第8話:面倒な方向に進んでいます
「お初にお目にかかります、レイリス・モーレンスと申します。公爵殿や夫人がおっしゃられた通り、確かに私は、財政難だった伯爵家を立て直し、王都の荒くれ者たちを束ねあげました。ですが私が行った事は、ただの暇つぶし兼、自分の将来を考えての事なのです。公爵殿や夫人に嘘を付いてもきっと見破られてしまうので、正直に話します。
私は、屋敷でぐうたらするのが大好きなのです。美味しいものを食べて、寝たい時に寝てやりたい事をする。社交界も大嫌いで、極力出ない様にするため、病弱な女性を演じて参りました。それもこれも、自由に生きるためです。
ここまで申し上げれば、私が何が言いたいか、ご理解いただけたでしょう」
真っすぐ彼らを見つめ、ニヤリと笑った。きっと頭の良い彼らなら、全てを理解してくれただろう。要するに私は、面倒な公爵夫人にはなる気はない、そう伝えたのだ。
すると、何を思ったのか公爵も夫人も、声を上げて笑い出したのだ。何がそんなにおかしいのだろう。
「急に笑い出してすまない。君の事は本当に優秀だとは聞いていたが、まさかここまでとは」
「既に全てを理解している私たちに、下手な小細工は無意味と判断したとはいえ、ここまで正直に、それも物おじせずに話せるだなんて。優秀なだけでなく、度胸も備わっているのね。それに頭の回転も物凄く早いわ。私、増々気に入った」
「そうだな、兄上が彼女の存在に気が付いたら、“ぜひ息子の嫁に”なんて言いだしそうなくらい、優秀な女性だ。レイリス嬢、君の気持ちは分かったよ。でも、君は自分でも理解していると思うが、非常に優秀だ。きっと君の優秀っぷりを聞いたら、王太子殿下の婚約者に!なんて話にも発展するだろう」
「父上、誰がジョブレスなんかに、イリを渡すものか!僕が先にイリを見つけたんだ!」
ちょっと待って。この人たち、何を言っているの?私が王太子殿下の婚約者?冗談も休み休み言って欲しいものだわ。
「レイリス嬢、君はそれくらい優秀だという事だ。王妃になるくらいなら、公爵夫人になった方が、まだましだと思わないかい?」
確かに王妃なんてものにだけは、絶対になりたくはない。それならまだ、公爵夫人に…て、私は何を流されているのだろう。まんまと乗るところだったわ。
「サフィーロン公爵殿、その様なご冗談を。私はしがない伯爵令嬢です。その様は高貴なご身分の方と、関わる事すらありませんわ」
そう、私は伯爵令嬢なのだ。本来なら、サフィーロン公爵家ともかかわる事がなかった女。そんな私が、王太子殿下と関わる事なんて、絶対にないだろう。
「あら、レイリス嬢は知らないの?近々、10~18歳までの伯爵令嬢以上の婚約者のいない子は、王太子殿下の婚約者候補として、王宮に呼び出される事になっているのよ。もちろん、例外は許されないわ。たとえ病弱だったとしても、必ず登城しないといけない決まりになっているのよ」
何ですって?そんな話、聞いていないわ。
「確か3ヶ月後だったよね。当日登城できない場合は、後日登城するか、それでも登城しないと、確か屋敷に王太子殿下が足を運ぶことになっていたな。もちろん、徹底的に彼女たちの情報は調べ上げられるはずだ。我が公爵家でも掴めた情報を、兄上が掴んでいない訳がない。もしかしたら、既に兄上と義姉上が、君に目を付けているかもしれないね」
公爵が笑顔で恐ろしい事を呟いている。
「お妃候補選びが始まったら、我が家は手が出せなくなる。それに優秀なレイリス嬢の事だ。何が何でも逃げようとするだろうし、早めに手を打った方がいいだろう。既にモーレンス伯爵家には使いを出してあるし、さあ、行こうか」
「そうね、善は急げね。レイリス嬢、お家に帰りましょうか?アドレア、エスコートしてあげなさい」
「母上に言われなくても、分かっているよ。さあ、イリ…じゃなくてレイリス、一緒に帰ろう」
ちょっと待って、どうして私がこの人たちと一緒に、家に帰らないといけないの?そもそも、今日の主役でもあるこの男が我が家に来たら、誰が夜会を取り仕切るのよ。
と言いたいところだが、きっと既に手は打ってあるのだろう。この男はともかく、ご両親は恐ろしいほど優秀な様だ。私が変に心配する必要はない。
それにしても、面倒な事になったものだ。でも、公爵や夫人の話を聞いていると、もっと面倒な事が後々待ち受けている気もする。それにしてもさっきの公爵の話が本当だとしたら…




