60.屋敷に辺境伯令嬢をにこやかに迎えてくれた王女は俺の足を思いっきり踏んでくれました
俺が全員のサインを終えたのは下校のチャイムがなった時だった。
俺が女生徒達に囲まれているのを見て、アンジェはまた怒ってくれたみたいだ。
俺を囲んだのは女生徒だけではなくて男子生徒もいたのに、怒るのはおかしいのではないかと少し思ったのは事実だ。
でも、アンジェは気付いた時にはいなかった。
代わりにアンジェの班の男達は皆サインをもらう奴らを整理するのを手伝ってくれた。
俺の班はもちろんの事、オスカーの班や、ニコの班、ヒルデの班も手伝ってくれて、俺は助かった。
助けてもらったら、何かお返しせねばなるまい。
俺がそう漏らすと、
「それならば、また、ラフィー様の家に行きたいです」
ハンネローレが言い出してくれた。
「うーん、俺の家に呼ぶのか」
別にそれ自体は問題ないが、何か今一つの気がした。
「俺は折角ラフィー様と同じクラスになったのだから、訓練つけてほしいです」
ニコが言い出した。
「そうですよね。ダンジョン探索も近いですから、対処法と言うか、少しでもなれておきたいです」
モーリッツが賛成してくれた。
慣れか、確かに慣れは必要かもしれない。
それにダンジョン探索が近いのは事実だ。訓練と言っても今から出きることなど限られている。そもそも剣も魔術も使えない者が大半だ。でも、多少、慣れることは出きるかもしれない。慣れていれば、いざという時に俺やアンジェの足手まといにならないかもしれないし、やらないよりはましだろう。
「ようし、じゃあ、明日から訓練するか!」
「はい」
「ありがとうございます」
俺の声にニコらは喜んでくれたが、
「ええええ! 訓練ですか?」
「そんな!」
ハンネローレ達は嫌そうな顔をした。
「何を言っている。これから生きていく上で、何があるかわからないんだ。いざというときの対処法を学んでおいて損はないと思うぞ」
俺がそう言うと、
「そうですよね。剣聖様に教えていただけたとなれば後々自慢できますし」
イレーネが賛成してくれた。
「それはそうですけど……」
「まあ、無理にとは言わないが」
「えっ、そんな……」
「判りました。やります。やらせて下さい」
ハンネローレ達も頷いてくれた。
俺達は明日から放課後に集まって、訓練することにしたのだ。
俺は皆と馬車止まりまで歩いて行ったが、俺の馬車は待っていなかった。
えっ?
そんな、怒り狂ったアンジェは俺を置いて帰ったのか?
せめて馬車止まりで昨日みたいに待っていると思ったのに、見捨てて帰るなんて……
俺はとてもショックを受けていた。
「まあ、ラフィー様、馬車はどうされましたの?」
何故かそこにいたクラーラに俺は声をかけられた。
何とクラーラは侍女のイレーネを待っていてくれたらしい。
なんて、配下思いの主人だ。俺は思わず我が主のアンジェと比べていた。
「いやあ、置いていかれたみたいで……」
俺は笑って誤魔化すしか出来なかった。
「まあ、なんて事なんでしょう。私なら絶対にお待ちしておりますのに、アンジェリーナ様は中々お厳しいお方なんですね」
クラーラの言葉は辛辣だった。
しかし、それを否定することも出来ずに俺は曖昧に笑うしか出来なかった。
「では、ラフィー様。お宅までお送りさせて頂きますわ」
「そうして頂いて宜しいのですか?」
俺は思わず聞いていた。
「私とラフィー様の間ではないですか。どうぞ、お気に召されずにお乗りください」
「ありがとうございます」
馬車のない俺は同乗させてもらうことにした。
馬車のなかで、クラーラは俺に対してハンニバル領の騎士団がいかに優秀か話してくれた。是非とも一度訓練をつけてほしいと言われたから、機会があればと答えておいた。
話しているうちに、馬車が俺の邸宅に着いた。
「これはこれは、ハンニバル辺境伯のご令嬢様。わざわざ我が主をお送りいただいてありがとうございます」
セバスチャンが、出てきて、挨拶してくれた。
「もし宜しければお茶でも如何ですか?」
セバスチャンの言葉に
「でも、遅いから良くないのではないですか?」
「いえいえ、折角お送りいただいたのです。宜しければ、夕食もご一緒いただければ幸いです」
セバスチャンはそう申し出てくれたんだけど、それは不味いのではないかと流石に俺は思った。
「王女殿下もいらっしゃいますから是非ともどうぞ」
セバスチャンはそう言ってクラーラを誘っていた。
「そうですか? そこまでおっしゃっていただけるなら、お邪魔しても宜しいですか?」
俺としてはここまで俺を送ってくれたのだ。
食事を提供するのはやぶさかではなかった。
俺は辺境伯令嬢とイレーネの食事の席を準備するようセバスチャンに指示すると共にアンジェを呼んできてくれるように指示した。
「クラーラ嬢とイレーネさん。今日は色々ご足労頂き有難うございました」
俺はこの館の主として辺境伯令嬢とその侍女でアンジェと同じ班になってくれたイレーネに感謝の意を表した。
「まあ、クセーラ様。わざわざラフィーを送っていただいてありがとうございます」
一階に降りてきたアンジェはとてもにこやかに二人に対応してくれた。
俺はそれを見てほっとした。
女に囲まれたのを見てアンジェはもっと怒っていると思ったのだ。
でも、それは俺の早とちりだった。
「今日は家に帰ってやることがございまして、ラフィーを置いてきてしまったのですが、丁度馬車を向かわせようとした時にお二人がラフィーをお送りいただいて本当に有難うございました」
俺の隣に座って、二人に如才ない話をしつつ
「本当にラフィーは女の人に人気があってその主の王女としても気の休まる時がございませんの」
そう二人に言いつつ、俺の足を思いっきり踏んでくれたのだ。
俺は思わず悲鳴を上げそうになったが、必死に我慢した。
アンジェが大人の対応なんてしてくれるわけはなかったのだった……




