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入社挨拶と保育園

 一月も終わりに近づく。入社挨拶だ。

 パンツスーツは退学したときに作ったものだから、胸がちょっとキツい。あのころはなんとかCだったけど、現在はEに近いD。

 優乃がもうすぐ卒乳なので、いずれもう少しサイズダウンするだろうけど。いや、してもらわないと困る。正直、不便だ。ブラウスも新調する必要があったし。




 入社の挨拶では、やはり好奇の視線を浴びる。

 披露宴に来ていたのは課長級以上と総務の一部女子職員だけだったから、この部屋で私を直接見たことがあるのは、製造部長以下、課長級の数人だけだ。


 製造部門ではあるが、案外、女性職員は多い。購買や資材、管理担当の女性数人。生産技術部門はCAD/CAMや設計もあるからか一番多い。設備課だけはお(つぼね)様が一人。


 簡単に自己紹介すると、男性職員は割と好意的だ。一方、女性職員の視線が……。まぁ、覚悟はしていたけどね。さすがに慶一さんの手前、表だって何かってことは無いと思いたい。




 私の席はお局様――山口さん――の斜向かい。

 今日は設備課長が出張しているので、先ずは主査の小島さんに挨拶する。そして、下座側から回って、山口さんにも挨拶する。


 この部屋では、課長級を除けば、彼女に頭が上がらない人の方が多いとのこと。当然、女子職員の頭も彼女が完全に押さえている。絶対に外しちゃいけない人だ。


「高橋 昌と申します。こんな形の入社は心苦しいのですけど、よろしくお願いします。」


「こちらこそ、よろしく。

 総務じゃなく、あえて生産部ってのは良いわね。春からはビシビシ行くわよ」


「お手柔らかに、よろしくお願いします」




 その日の挨拶はこれで終わり、席に端末を運び込んでもらう。台車を押してきたのは計算機課の兄ちゃん。コンピュータ関連の部署にいる割に、チャラい見た目だ。


 話が急だったせいか、端末の初期設定がまだらしい。インストールメディアもかなり古い。こんなので立ち上げたら、アップデート作業で一日終わりそうだ。

 最新イメージを共用PCでダウンロードし、USBメモリでインストールメディアを作る。OSを再インストールしつつ、メーカーのサイトからデバイスドライバをダウンロードする。


「へー、大したもんだね」


 計算機課の兄ちゃんが感心するが、知ってれば誰でも出来ることだ。


「この程度のことに、手を煩わせるのも悪いですから。

 これ、待ち時間の方が長いので、戻ってもらっても良いですよ。何かあったら内線で訊きますから」


「せっかく美人を見ながらサボれると思って来たのにな」


「あ、その発言、『セクハラ』って言われますよ」


「いやー、キツいな。

 じゃぁ僕は戻るから、何かあったら内線でヨロシク」


「とりあえず、ここで使うソフトだけ準備しといて下さい。

 むしろCDイメージの方が、マウントすればアクセスが速いので助かります。あとで取りに行きますね」




 インストールを終え、デバイスドライバもあたったら、アップデート作業。これが長いんだよね。


 何度かの再起動を経て、OSも最新状態になる。うーん、私用のPCよりMPUだけは世代が上だけど、メモリも少ないしGPUは内蔵だ。このスペックだと3DCADには不足だろう。練習ぐらいならいいけど、フィーチャーが増えたらキツそうだな。


 社内ネットワークの設定をしてもらい、定番のオフィスとメールソフト――これだけは汎用じゃなく社内専用――そして2Dと3DのCADをインストールしてもらう。

 あと、ワガママを言って、ATOKも入れてもらう。これは一部で一太郎が必要になるので、準備してあったライセンスの余りだ。でも、日本語はATOKが圧倒的に良い。


 逆に、3DCADは、ハイエンドの方はライセンスが余っておらず、ミッドレンジの方だ。まぁ、生産技術や設備で設計する程度のものならこれでも十分だし、そもそもこのマシンじゃソフトの性能を十分使えないだろう。

 CADは統一してくれた方が良いんだけど、客先と合わせる部分もあって複数だ。設計部門はハイエンド一本にしているそうだが、生技はいろいろだ。




 二月の半ば、保育園はあっさり決まった。

 在職証明の有無は大きい。

 まだ歩けない優乃を連れて保育所へ挨拶に行くと、やはりこの外見に驚かれる。

 そして、保育士さんの表現はどこでも似通うのだろうか、『お姫さま』と『天使』だ。残念ながら、慶一さんが『王子様』と呼ばれることは無いけどね。


 保育園から、入園前に準備する必要があるものの書類やリストを受け取ると……、袋やエプロンを大量に作る必要がある。小さいのはコップ袋から大きいのは布団(ふとん)袋まで。そしてお昼寝用のタオルケット。

 こんなの、作れないぞ。




「おー、昌クン、お正月ぶり」


 そう。お裁縫は紬ちゃんの出番だ。


「紬ちゃん、ヘルプ!」


 顛末を話すと、生地やボタンのお店へ一緒に行くところから付き合ってくれることに。持つべきものは友だちだ。その分、ランチは奮発する。光紀さんから教わったイタリアン。


 生地を大量に仕入れ、紬ちゃんからミシンの使い方を習う。

 これが案外面白い。いろんな縫い方や刺繍機能まである。これって、一種のNC加工みたいなものだから、データを自作できないものだろうか? 優乃が大きくなったら、いろんなキャラクターもののハンカチとか、ワンポイントの刺繍とか。喜びそうだ。

 紬ちゃんに訊いたら、一言「高いよ」と。帰宅して調べたら、確かに高い。しかも機能もよく分からないし、もう少し使いこなしてからだろうか。


 私もミシン、買おうかな? でも、使い切れなかったり、それこそ飽きたりしたらもったいない。かと言って、いずれは必要だろうし……。

 よし。機種の選定は紬ちゃんの意見を聞こう。予算が青天井とは言わないけど、二、三十万ぐらい使えたらということで。


 紬ちゃんの家に通うこと三日、なんとか完成。ちなみに、このとき作った型紙の図面はPDFにして保育所にデータを渡しておいた。この保育所にはA1サイズまでいけるプロッターがあるから、布団袋以外は、これで型紙を作れるだろう。


 でも、来年度は忙しくなるなぁ。子育て、会社で仕事、受験勉強、そして比売神子として後任の指導……。

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