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第六話 闇夜に輝く願い

「…っ……っ…。」


「傷口を見せなさい。」


ブルクは俯きながら泣き続ける女性の頬に薬草を当て、背中を撫でる。


(若い……。成人…くらいか。)


「大じいちゃん…その人大丈夫?」


「薬草で何とか処置はする…。傷はそこまで深くない。それより先程の男は?」


「俺の蹴りを喰らって逃げていったよ。」


「そうか。二人ともよくやった。」


ブルクの賞賛に二人は笑顔で頷く。


「ここは少し危険じゃ。茂みで少し休もう。」


ブルクは女性に優しく声を掛けるが、女性は動こうとはしなかった。


「…くれればよかったのに……。」


「……?」


小さく呟く言葉にブルクは首を傾げる。


「何と?」


「いっそ…私も殺してくれればよかったのに…!」


女性の気迫に三人は思わず身を引いた。


涙ながらに叫び、その頬から零れ落ちた涙は地面に弾けた。


それでもブルクは女性を抱え、一行は茂みに移動する。


抵抗することもなく脱力した女性は生気を失った目をしていた。


———


時は経ち、陽が傾き始める。


「落ち着いたかのう。」


ブルクは女性の傍を離れなかった。


その間フェルレとアイザムは近くを流れる小川から食糧と水を汲んできていた。


「私の名はステラと言います。…助けて頂いたのに…すみませんでした。」


傷口は塞がり、落ち着きを取り戻した女性は三人に頭を下げた。


だが、再び顔を歪めると瞳には涙が溜まり始める。


三人は静かに頷き、女性をしっかりと見つめていた。


「エルジオーネ大陸を目指し、お母様と街道を歩いていました。突然、先程の男ともう一人の男に襲われたのです。私が男に襲われる数時間前のこと——お母様は私を庇い、目の前で殺されました。」


「「……。」」


フェルレとアイザムは言葉を失う。


「そう…じゃったか……。」


「遺体諸共私から奪いました。街道を走っていれば人が通るというお母様の言葉を信じ…私は逃げ続けました。そして——先程の男に追いつかれ死を覚悟したのです。そしたら貴方達が現れた…。生きる意味を失っていました…。でも……」


『ステラ…!生き延びて…生きていれば必ず幸せになれるわ…!』


「私は生きている。助けられ、貴方達の優しさに触れ、お母様の最後の言葉を思い出しました。生きていれば幸せになれる…。信じて生きていこうと思います。」


笑顔で話したその瞳から溜まっていた涙が頬を伝う。


ブルクはゆっくり頷く。


アイザムは静かに肩を上下に震わせ、フェルレは泣いていた。


「お姉ちゃん……!」


フェルレはステラの胸に飛び込む。


「……!?」


「殺してなんて言わないで……。」


ステラは優しくフェルレを抱きしめた。


「すまぬな。」


ブルクは顔を歪ませる。


「おい、離れろよ…!」


アイザムはステラに抱き着いたフェルレの服を引っ張る。


「いいんです。暖かい……。助けてくれてありがとう。」


ステラはフェルレの頭を撫でながら言った。


「して…この後どうするつもりじゃ?ワシらもエルジオーネ大陸を目指しておったのじゃが。」


ステラは一度俯き再び顔を上げる。


「エルジオーネ大陸に向かいます…。」


するとフェルレはブルクに振り返り、目を大きく開けた。


「大じいちゃん!お姉ちゃんと一緒に行こう!」


「……。」


ブルクはすぐに返さずアイザムを一瞥した。


(人間を憎んでいる顔ではない…。この子達に人間族とはどのような存在なのかを知るきっかけになる…。それに…人間を愛する——。フィアーバからの言葉…ワシは人間と過ごす事で何かが得られるかもしれぬ。)


「ねぇ!いいでしょう?お姉ちゃん一人じゃ…また襲われたら大変だよ?」


フェルレはブルクの顔を覗き込みながら言った。


「うむ。守りながら行こう——。」


その言葉に、ステラの表情は和らぎ深く頭を下げた。


「やったああ!」


フェルレは再びステラに抱きつく。


「まずは治療じゃな。たしか大陸の境界付近に古い薬師がいる療養施設があったはずじゃ。そろそろ陽が沈む…。野営して明日の朝出発じゃ。この辺りからは少し離れるぞ。先程の輩の仲間が来るかもしれぬ。」


それから一行はその場を後にした。



———

 


一行は洞穴を見つけ野営の準備を終えると、ブルクとアイザムは夕食を作っていた。


「じいさん…。」


「何じゃ?」


「初めて見たよ。あんな楽しそうにするフェルレの表情。」


アイザムは洞穴の外で空に向かい指を指すステラと、その傍で笑うフェルレを見つめる。


「ワシもじゃ。女性に会ったことはないからのう。お前は彼女をどう思っておるのじゃ?」


「…分からない。悪い人ではない…くらいかな。」


「そうか。」


(うむ…。初めはそれでよい……。)



——洞穴の外



「お姉ちゃんは何でステラって名前なの?」


「ふふっ。そうね。見てごらん?」


空に広がる数多の星々に指を指す。


「こんなに暗いのに輝いてる。それに…青、オレンジ、白——。色んな色をして光ってるでしょう?私はどんなに暗い闇でも色んな色で…色んな気持ちで輝いて欲しいっていう願いからステラっていう名前になったの。」


「素敵…。お姉ちゃんみたいに綺麗に光ってるね。」


「ふふっ…ありがとう。ホントに貴方達に出会えて良かったわ。これからよろしくねフェルレちゃん。」


「うん!あ…!」


「ん?」


肉の焼ける香ばしい匂いにフェルレは振り返ると、ブルクが手を振っていた。


「行こう!お姉ちゃん!」


「うん!」


そして手を繋ぎ二人は洞穴へと戻って行った。

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