王女が赤点回避できたら一つ言うことを何でも聞くと約束しました
馬車が学園に着いた時、俺の理性は飛ぶ寸前だった。
アンジェは俺に対して酷すぎる!
俺は年はいっていても男だ!
時間はまだ大丈夫な時間だ。
いつもより少し遅いだけ……
アンジェを普通に馬車の外に下ろそうとしたが、
「やだ!」
アンジェは首を振ってくれたのでそのまま抱き上げて降り立つ。
アンジェは俺にぎゅっと抱きついてくるが……もうやめてほしい。
俺の理性も限界だ。
これは少し話して聞かせる必要がある。
今度少し時間を持とうと俺は決意した。
でも、今日は何故か周りを歩く生徒の数も少なかった。
「姫様、少し人が少なくないですか?」
「変ね?」
俺にとってはアンジェを抱き上げているのでギャラリーは少ない方が良いのだが、あまり少ないととても気になった。
でも、時間はいつもとそんなに変わっていないはずだ。
何故こんなに少ないんだろう?
そのままあまり誰にも会わずに教室に着いた。
そして、外から教室の中を見て俺は目が点になった。
今まで見たこともない光景が俺の前で繰り広げらていたのだ。
なんと、皆教科書を広げて勉強している!
「痛い!」
俺は驚きのあまりアンジェを抱き上げたまま入ろうとしてアンジェのおでこが入り口の桟にぶつかってしまった。
慌てて俺はおでこを押えて恨めしそうな顔をしたアンジェを下ろした。
「ど、どうしたの、皆?」
アンジェがおでこを押えて聞くと、
「そんなのテスト前だからに決まっているでしょう」
ヒルデが馬鹿にしたように口を開いてくれた。
「アンジェも頑張って勉強しないと知らないわよ」
アンジェの前のイレーネが説明してくれた。
なんでも、平均点の半分の赤点を取れば、夏休みの間中補習があるそうだった。
Eクラスの面々はいつも半数くらいが補習になるらしい。
数学地理歴史が苦手なアンジェは十分に補習の可能性があった。
「試験なんてあるのね」
アンジェは少し青くなっている。
「夏休み中勉強なんてやってられないわよ」
ヒルデは夏休みは家族で避暑地に遊びに行くらしい。
「私も赤点なんて取ったら領地に帰れなくなりますから」
主のクラーラは成績もトップクラスで問題ないが、自分は可能性があるそうだ。
「まあ、平均点の半分以上の成績を取れば良いんだろう?」
俺は前世高校でも赤点は取ったことがなかった。
それくらいならば余裕だろうと俺は思っていた。
「何言っているんです。ラフィー様。この学園は帝国の中でも天才が集まっているんですよ。
下手したら皆80点以上の点数を取るんです。その平均点を下げているのがこのE組です。
一番賢いのはCクラスです、ここは平民の天才を揃えていますから平均は80を越えるはずです。継いでAクラスとDクラス。その少し下にBクラスがいて、圧倒的に低いのがEクラスです」
イレーネが言うには上位4クラスの平均点が80点くらいでEクラスの平均点が40点だそうだ。それで計算すると想定平均点が72点。赤点はその半分の36点だ。
「それならなんとかなるだろう」
俺が言うと
「絶対に無理です」
イレーネに一瞬で否定されたんだけど……
いやあ、半分くらいの点数は取れるはずだ。
と思ったのが間違いだった。
イレーネが過去問を手に入れてくれたので、昼休みに早めにご飯を食べて、試しに苦手そうな数学をやってみた。まあ簡単な四則演算に旅人算とか分数の問題が出て来た。
小学校レベルだ。楽勝だろう。
俺は8割の点数を叩き出していた。
「楽勝だろう」
「本当に」
アンジェも言ってくれたので、ほっとして採点すると
アンジェの点数は見れたものではなかった。
「アンジェ、なんだ、この計算は」
俺は頭を抱えたくなった。
三桁の足し算もケアレスミスで計算間違いが連続していた。
点数は20点だった。
「ええええ! だって数学なんて適当で良いって言ったのラフィーじゃない」
アンジェに言われて俺は頭を抱えた。
そうだ。王女なんて計算は簡単な計算が出来れば問題ないと言っていたのだ。
完全に失敗した。
学園のこの計算くらい簡単にできないでどうする。
ヒルデが30点。ニコに至っては15点。イレーネでも40点だった。
下手したら赤点だ。
最低の赤点回避は50点だ。100点以上の平均点はないから。まあ、40点取れればおそらく赤点回避できる。
俺は過去10年分のテスト問題をイレーネ達に頼んで集めてもらってそれを分析することにした。
そして、なんとか50点取れるようにするために、絞ることにしたのだ。
数学は計算ミスが目立ったので、取りあえず、100ます問題を作って足し算と引き算それとかけ算を必死に練習させることにした。
計算だけで50点の問題があるのだ。全問正解すればなんとかなるだろう。
次いで地理と歴史だ。
地理は皇帝直轄地と公爵家がメインだった。
これはアンジェには必要なことだ。徹底的に覚えさせることにした。
歴史も大切だ。今回のテストは帝国の初代皇帝とその周りの臣の事が中心だ。これも覚えさせるしかなかった。
夏休みはせっかくだから、帝国内を色々見て回りたかった。
というか、未来の皇后のアンジェのためにも、各地の領主とかにも挨拶をした方が良いだろう。
20年前とは言えども、俺は帝国内を魔王軍との戦いで帝国内を旅して回ったのだ。まだグスタフのような知り合いも生き残っていることも多いはずだ。その者達をアンジェに引き合わせしておきたかった。その下の世代の者達も。
そのためにも夏休みにアンジェが補講を受けるのはまずかった。
「アンジェ、テストが終わるまでは俺はアンジェを抱っこはしない」
「えっ、そんな」
俺の宣言にアンジェが唖然としてくれるんだが、もういい大人なんだから抱かずとも良いだろう?
「それと一科目でも赤点取ったら夏休みの間も一切抱いたりしない」
「ええええ! そんな!」
アンジェは涙目になっていた。
いや、そこはそれっくらいなんて事無いと反応してくれないと困るだろう。
「簡単なことだ。全科目赤点を取らなければ良いのだから」
俺はニコリと笑って言ってやった。
「判ったわ。全力で勉強する」
青い顔をしてアンジェは頷いてくれた。
「でも、その代わり、全科目赤点回避できたら私の言うことを一つ聞いてよ」
アンジェが条件を出してきた。
「判った。良いぞ。一つくらい。何でも言うことを聞いてやる」
俺はアンジェに頷いたのだ。
どこかのお店に連れて行けとか、ダンジョン探検に付き合えとかそういうお願いだと俺は簡単に思った。
でも、テストの後にアンジェのお願いを聞いた俺は、完全に固まってしまうなんて想像だにしていなかった。




