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第一話 夜明け

ラヴィエルを後にした三人。


腕の中で眠る玄孫に視線を落とす。


(この子の名は…フェルレ。そうしよう。)


ブルクはアイザムと手を繋ぎ、玄孫のフェルレを抱き、森の中を歩いていた。


故郷の村を決して振り返る事はしなかった。

 


視線の先には無数の光の筋が、木々の隙間から降りていた。


それはどこまでも続いていた。


三人は光の筋を潜りながら歩き続けた。


(じいさん…俺はあんたが憎い。母さんを殺したあんたが——。)


前を向くブルクの横顔を見上げアイザムは呟いた。

 


ブルクがアイザムの母親の首を刎ねた光景——。


(母ちゃんは…泣いていた…。他の小人族は涙を流していないのに…母ちゃんだけ…。)


「大陸を渡ろう…。お前達は強くならないと生きていけない。」


「……。」


アイザムはブルクに顔を向けることなく静かに頷いた。


(ああ。絶対強くなるさ。母ちゃんを殺した…あんたを超える為に。)


アイザムの瞳の奥に憎しみの炎が宿る。


そして光の筋を通る寸前——


アイザムの場所だけ、その光は消えた。



——小人族の村



火を放ち、小人族の死体に火が回るのを確かめた領主と兵士達は逃げるように村から離れていた。



村に雨が降り始める。


村の中心にはブルクが首を落とした小人族の死体が山積みにされていた。


服を燃やし肉を燃やし、やがて骨だけが残った時、雨により火は消えた。


村中に漂っていた死の臭いは風によって流された。


炭になった建物。


小人族が暮らしていた村はかつての光を失い、黒い村へと変貌した。


誰もいない。


笑い声もない。


ブルクが守ろうとした村には、もう何も残っていなかった。


だが、小人族の魂を、意志を——。


小人族の想いを託された、ブルクは歩き続ける。

 


ザッザッザッ


村に向け歩く一つの影。


門の前で立ち止まる。


(終わったのか……。)


山積みの骨、炭と化した家々を眺め、フィアーバは胸に手を当てた。


「ブルク…。今抱えている君の想いは、この世界を平和へと導くと信じる。次はいつ会えるか分からない。どうか…生き続けてくれ…。いつか…誰かがその想いを受け継ぐのかもしれないのだ…。」


そう言い残しフィアーバは村を後にした——。



——森の中



フェルレを抱えたブルク、アイザムは何時間も森を歩いていた。


赤子のフェルレはブルクの腕の中で寝ていた。


アイザムは息を荒らげ、歩く速度は落ちていた。


隣で並行して歩いていたブルクは、アイザムに速度を合わせていた。


「疲れたじゃろう。少し休もう。」


「……。」


顔を合わせず、アイザムは首を横に振った。


「お前はまだ子供じゃ……。さぁ。」


ブルクはアイザムの肩に手を伸ばす。


(うるせぇ……。)


パシンッ


その手は叩かれブルクは立ち止まる。


(今のは…何だ?アイザムの言葉を感じた…あれは…怒りだ…。)


「心を……読めたのか?」


初めて感じた感覚。


ブルクは確かめるように口を開く。


「うるせぇとは何だ…。」


次の瞬間——


アイザムはピクッと反応し立ち止まると振り返る。


「な、何で…分かった?」


(やはり……。この力は何なんだ…。)


「いや、何でもない。さあ、休むぞ…!」


アイザムは理解が追いつかず、口を開けたまま固まる。


アイザムの元に近寄ろうとした時——


ガサッ


アイザムの脇の茂みが大きく揺れ、獣が飛び出した。


ヒュン…ザシュッ——


アイザムに襲い掛かった獣の首が宙を舞う。


反応したブルクが剣を振るっていた。


(守られた……。)


「当たり前じゃ。お前はワシにとって守るべき者じゃ。ほら…注意力も薄れている。」


ブルクはアイザムの肩に手を置くと、アイザムは瞬きを何度もし、後退すると木の幹に重心を預け、地べたに座った。


「寝てていい。…うむ。この子にも食べ物が必要じゃな…。」


静かに眠るフェルレの顔を見つめ、ブルクは言う。


「ここで待っててくれるかのう。食糧を調達してくる。」


アイザムは守られた瞬間が頭から離れず、無意識に頷く。


そしてブルクはその場を後にした。


その姿が消えるまでアイザムはブルクの背中を見つめていた。


両手を広げ掌を見つめる。


一番高い位置に来た陽の光が真っ直ぐアイザムの掌を照らす。


(お、俺も強くなるんだ…。じいさんから…剣を学ぼう…。)


アイザムは照らされた手を握り、心の中で強く誓った。



森の奥——



「アイザムから感じたのは怒り…。最後に残された村人は…アイザムの母親、リーフ…。」


(アイザム……。——る。)


ブルクはリーフの最期を思い出す。


「ワシが…怒りの元凶か…。リーフからアイザムを託された。」


(そして——ワシは皆から託された…。全ての想いを背負って生きていくと決めたんじゃ。この命に懸けても…。)


ブルクは拳を握り前を向く。


「……はぁぁぁ…。」


「おや…起きたのか?」


ブルクの腕の中で眠っていたフェルレは大きく欠伸をすると目をパチリと開けた。


目が合い、ニコリと笑顔を向けると、瞳を細めフェルレは笑う。


「お前の事も…命を懸けて守っていくからのう。」


ザッ


ブルクは後方から聞こえた音に即座に振り返り、剣を構える。


「アイ……ザム。」


そこにはアイザムが立っていた。


(瞳の奥から…感じる。強くなりたいという意志が…。)


「じいさん…。俺に剣を教えてくれ……!!」

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