32 通告
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「私としても御園さんお一人に対してこんな大勢でものを言うことはしたくないんですよ。ですから取りあえず一通り話が済むまで発言は控えてくださるとありがたいですが、皆さんよろしいですか?」
と浩志さんは他のみんなから了承を得て話を始めた。
「御園さんは今の現状についてどうお考えですか?」
「今さら私の意見など聞いてどうする、何もする気など無いんだろう」
「では、なぜあんな暴言を仰るのかお聞かせ願えますか?」
「私は暴言など吐いてない事実を指摘したまでだ」
「貴方の仰る事実とは何ですか?」
「あんた達は自分達以外の何万という人間を見捨てた人でなしで、その事を悔やみもせず笑って過ごしている薄情者だ。あんた達には人の心がないのか」
「亡くなられた方はお気の毒だと思いますし不幸な事だと思います。しかしその方達は私達が見捨てたんじゃありません、その方たちが選ばなかったんです」
浩志さんは御園父を見据えてキッパリと言い切った。
「『地球の神様が変わったので新しい神様が地球を作り替えるので7日の内にキャラクターメイキングを終えなさい』このメッセージは地球に住む人間全てが受け取ったと私は考えています。事実私もその夢を見ました。条件は同じだった筈です、違いますか?」
「あんなもの誰が本気で信じるというんだ! 下らない! それにもし本当ならニュースにでも何でもなってただろう!」
激昂する御園父に構わず浩志さんは淡々と話を続けていく。
「そうですね、私も最初は息子に言われるまで本気になんてしていませんでした。大半の方はそうだったと思います。いい年をして何子供の戯れ言のような事を言っているのかと息子の正気を疑いました」
浩志さんはその時の事を思い出したのか息子の徹さん(テッちゃん)を見て苦笑する。
「ですがね、ここ何年もまともに話をしていなかった息子が態々私の帰りを夜中まで待って妻と一緒に頼むから信じてくれと頭を下げられたら『キャラクターメイキング』というやつに付き合うぐらいはしましたよ。自分の子供ですから信じてなくとも信じてやる振りぐらいしなくてはね」
親父そんな事思ってたんだ酷ぇなと小さな呟きが聞こえた。
「そうしたら息子の言うように画面が出てくるじゃないですか、頭が混乱しましたよ。その晩は眠れませんでしたよ。次の日会社に行って恐る恐る『キャラクターメイキング』の話を若い部下にしてみました。殆どが私が惚けて認知症にでもなったのかという反応でしたよ。何人かに話をした翌日に上司から呼び出されましてね、良い心療内科を紹介すると言われてしばらく有給休暇を取ってみてはどうかと勧められました」
なに親父家にいると思ってたらそんな事になってたのかよとボソボソと話し声。
「アッという間に私は会社でボケ老人扱いですよ、笑うしかなかったですね。私が何もしなかったわけではないです。何もしなかったのは私を嗤った人達ですよね?」
「私はこんな事態になって思うんです。もし自分が神様だったら新しい世界を創るときに自分の意志を否定する人間を残すだろうかと、だからあの荒唐無稽な指示だったんじゃないか、下船するときに祝福というものを与えられました"信じる者は救われる"と言うものでした。私はそれでやはりあの指示は『救い上げるためのモノではなく振り落とす為』の指示だったんだと。私はゾッとしましたね」
「御園さん私達は今まさに試されているんだと私は考えてます。全く何も無い状態から如何に知恵を絞り仲間と協力して生きていけるか。ですから、貴方がこれからも和を乱し騒ぎ立てるなら排除しなければならなくなります」
「お、脅すのか」
「いいえ、脅しじゃありません。事実です。貴方の態度いかんではそうなりますよ、という現状です」
「私を殺すというのか!」
「まさか、そんな事をする必要などありません。置いていくだけです」
「人の弱味につけ込んで取り引きか」
「何か勘違いをなさっているようですね? 取り引きというものは互いに利益を得られるよう交渉することですよ。貴方は私達に対して差し出せる利益が何かあるのですか?」
「貴方が言うように私達はもう同じ人類ではないんでしょうね。亡くなった方や貴方に対して気の毒だという気持ちはありますが、仕方の無いことだと割りきってしまえる者になってしまった、寂しい事ですがね」
やるせなさげに首を振った浩志さんに御園父は言葉を発せられないのか唇を戦慄かせて浩志さんを睨み付けるだけだった。




