聖女に嵌められてトイレに王女と二人だけで閉じ込められてしまいました
アンジェを赤竜から護ってから、アンジェとやっと普通に話せるようになって、俺は少しほっとしていた。
でも、今まで避けられていたのが、今度はアンジェがやたら俺にべたべたと接触をしてくるようになったんだけど……親への反抗期が終わると次はベタベタ期になるのか?
俺自身60年間生きてきて、子育てなんてしたことはなかったし、唯一の例外がこのアンジェで、最初で最後の子育てになると思う。
この子育てが終わって、アンジェがエーベルのに元に嫁いだら俺は何をすればいいんだろう?
今まではしゃにむにアンジェを護ってここまできたけれど、アンジェが嫁げばやることがなくなって、心にぽかんと空白が生まれるような気もした。
いや、まだその事を考えるのは早い。
というか、ゲームの最大の山場のサマーパーティーはテストが終わってすぐだ。
そもそもエーベルからまだ婚約者のアンジェをエスコートしたいという連絡も無いんだが……
どうするつもりなんだろう、エーベルは?
まあ、こちらはアンジェの赤点回避の為にそれどころではないんだが、そろそろ連絡があってもしかるべきだ。
「ええええ! サマーパーティーはラフィーがエスコートしてくれないと嫌だ」
アンジェはエーベルにエスコートされる気は全くないみたいで、俺が相談したら一言で終わってしまった……
サマーパーティーの衣装については、アンジェは青のドレスに茶色のレースを何重にも施した豪華な衣装を注文していた。
俺の衣装は白の騎士服の盛装に青と金のラインの入った特注の服になってしまったんだけど、これでいいのか?
確かエーベルはバルトと同じ銀髪に緑眼だったから、銀色のドレスに緑のラインを入れた物が良いのではないかと俺が聞いたら、アンジェは無視してくれて、この衣装になったんだけど……
青いドレスは俺の髪の色だし茶色のレースは俺の目の色だ。
親の色を纏うというのもどうかとは思うんだが……
「今年は剣聖様の色が流行ってまして、このような色合いの物は3着目でございます」
セバスチャンが見つけてきたドレス工房のオーナーが言い出してくれたが、
「一番目立つ衣装にして下さい」
アンジェが何故か対抗心を燃やしてくれたんだけど……親の色に染めてどうするつもりだ?
俺はそう言いたかったが、セバスとカミラに首を振られて懸命にも黙っていた。
「ラフィーは誰にも渡さないんだから」
アンジェがブツブツいつていたが、男親はそろそろ娘から汚いとか、側に寄るなとか邪険にされるという話を前世では同僚達から散々聞いていたから、アンジェはちゃんと育ってくれたんだと俺は少し嬉しかった。
たまに、布団に忍び込んでくれるくらいだし……俺は嫌われてはいないはずだ。
最近はやたらと俺にキスするようになったんだけど、欧米では親子でキスするのが普通なのか?
俺にはよく判らなかった。
テストもあと一週間になって、俺の周りの者達、特に脳筋のヒルデやニコもなんとか必死だった。
今日も放課後に残って地理の出そうな模擬テストを作って解かせてみた。
採点してみると3人とも50点は取れていた。
なんとか赤点は回避出来そうだった。
そう言えば、最近は聖女のミーナも見かけなくなった。
なんでも、バルトが教会を脅したみたいで、聖女も必死に勉強しているみたいだった。
それで俺は安心しきっていた。
まさか、こんな時に悪巧みを聖女がする暇はないと思っていた。
「姫様は遅いな」
俺はトイレに行ったまま帰ってこないアンジェの事が気になった。
「見てきましょうか?」
ヒルデが立上がろうとした時だ。
「ラファエル様。アンジェリーナさんが入ったトイレの個室の鍵が壊れてしまって出られないみたいです」
そこに一人の女生徒が駆け込んできた。
見たことのない顔だなと思ったが、
「またやっかいごとか?」
俺は慌てて女子トイレに向かった。
その子に先導されて、女子トイレの前に行くと扉が開いていて、
「左から3っつめです」
その女生徒が教えてくれたので、俺は思わず女子トイレの中に入ってしまった。
アンジェの入った個室しか扉が閉まっていないのは見えたし、アンジェだけならば良いかと思ったのが間違いだった。
「アンジェ、大丈夫か?」
「ラフィー、鍵が開かないのよね」
冷静なアンジェの言葉にほっとした途端だ。
後ろの扉がバンと閉められた。
そして、明かりが消えた。
「「えっ?」」
俺達は戸惑った。
「明かりが消えたぞ?」
「きゃっ、真っ暗」
アンジェの悲鳴が聞こえた。
「少し待っていろよ」
俺はアンジェの個室の扉を握ると力任せに引っ張った。
ガシャン!
大きな音がして扉が吹っ飛んだ。
おそらく、俺が強引に扉を引っぺがしていた。
「大丈夫か、アンジェ?」
「どこ? ラフィー」
「ここだ」
俺が手探りでアンジェを探るとアンジェが手を差しのばしてきた。
「良かった。ラフィーだ」
アンジェがぎゅっと俺に抱きついてきた。
「もう大丈夫だ」
俺がアンジェを抱きしめ返すと
「うん」
アンジェの安心した声に、俺はアンジェの手を引いてそのまま元に戻ろうとした時だ。
「どうしたのです?」
「あっ、カンタローネ先生。誰かが個室に閉じ込められたみたいです」
「なんですって、すぐに開けなさい」
カンタローネの指示で、扉が開いて明かりが灯った。
カンタローネの目の前に抱き合っている俺とアンジェがいたのだった。
「まあ、老騎士と悪役令嬢がトイレで抱き合っているなんて」
「なんて破廉恥な事でしょう」
外には聖女のミーナとその取り巻きが声を上げてくれた。
あの俺を呼びに来た女子生徒は聖女の取り巻きだったようだ。
「ラファエルさんとアンジェリーナさん、これはどういう事なのですか?」
それを聞いてカンタローネがヒステリックに叫んでくれた。
俺はミーナ達に嵌められたのに気付いたのだった。




