高い。特に理系科目と外国語は、何年も神子の指導をした蓄積が大きい。慶一さんもその結果に驚いている。
さて、月末は入社の挨拶だ。正直こっちの方が緊張する。




