59.聖女の悪巧みから王女を助けたら、俺の周りにサインをねだる生徒が殺到して、王女と仲直り出来ませんでした
アンジエリーナは男達に囲まれてカフェに歩いていた。それを遠くから唯一の女性のイリーナがついていくという感じだった。
おいおい、イリーナ、もっとアンジェに近付けよ!
俺は叫びたかった。
「さあ、アンジェリーナさん。どうぞ、こちらへ」
何故かそこにはオスカー達が先に来ていて、待っていた。
「おい、オスカー、お前は班が別だろう」
それに対して副班長のモーリッツが反論した。
「何を言うのだ。俺達は同じ一年E組ではないか」
俺はそのオスカーの言葉に思わず遠くから頷きそうになった。
それならば俺もアンジェの横に座れると思ったのだが、
「今回は班のメンバーと親しくなるというものだからな。遠慮してもらおうか」
モーリッツが余計な一言を言ってくれた。
なんて生意気な奴なんだ!
俺は少しむっとした。
「な、なんだと、貴様、オスカー様に逆らうのか?」
取り巻きの一人がいきり立っていいだしたが、
「ご免なさい。オスカーさん。今回は班の皆と親交を深める集まりだから」
「そうですか……」
アンジェに言われて悔しそうにオスカーは引き下がった。
「さあ、アンジェリーナさん、どうぞ」
モーリッツ達がアンジェを真ん中の席に案内した。
それを5人の男達が囲んで少し離れてイリーナともう一人の男が向かい合わせの席に着いてくれた。
おい、イリーナ。全然アンジェを守れていないではないか!
俺は怒鳴りそうになった。
「ラフイー様。こちらにどうぞ」
ハンネローレが俺達をアンジェから少し離れた席に案内してくれた。
「ラフィー様はコーヒーで宜しいですか?」
ハンネローレが尋ねてくれた。
「ああ、それで良い」
何でも良くて俺は適当に頷いていた。
「ラフイー様とご一緒出来て、これほど嬉しい事はありませんわ」
「本当に」
俺は女生徒達が俺を見て色々話してくれたが、俺はそれどころでなくて、よく聞いていなかった。
「アンジェリーナ様はイチゴパフェですか?」
「えっ、ああ、それでお願いします」
「じゃあ俺もイチゴパフェで」
「じゃあ俺も」
男達が次々にイチゴパフェを頼んでいた。
お前ら軟弱者が、そんな女の食べ物ではなくてコーヒーにしろよ。
俺はそう叫びたかった。
「ああああ! なんと悪役令嬢のアンジェリーナさんではありませんか!」
でも、そこに聖女のミーナが現れた。
「まあ、今日はあの老人はご一緒ではありませんの?」
誰が老人だ! 誰が!
俺は思わず叫びそうになった。
「ラフィーに用ならばあちらで女生徒達に囲まれているわ」
むっとしてアンジェが俺の方を顎でさしてくれた。
「まあ、アンジエリーナさんはあまりにも日頃の行いが悪いから、ついにあの老人にまで見捨てられたのね。それで今日はこんなむさ苦しい平民の男どもを侍らせていますの?」
呆れたようにミーナがいいだした。
男達はその言葉に唖然としていた。
おいおい、その聖女に言い返せよ!
俺は言いたかった。
「何をいっているのよ! ここは学園よ。学園にいる間は皆平等というのに、聖女ともあろうお方が人を差別されるというの?」
仕方なしにアンジェが言い返していた。
「私はあなたの事を考えて言ってあげたのよ、アンジェリーナさん!
