第二話 守る使命
——五年後
「アイザム!フェルレの手を絶対離すで無いぞ!」
二人に背を向け剣を抜く。
「お、おう!行くぞ!フェルレ!」
「お、大じいちゃんは…?」
フェルレはアイザムと手を繋ぎ、走りながらブルクの背中を見つめる。
その瞳には溢れそうになる涙を溜めていた。
小さくなっていくブルクの背中。
剣を右手に持ち、左手を横に伸ばし、その先に見える鎧を纏う兵士達を通すまいとブルク立ちはだかっていた。
「すぐ戻るさ。フェルレ、急げ!」
「大じいちゃん……。」
フェルレは前に向き直る。
そして二人は森の奥へと姿を眩ませた。
あの日から昼夜問わず、三人に牙を剥く兵士達。
この日も朝から鈍く反射する剣が、三人に突き付けられていた。
ブルクはその度に二人を逃がし、兵士に立ち向かう。
「…ハァァッ!!」
キィィン…!!
ブルクは兵士の構える剣を弾き飛ばす。
「うっ…。命だけは…!!」
額を地面に付け、頭を守る兵士。
(無意識な防衛本能…。)
兵士はガタガタと震えていた。
「殺すことはせぬ…!じゃが——」
「えっ…?」
風を切る音が鳴り、兵士は顔を上げる。
「い…いなくなった…。」
兵士の目の前に立っていたブルクは消えた。
トンッ——
「うっ…。」
ブルクは兵士の背後に回り、急所を外し首筋へ手刀を打ち込んだ。
兵士は人形のようにその場に倒れる。
(今までは複数で襲ってきたが…姿を現したのはこやつだけ…。近くにいるはずじゃ…。アイザム…!フェルレ…!)
ブルクは剣を片手に、駆け足でその場を後にした——。
———森の奥
「み…見つけたぞ…!」
「フ…フ…フェルレ…!俺の…後ろに!」
アイザム達は兵士と対峙していた。
「うわぁぁあ!」
フェルレは大声で泣き叫ぶ。
———
(……!?フェルレの泣き声…!間に合え…!)
ブルクは泣き声の元へ走る速度を上げ向かう。
キィンキィン…
僅かに聞こえた金属同士がぶつかり弾ける音。
フェルレの声も徐々に鮮明に聞こえ始める。
(この茂みの先……!!)
ブルクは茂みに飛び込む。
「アイザム……!フェルレ……!」
「大…じいちゃぁぁん!!」
「……。」
茂みを抜け視界に入った光景——。
兵士は背を向けていたが動かなかった。
目を凝らすと背中から剣の切っ先が飛び出ていた。
アイザムはフェルレの前に立ち、震える両手で剣を握っていた。
そしてその後ろに縮こまるフェルレの姿。
繰り出した突き、剣の柄に向かい兵士の血が流れる。
そして——
兵士の身体が徐々に傾く。
ドサッ…
兵士は地面に倒れた。
ブルクは目を見開き固まった。
(経った数年じゃ…。まだ剣の基本だけ…実戦経験もないというのに、鎧を纏う兵士を…。)
ドスンと身体に衝撃が走る。
「大じいちゃぁあん!」
フェルレは駆け寄り、ブルクに抱きついた。
「…すまんのう…二人とも…。」
「じ、じいさん…。俺…俺やったぞ…。」
剣を握る手が激しく震える。
「俺…フェルレを…守っ——」
ドサッ…
アイザムは剣を落とし気を失ってしまった。
(極限状態じゃった…。)
ブルクはフェルレを抱き上げ、アイザムの元へ向かう。
「大じいちゃん…兄さん…死んじゃったの?」
「大丈夫じゃよ。ちゃんと生きておる。心配せんでいい。アイザムはフェルレを守ったんじゃ。」
(アイザム…よくやった。)
夕方頃——
「フェルレ……!!」
アイザムはフェルレの名を叫びながら上体を起こし、目覚める。
汗がドッと全身から溢れ、辺りを見回す。
(生きて…る…。良かった……。)
小さな焚き火の前に、ブルクに寄りかかるフェルレを見つけた。
「あ、兄さん…!!」
フェルレは起き上がったアイザムに気付き、駆け足で寄った。
「うう…。」
アイザムの目の前で立ち止まり、呻き声を上げる。
目には涙が溜まっていた。
「兄さぁぁん!」
アイザムの胸に飛び込み、顔を埋めると、大声で泣き叫んだ。
「痛いぞ……。」
アイザムは頬を伝う涙を優しく拭い、頭を撫でる。
「アイザム…。よくフェルレを守ってくれた。ありがとう。」
「あ、ああ。身体が…勝手に動いたんだ。頭の中でフェルレを守らなきゃいけないって思った。そしたら自然と剣を抜いていた。」
「うむ。」
アイザムは両手を開き、掌をみつめた。
「じいさんが剣を教えてくれなかったら…俺はフェルレを守ることが出来なかった…。」
フェルレは埋めていた顔を上げ、アイザムを見上げる。
「こんなに可愛い妹を、失うことになるなんて…死んだ方がマシさ…。じいさん。剣を教えてくれてありがとう。」
アイザムは微笑みながらブルクに顔を向ける。
(死を厭わない心。弱き者を守るという使命…。剣を学ぶことでちゃんと伝わっておる…。)
「よくやった…。」
ブルクはアイザムの頭を撫でた。
「子供扱い…するなよっ!」
ブルクの手を払おうとしたが、賞賛されたことに照れ、顔を下に向けた。
「兄さん…笑ってる……。」
とびきりの笑顔をしていた。
(そうだ…。俺は嬉しいんだ。)
「さぁ、夜ご飯にしようかのう。二人とも…おいで。」
「ああ!」「うん!」
三人は小さな焚き火の元へ向かう。
三人の影が炎に揺れ、それはまるで踊るように地面に映っていた。




