第9話:恐ろしい人たちだわ
考えただけで、めまいがする。
「レイリス、どうしたのだい?フラフラとして。もしかして、体調が悪いのかい?」
「いえ…色々と考えたら、めまいがしまして」
「ジョブレスの婚約者選びの事かい?その件なら、気にしなくてもいいよ。すぐに僕と婚約を結んでしまえば、登城する必要はなくなるし。大丈夫だよ、公爵夫人と言っても、母上もあまり社交界には出ていないし。出たとしても、僕の隣でニコニコにしていればいいのだから。それに、公爵家ではぐうたらしていてもいいのだよ。伯爵家と同じように、過ごしてくれたらいいから」
私に頬ずりをしながら、笑顔で話しているこの男。伯爵家と同じように、ぐうたらしていればいい…本当かしら?天下の公爵家で、ぐうたら?信じられないわ。
私の個人財産は、それなりにあるし。いっその事、隣国に亡命するのもアリよね。確かマダガレア王国なら、この国と通貨は同じだし、あそこの言葉なら話すことが出来るわ。その隣のユリーズ王国も、通貨が同じだったわね。あそこの方が、物価が安いから過ごしやすいかもしれない。
ただ、治安が…て、治安なんて適当にたて直せば何とかなるだろう。でも、一か所に留まっていたら、見つかるかもしれない。通貨を換金しながら、色々な国を転々とするのもありかもしれない。
「レイリス嬢、もしかして今、亡命しようと考えていたのかな?君ならきっと、どの国に亡命しても、暮らしていけそうだね」
笑顔で恐ろしい事を呟くのは、サフィーロン公爵だ。何なの、この人、人の心が読めるの?恐ろしすぎるわ。
「父上、どうしてレイリスが亡命しないといけないのだい?レイリスは公爵家で暮せば何の問題もないのに」
「アドレアはそんな事も理解できないのかい?レイリス嬢はどうやら公爵夫人にも王妃にも興味がない様だ。それでも彼女は伯爵令嬢、無理やり結婚させられるくらいなら、自由を求めて亡命をしようと考えても不思議ではないし、それが実行できるくらいの実力を持っているのだよ。簡単な話、我々の権力をもってしても、レイリス嬢が自ら結婚の望まない限り、逃げられてしまう可能性が高いという訳だ。そうだろう?レイリス嬢」
だから、この人はどうして私の考えていることが分かるの?あり得ないわ。
「レイリス嬢、私はこれでも王弟でね。兄にもしもの事があった時に備え、ありとあらゆる知識を叩き込まれてきたのだよ。それこそ、ありとあらゆることをね。息子にも私と同じように育ってほしかったのだが…」
ハァっとため息をついているサフィーロン公爵。正直私は、この人がどのように生きて来たかなんて、全く興味がない。ただ、一筋縄ではいかない人と言う事だけは分かった。
「サフィーロン公爵殿、あなた様がおっしゃられる通り、私は自分の意思で生きていきますわ。たとえ伯爵家が潰されたとしても」
にっこりと笑顔で答えた。だからこれ以上、私には関わらないでほしい。王族だろうが公爵家だろうが、私の自由を奪う者は誰であろうと許さない。というよりも、何が何でも逃げてやるわ。
真っすぐサフィーロン公爵を見つめた。すると、クスリと笑った公爵。そして
「想像以上の女性だね。君の気持ちは分かったよ。それじゃあ、伯爵家に向かおうか」
にっこり笑ったサフィーロン公爵が、ふざけた事を抜かしている。この人は、私の言った意味が分からなかったの?そう叫ぼうとしたのだが
「さすが僕のレイリスだ。さあ、君の家に行こうか」
何を思ったのか、私の腕を掴んで歩き出したレア。昔はひ弱だったのに、いつの間にこんなに力が強くなったのかしら。振り払おうとしても動かない。
悔しい!あんなひ弱だった男1人振り払えないだなんて!何たる屈辱。
「レイリス、どうしたのだい?体調が悪いのかい?可哀そうに」
「いいえ、何でもありませんわ。さあ、参りましょう」
私は別に、この男より力が弱い訳ではないのよ。そうよ、気を使ってあげているだけ。そうよ、そうだわ。そう自分に言い聞かせたのだった。