貴方はフランク王国の王女殿下でしてよ。それも、エーベル様の婚約者ではありませんか? 他の男を侍らせるというのはどうなの?」
「そのエーベルにいつもしなだれかかっている貴方が言えるの?」
「そうだ。そうだ」
「淫乱聖女は黙っていろよな」
男達が暗示絵に続いてミーナに反論しだした。
「な、なんですって! 貴方達、平民の分際で聖女の私に逆らうって言うの?」
ピンク頭が大きな声を上げてくれた時だ。
「どうしたのだ?」
そこに側近達を従えたエーベルが現れた。
「エーベル様! 悪役令嬢のアンジェリーナが平民の男達を侍らせているから注意したら、アンジェリーナが平民の男達に命じて私に襲いかかろうとしてきたんです」
ミーナが鬼の首を取ったみたいにエーベルの腕に抱きついた。
ミーナの言葉に男達がぎょっとした。
「なんだと。貴様ら、この国の聖女に襲いかかろうとしたのか?」
きっとしてエーベルが男達を睨み付けた。
「いえ、そんな」
モーリッツ達は蒼白になっていた。
「良くそんな嘘がつけるわね。あなたこそ、婚約者の私の前で、私の婚約者に抱きつくのはさすがに止めてほしいんだけど」
「エーベル様。怖かったです」
アンジェの反論にミーナは無視して、更にエーベルに抱きついていた。
「アンジェリーナ! 貴様、ミーナが憎いからと言って男達を使って襲いかかろうとさせるなど言語道断だぞ」
エーベルがいきり立ってアンジェを睨んでくれた。
その言葉はサマーパーティーで断罪の時のエーベルの台詞だ。
俺はドキッとした。
エーベルの側近達も殺気を巡らせてアンジェの周りの周りの男達を睨み付けた。
平民の男子生徒達はもう、蒼白だった。
俺がさすがに、出て行こうとした時だ。
「聖女は嘘をついても良いのですか?」
なんと、副班長のモーリツがエーベル達に反抗してくれた。
「キャー、エーベル様。平民風情に嘘つき呼ばわりされましたわ」
「貴様。ミーナが嘘をついたというのか?」
エーベルが殺気だってモーリッツを見た。
「それは……」
モーリッツは真っ青になっていた。
おいおいそこで口ごもるなよ。
俺は叫びたかった。
「貴様。聖女様に嘘つき呼ばわりしてただで済むと思うなよ」
ヨーナス・ランツフートが剣の柄に手をかけて言いだした。
こいつは完全に脅迫しているし……皇子の側近が平民を脅迫してどうする。
俺は出ることにした。
「はい。そこの聖女様が嘘をつくのを見ました」
俺が大声で言い切った。
「き、貴様」
ヨーナスが俺を睨み付けたが、俺はびくともしなかった。
「剣聖ラファエル」
苦虫を噛み潰したような顔をエーベルはした。
「元々、周りの男達を平民呼ばわりして馬鹿にしていたのはそちらの聖女さんですよ」
俺は言い切った。
「それはアンジェリーナさんがエーベル様の婚約者なのに、男達を侍らせて喜んでいるから」
「私達は来るべきダンジヨン探索の班の人達とお茶をしていただけです。侍らせていた訳ではありません」
アンジェが反論した。
「そもそも婚約者のいる男に抱きついている聖女様は道徳上宜しくないのでは?」
俺はエーベルに言ってやった。
「何を言っているのよ。私とエーベル様は真実の愛で結ばれているのよ」
「笑止ですな。真実の愛など関係は無い。この婚約は我がフランク王国と帝国との間に結ばれた契約ですぞ。それを殿下は破られるというのか?」
俺はきっとしてエーベルを睨んだ。
「貴様。剣聖とはいえ、高々騎士ではないか? この国の皇太子の第一皇子殿下に逆らうのか?」
ヨーナスが言い出してくれたが、
「それを言うならばアンジェリーナ様はフランク王国の第一王女殿下だ。貴様の言葉はランツフート侯爵殿の意向か? なんならご本人に確認させてもらうが……」
先代のランツフート侯爵は侯爵領を魔王軍から守り切った時に、「今後侯爵家は剣聖様に忠誠を誓います」と涙ながらに言い切ってくれた本人だ。一代代替わりしただけでそれを忘れるのか?
俺は隠居に言いたかった。
「いや、それは……」
今度はヨーナズか青くなった。
「殿下もこれ以上アンジェリーナ様をないがしろにしてくれるのならば、お祖父様である皇帝陛下に申し上げねばなりません」
「なんだと、貴様一介の騎士の分際で皇帝陛下に意見するのか」
今度は確か宰相の息子のユリウスが息巻いたが、
「ユリウス、止めよ」
エーベルが止めていた。
「剣聖殿。この剣については祖父と相談の上、考えよう。それで良いな」
嫌そうにエーベルが言ってくれた。
「判りました」
俺が頷くとエーベルはさっさと歩き出した。
「ちょっとエーベル様!」
慌ててミーナがそれを追いかけた。
アンジェの周りの男達はエーベルが去ると腰砕けになっていた。
「ラファエル様。有難うございました」
モーリッツ達が俺に礼を言ってきた。
「まあ、仕方がないかもしれないが、反論するところははっきりしないととんだ冤罪をかけられるところだったぞ」
俺が言うと男達はうなだれていた。
「ラフイーありがとう」
アンジェが俺に向かって礼を言ってくれた。
「別に大したことはしていない」
俺はアンジェが俺に笑顔を向けてくれたことにほっとした時だ。
「ラフィー様、凄かったです!」
「さすがラフイー様!」
俺が同じ班の女達に囲まれた。
アンジェが少しむっとした顔をしてくれた。
その時だ。
「ラフィー様。さすがです」
「凄いです。それで、お約束のサイン下さい」
「ちょっと待った。俺が先ですよ」
「嫌俺だ嫌俺だ」
現れた生徒達が我先に俺の前に殺到したのだ。
俺はそう言えば朝授業に間に合うために、サインは放課後にすると約束をしたのを思い出した。
俺はたちまち生徒達に囲まれて、にっちもさっちもいかなくなった。
本来はその場でアンジェと仲直りしたかったのに……
サインをもらう集団を相手するために、俺は下校時間までサインさせられる羽目になったのだった。




