第五話 強さの意味
数日後 夜——
「二人は寝ていいよ!今日はあたしが見張りするから!」
夕食の最中、フェルレは突然言った。
「ダメじゃ。ワシがする。」
「何でー!?」
「フェルレ…お前にはまだ早いよ。」
アイザムは得意げな顔で言う。
「何言ってんの?兄さん…。この間の見張り…火を消さなかったって言って注意されてたじゃん。」
「……っ。ああ!でもちゃんと守ったぞ!それにアイツらはまだ諦めてなんかいないんだ。」
アイザムは闇のように暗い森の奥に視線を移す。
「アイザムの言う通り、フェルレ…お前はまだ幼い。アイザムは心配して言っておるのじゃ。二人は今日は寝なさい。」
「はーい。」
アイザムは空に向かい返すが、フェルレはそっぽを向く。
「あたしだって強くなったもん。」
「……。」
ブルクはフェルレを見つめ、大きく息を吐いた。
「寝る前に聞きなさい。二人とも……ワシらは家族。優しさの上に成り立っておる。この世界には、優しさに触れる事よりも残酷さを目の当たりにすることの方が多い。フェルレ。アイザム。お前達は強くなったと自覚しておるじゃろう?」
「「うん…。」」
「強さを何に使うかを考えてみなさい——」
数日後——
今日も生きるために森の中をひたすら歩く三人。
険しい山道に加え、ブルクの怪我が回復する五日間、降り続いた雨に足元は泥にまみれ、三人の足取りは重かった。
先頭を行くブルクは生い茂る木々の隙間から見えた曇天を見上げ、遅れを取る二人に振り返ると立ち止まった。
(先日はアイザムのおかげでなんとかなった……。じゃが——)
俯きながら歩く二人。
食料調達、稽古——獣。
そして小人族を根絶やそうと襲いかかる殺意の籠った剣。
依然として、領主の手の者がいつ襲ってくるかも分からない状況——。
二人の疲弊する姿を見てブルクは遂に声を上げる。
(稽古を積み重ねて二人は強くなった…。じゃが、二人はまだ子供——。)
ブルクは領主の手の届かない、コール大陸と地続きで繋がる、エルジオーネ大陸に渡ることを決意する。
「大陸を…渡ろう…。」
それから三人は山の上から見えた街道を目指した。
「大じいちゃん。大陸を渡るって?」
「うむ。この世界にはコール大陸、アンティカル大陸、アルゲン大陸、エルジオーネ大陸の四大陸がある。ワシらが今いるここはコール大陸。世界の中心、一番大きな大陸じゃ。」
二人は世界の広さに目を丸くした。
「アンティカル大陸へは海を渡らねば行けぬ。アルゲン大陸は年中雪に覆われ生活は難しい。」
「てことは…エルジオーネ大陸ってとこに行くのか?」
「そうじゃ。エルジオーネ大陸はコール大陸と地続きで繋がっておる。大陸には火山があるが離れればコール大陸とはあまり変わらん気候らしい。」
「「…らしい?」」
声を重ね、首を傾げる二人にブルクは微笑む。
「ワシはこの大陸を出たことはない。じゃが、それなりの知恵はある。これからも二人にはワシの知恵を教える。生きて行くためじゃ。」
ブルクは二人の頭を撫でながら言った。
「兄さん…!冒険だね!」
「そうだな!」
(冒険か…。)
身体を弾ませ笑顔になる二人の足取りは軽かった。
(この子達にとって新たな発見は心が踊る…。ワシはいつそれを忘れたんじゃろうな…。二人の為ならば何があろうと命を懸ける。それを今は全うしよう——。)
心の中で誓い、ふと視線を上げると、空を覆っていた雲は晴れだしていた。
「そろそろ街道じゃ…。二人とも…警戒して進むぞ。」
「ああ!」「うん!」
目の前に日差しが差す街道が見え、片手を剣に触れながら歩みを進める。
「きゃあああ…!」
突然前方から女性の悲鳴が上がる。
ブルクは即座に手を横に伸ばすと、二人は静止した。
先程までの笑顔は消え、息を殺し顔は強張る。
(盗賊か何かか…?)
ブルクは目を細め、悲鳴の発生源に目を凝らす。
(見えぬ…。二人を危険に晒すわけには……)
大きく息を吐く。
ブルクより背の小さいフェルレには見えていた。
(女の人が…襲われてる……。)
カチャ
わずかに聞こえた音。
ブルクは振り返る。
「大じいちゃん!兄さん!助けよう!」
フェルレは剣を抜いていた。
そして脚に力を溜め、重心が下がった。
「フェルレ…!待ちなさい——」
ブルクの横を風が通り抜ける。
「全く…!待て!!」
続けてフェルレを追うようにアイザムの姿はその場から瞬く間に消えた。
ブルクは一瞬、動けなかった。
だが、剣を抜きながら二人に向かい、森を抜けた。
キィィィン
石畳の街道に金属音が反射し、空へと広がる。
ブルクの視界に入ったのは、倒れた女性に襲いかかる男の武器を弾いたフェルレの姿だった。
「兄さん!今だよ!」
「ああ!」
突然現れた二人、そしてフェルレの一撃で男は武器を失い、抵抗する間もなくアイザムの飛び蹴りを腹に受け、地面に沈んだ。
ブルクは倒れた女性の元へ向かう。
「怪我は無いか!?」
「……。」
震えながら顔を上げる女性の頬には切り傷が刻まれていた。
ブルクは女性を抱え上げ、街道の隅へ移動する。
「よっしゃー。」「やったね!」
ブルクは二人の声に振り返ると、男はその場から消えていた。
街道の真ん中で二人はハイタッチを交わす。
ブルクには二人が輝いて見えた。
(ワシが教えたことではないか…。ワシはこの子達が危険に晒されるのを怖がっていた……。慙愧に堪えぬ——。)
ブルクはグッと目を閉じた。




