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青乃島のかぐや姫 (中編)

 肉屋の倅――《悪たれのコウジ》と魚屋の倅――《怠け者のタロウ》

 この二人は《かぐや姫》がこの町に来るまで、商店街の大人達の悩みの種だった。

 二〇歳になっても高校時代の不良仲間とつるんでは、バイクに酒に賭け麻雀と、落語の放蕩息子さながらに遊び呆けていたコウジ。遊んでいるだけならいいが、酔うと誰彼構わず喧嘩をふっかけるのが困りものだった。

 タロウはというと、悪い遊びや乱暴沙汰とは無縁だったが、彼もまた、高校を出てから長いことブラブラしていた。晴れの日は河原で一日釣り竿を垂らし、雨の日はゴロゴロ寝てばかり。おまけに、彼はコウジの二つ年上。二二歳だった。

 コウジは、反抗期の辞めどきを逃し続けているうちに、いつしか不良と呼ばれるようになり、

 ――俺はもっとカッコいい仕事がしたいんだよ。こんな店継ぐなんてごめんだね。

 高校を出てからは無頼漢気取りでいい気になっていた。舎弟が一人、二人と真っ当な道へと戻って行く中で、自分はいつまでお山の大将でいるつもりなのか。

 こんな生きかたうんざりだと思っていても、いまさら大学に行けるような頭などなく、自分みたいなチンピラを雇ってくれる会社だってないだろう。これまで散々迷惑をかけてきた両親や商店街のおっちゃんおばちゃんに素直に頭を下げられたら……。

 ――俺はずっと、魚屋の与太郎なのかな……。

 タロウは自分の将来になんの期待も持てずにいた。

 自分が大した人間じゃないことは自分が一番よく分かっている。なら、なにか頑張ったって意味ないじゃないか。いつかは頑張らなきゃいけないときが来るんだろうけど、それはいつなんだろうか。なにを、どう頑張ればいいんだろうか。

 なんとなく大人になれなかった二人にとって、商店街の《かぐや姫》ブームは、更生のきっかけとなった。皆が異様な熱気に浮かれている間なら、自分達が少し変わった行動をしたって誰も気にしないだろう。――たとえば、店の手伝いをしてみるとか。

「俺だって《かぐや姫》にカッコいいところ見せたいのさ」と、いくらでも口実はつけられる。美人の前で真面目に働いている姿を見せたい。男として自然な欲求じゃないか。

 コウジが長い髪を切りに床屋へ行くと、既にタロウがいた。彼も丁度髭を剃ってもらっているところだった。

 ――あんた、店の手伝いすんの?

 ――うん。魚釣りは飽きた。……コウジくんも?

 ――……坊主にすりゃ親父も話聞いてくれっかな?

 お互い家業を継ぐ決心がついたからといって、肉屋と魚屋の先祖代々から続く敵対関係まで引き継ぐ必要はなかったのだが、啀み合っている親達の目を盗んで酒を酌み交わすほどの間柄でもなかったので、「なら、日々の仕事に張り合いが出るように」と、彼らは商店街きってのライバルを演じるようになった。

 はじめは親の見様見真似だったが、タロウが血気盛んなコウジに迫力負けしないようにと、ひょろひょろの身体を鍛え始めたあたりから、彼らの「てやんでえ」「べらんめえ」は、だんだん板についてきた。身体を鍛えているうちに、タロウは男の自信を得たようだった。

 やがて二人の喧嘩は、演技ではなくなってきた。そして、いつしか二人とも、自分達に更生のきっかけをくれた《かぐや姫》を嫁さんにしたいと、本気で考えるようになってきた。

 ――さぁて《かぐや姫》はどっちとくっつくだろうね。

 青乃島のような娯楽のない土地では、若者の三角関係ほど見ていて楽しいものはない。コウジとタロウが目の前で求愛合戦を始めると、初心な《かぐや姫》は赤くなったり、(どうしよう……)とオロオロしていた。それでも、彼らといるとき、彼女は楽しそうだった。笑顔が多かった。

 毎日毎日飽きずに喧嘩しているコウジとタロウに、《かぐや姫》は一度、当時流行っていた人情コメディ映画のタイトルをあげて「お二人の関係って――と――みたいですね」と、言ったことがある。

 コウジとタクロウは赤くなった。なぜなら、彼らはまさに彼女があげた映画の登場人物を参考にして自分達のキャラをさらに練り込んでいたから。

 気持ちのいい三角関係は、たとえどんな結末になっていたとしても、ドロドロの恨み辛みが残ることはなかっただろう。顔を合わせるたびに憎まれ口を叩き合おうと、(こいつならあの子を幸せにするさ)と、お互い相手のことを信頼してはいたから。

 しかし、この人情コメディは、思ってもみない形で終わりを迎えた。

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