65.悪役令嬢視点 剣聖を雷撃で意識不明の重体にしてしまって、涙に暮れました
「ギャーーーー!」
私はまさか私の雷撃をもろにラフィーが受けるなんて思っていなかったのだ。
ラフィーが他の女達にちやほやされているのをみて、つい怒りに任せて結構強い雷撃を放ってしまった。
ラフィの剣術なら剣で反射させることも出来たはずだ。
でも、ラフィーは私の雷撃を避けようと地べたに伏せてくれた。
避けるくらいで私の雷撃から逃れられる訳はないのに!
地面でマクロになってラフィーがピクピク倒れていた。
私は最初は冗談だと思っていたのよ。
ラフィーが私の雷撃なんかで倒れる訳はないと……
すぐに起き上がると思っていたのよ。
でも、ラフィーはピクピク震えているだけなんだけど、
「キャーーーー」
「ラフィー様。大丈夫なの?」
女達が騒ぎ出したけれど、私はそれどころではなかった。
「ラフィー!」
私は慌てて駆け寄ったのだ。
「ラフィー、しっかりしてよ!」
私は慌ててラフィーを揺さぶったが、ラフィーはびくともしなかった。
私の脳裏には、この帝国に来る前にカスパルにボコボコにされたラフィーの姿が蘇った。
その時も立上がらないラフィーを見て唖然とした記憶があった。
まさか、無敵のラフィーがあんな奴にやられるとは思ってもいなかったのよ。
「ふんっ、剣聖が聞いて呆れる」
でも、その時、無敵のラフィーはガスパーの捨て台詞に目を覚まして、カスパルの足を引っ張るという剣術勝負でそんな事をしても良いのかと甚だ気になった決め手で、カスパルを倒したんだけど……
この前、この国の騎士団長は私の全力の雷撃で倒したけれど、ラフィーがまさか私の雷撃で倒れるなんて予想だにしていなかった。私の中ではラフィーは延々に世界一の剣聖なのに!
と言うか、よく確認するとラフィーが息をしていないんだけど……
「ラフィー、いや、ラフィー、死んじゃ嫌!」
私がラフィーにしがみついて泣き叫んだ時だ。
「ちょっと、アンジェ、何泣き叫んでいるのよ。貴方泣き叫ぶ前に、ヒールが使えるでしょう。すぐに癒やし魔術をかけなさいよ」
飛んで来たイレーネに指摘されて私ははっとした。
「ヒール! 治って、ラフィー、ヒール! ヒールよ」
私の両手から金色の輝きでラフィーの全身が金色に光った。
「アンジェ、もう良いから!」
イレーネに肩を掴まれて私はほっとする。
ラフィーの右胸に耳を当てると何も聞こえなかった。
「ちょっと、イレーネ。ラフィーの心臓が動いていないわ」
私悲鳴を上げると
「そんな訳ないでしょ。心臓は左胸でしょ」
「えっ、そうだっけ」
慌てた私は左胸に耳を近付けるとドクンドクンと心臓が脈を打っている音が聞こえた。
「良かった!」
私はほっと一息ついた。
でも、ラフィーの体操服もボロボロだった。
「取りあえず、ラフィー様を保健室に運んだ方が良いんじゃなくて?」
「俺達が運ぶよ」
イレーネの言葉にオスカー達が申し出てくれたけれど、
「ううん、ラフィーを傷つけたのは私だから私が運ぶから大丈夫よ」
私はそう断ると、魔術で筋力強化してラフィーを持ち上げた。
「す、凄い」
「アンジエリーナさんって力持ちだったのですね」
クラーラ達が私をゴリラ女を見るような視線で見てくれたんだけど……
今はそれどころではなかった。
「ごめん、オスカー。私はラフィーを保健室に連れて行くから。後はお願いするわ」
「判りました。でも、一人で大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。この状態の私を襲ってくれれば雷撃で逆襲するから」
私は笑って訓練室を出た。その前についてきたそうなハンネローレ達を一瞥するやそのまま保健室に向かった。
ラフィーは子供の頃から私付きの騎士だった。世界最強騎士が私の護衛だと私は思っていた。
今でも私よりも大きいけれど、昔に比べると小さく感じた。まあ、その分私が大きくなったんだけど……
それに、カスパルにやられたことも、私に雷撃されたことでも判るように、ラフィーは少し弱くなったんだど思う。
まあ、もう60越えたんだからいつまでも現役は無理なんだ。
そろそろ引退して、結婚してもらって余生を送ってくれてもいいのかも……
それはラフィーと皇帝が話しているのを聞いた時からそう思っていた。
でも、ラフィーが私の隣にいない事なんて想像だにできない。
生まれた時からラフィーは私の横にいて王妃や妹の悪意から私を護ってくれていた。
そんな簡単にラフィーを手放すなんてできないんだけど……
でも、今回、私なんかの雷撃を受けて倒れたのも事実だ。
昔なら絶対にあり得ないことだった。
無敵の剣聖ラフィーが倒れるなんて……
でも、ラフィーが弱くなったなんて絶対に思いたくなかった。
「おおおお、これは剣聖様ではないですかどうされたのですか?」
保健室の校医が私に尋ねてきたので、私は事情を説明した。
「なるほど、猿も木から落ちると言いますからな。剣聖様もアンジエリーナさんの雷撃を受けそこなったとしても、そこまでお気にめさる必要はないでしょう」
校医の先生はそう言ってくれたけれど、気にしない訳にはいかなかいんだけど……
「それにアンジェリーナさんの雷撃を跳ね返すのは気が引けたのではありませんかな」
校医の先生はそう言って笑ってくれた。
確かにそうかもしれないけれど、私自身がラフィーを傷つけたというのが私には許せなかった。
「ごめんね、ラフィー!」
校医の先生がいなくなった後に私は涙に暮れたのだった。




