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テスト勉強で忙しいところに皇帝までやってきました

「皇帝陛下の正式名は?」

「バルトロメウス・バイエルン」

「では皇太子殿下は」

「ブルクハルト・バイエルン」

 馬車の中で俺が出す問題にアンジェは次々に答えてくれた。


「では姫様の婚約者でその第一皇子は」

「余計な二つ名はいらないわよ。第一皇子はエーベルハルト・バイエルンよね」

「そう、正解です。凄いじゃないか、姫様」

 俺はアンジェを褒めた。


「ふんっ、こんなの常識でしょ」

 つんとしつつ、アンジェの目尻が下がった。

 機嫌が良くなった証拠だ。

 アンジェは判りやすい。


 赤点回避に向けて、アンジェが条件を出してから俄然やる気になってくれた。

 朝から夜寝るまで勉強し出してくれたのだ。

 俺に会うたびに問題を出してくれとせがんできて、今までなら考えられなかった。

 機嫌の良い時に、アンジェの苦手な所の問題を次々に出していく。


「その帝都の人口は」

「約100万人」

「帝都の一番の特産物は何」

「帝都は色々あるけれど、魔道具とか剣や鎧の加工品が一番の特産品じゃないの」

「そうだ。ついでに装飾品や衣装だな」

「そんなのあんまりいらないのにね」

 俺の言葉にアンジェがどうでも良いように答えてくれたが、普通は女の子なら、きれいな宝石のネックレスやペンダントをもらったら嬉しいと思う。俺が横にいたからかアンジェは剣や防具をもらって喜ぶ変わった姫様になっていた。

 絶対にこれは良くない。

 きれいな装飾品をもっとアンジェにプレゼントするようにエーベルに進言しようと俺は思った。



 そのエーベルだが、ダンジョン探索以降に会うことはなかった。

 まあ、アンジェに酷い事を言っていくミーナも出て来ていないので良いことなのだが、全く出てこないのも不安になる。

 また、碌でもないことを企んでいるのではないだろうな?


 それに、この前のダンジョン探索では、何故かダンジョン内でエーベルやミーナが魔物に襲われることはなかった。イベントが起こらなかったのだ。


 まあそれ以上の事件で一年生がゴブリンの大軍に襲われて、果ては赤竜がアンジェを襲ったのだ。

 それ以上問題が起こっても困るのだが、なんかゲームの流れが完全にゲームの進行から外れているような気はした。




 何しろアンジェは全くエーベルの方を見ていないのだから……。

 それも良くないと思うのだが……サマーパーティーはテストのすぐ後だ。

 サマーパーティーでアンジェは断罪されるのか?

 全く先が読めなかった。



「まあ、なんですの? 平民の皆さんは勉強なんてして? 明日は雪でも降ってくるのかしら」

 学食で食事の後に勉強している俺達の所に、エーベルの腕に胸を押しつけてミーナが現れてくれた。

 せっかくしばらく出てこなくて静かだったのに……


「まあ、聖女様は余裕ですのね。勉強しなくても赤点取らない自信がおありなの?」

 アンジェが、言い返していた。


「当たり前でしょう。私は聖女なのよ。勉強なんてせずとも満点近い点数が取れるわよ」

 ミーナは胸を張って宣言してくれた。


「じゃあ、現皇帝陛下のお名前は?」

「そんなのブルクハルト・バイエルン様に決まっているわ」

「おい、ミーナ。ブルクハルトは父上の名前だ」

 自信を持って言い切ったミーナにエーベルが注意した。


「えっ、エーベル様のお父上だから合っているでしょ?」

「何言っているのよ。今の皇帝陛下はその皇太子殿下のお父上のバルトロメウス様よ」

「えっ、まだ譲位していらっしゃらなかったの」

 キョトンとしてミーナが言ってくれたが、そう言えばゲームではバルトは既に譲位していたんだった。


「おい、そこのガキ、俺を勝手に譲位させるな」

 そのミーナに後ろから罵声がした。

「誰がガキよ!」

 ミーナが後ろを振り返って文句を言うが、

「勝手に俺を譲位させた貴様が悪かろう」

 そこには怒ったバルトが立っていたのだ。


「これは皇帝陛下」

 エーベル始め慌てて一同は跪いた。

 食堂で食べていた皆も慌てて跪く。


「いや、食事中の者はそのままで良い。単に視察に来ただけだ」

 バルトが言い出してくれた。

「だそうだ。皆はバルトの事は無視して勉強した方が良いぞ。聖女みたいに夏休み中補講を受けたくなければな」 

 俺はヒルデ達に言ってやった。


「な、なんですって。そこの老騎士風情が! 私は赤点なんて取らないわよ」

「今の皇帝の名前を間違えた時点で赤点だろう。なあ、バルト」

 俺が同意を求めると


「そうだ。当然だな。教会の奴らどんな教育をしているのだ。

 大司教にしても『さっさと後進に譲られたどうですか』

 とこの前も言ってくれたからな。教会には、はっきりと釘を刺しておかねばなるまい」

 バルトは一人でブツブツ文句を言いだしていた。


「たまたま間違えただけなのに」

「ミーナ、ここは我慢しろ」

 エーベルがミーナがこれ以上余計な事を言わないように注意していた。


「で、ラフィー、貴様は何故俺を無視する」

むっとした声でバルトが言いだしてくれた。


「学生の本分は勉強することだからな。勉強していて文句を言われるとは思っていなかったぞ」

 俺は勉強しながら反論した。


「それはそうかもしれんが、俺も忙しいのだ」

「なら来なければ良かろう」

「と言うか、貴様には何回か皇宮から呼び出しをかけていただろう」

「夏休みに伺うと返事をしただろうが」

「それはそうだが、貴様はこの前も大災害の赤竜を討伐してくれたであろう。貴様は黒龍、青竜という3大竜全てを討伐してくれたからな。今度こそドラゴンスレーヤーの称号を受けてもらうぞ」

「おおおお」

「さすが剣聖ラフイー様」

「凄いです」

クラスの内外から賞賛されたのだが……


「別にそのような称号はどうでも良いのだが」

 俺は手を休めてバルトを見た。


「いや、そこは受け取ってもらわねば困るのです。普通は一個騎士団全員で当たっても勝てるかどうかの大厄災なのです。それを倒して頂いた剣聖様におかれても表彰したいと陛下の強いご威光で」

 横で騎士団長がバルトの代わりに話してくれた。

「しかし、バルトからは既に子爵位も頂いているしこれ以上のものは」

「何を言う。子爵位などでは済まんわ。今度は是非とも伯爵位を受け取っていただかないと…………」


 結局俺は夏休みに皇宮にいくからその時にまた話し合うという事で決着はついた。

 出来たら爵位など邪魔なものだからできる限り欲しくはなかった。

 今はアンジェ達に勉強させるので忙しいのだ。


 バルトはそのまま居座りたそうにしていたが、飛んで来た宰相に連れられて皇宮に帰ってくれて俺はほっとした。


 でも、その俺をハンカチを噛みしめて聖女のミーナが睨み付けていたなんて気にもしていなかったのだ。


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