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54.王女を怒らせて頬を思いっきり張り飛ばされてしまいました

 皆のサインを終えた頃はもう外は真っ暗になっていた。


「遅くまで付き合ってもらって悪かったな」

 俺は五人の一年生の副委員長にお礼を言った。


 ハンネローレやクラーラを先頭に五人は皆を整列させて順番に並べてくれて、サイン終わった後に追加の希望を言う我が儘な奴らにはサインが終わると同時に外に追い出してくれたし、サイン用のペンや紙まで用意してくれたのだ。


「そのような、ラフィー様をお手伝いするのは当然ではありませんか!」

 一年B組のデリア副委員長のデリアが言えば、

「感謝のお言葉まで頂けるなんて」

「とても嬉しいです」

 クラーラとハンネローレが喜んでくれた。


「ラフィー様、もしよろしければ、この後、我が家の馬車でラフィー様のお宅までお送りします」 

「ちょっと、エルネスタ、何を抜け駆けしようとしているのよ」

「そうよ。お送りするなら同じクラスの私がお送りしますわ」

「何言っているのよ。国境から学園までご一緒した私、辺境伯家の馬車でお送りしますわ」

 クラーラ達が俺を誰が送るかで争いだしてくれたが、


「ああああ! 忘れていた!」

 俺を待っているであろうアンジェのことを、俺はすっかり忘れていたのを思い出していた。


 俺が慌てて馬車の所に行こうとしたら、

「お待ちください、ラフィー様」

「せめて馬車の前まで一緒に参りましょうよ」

「そうですわ」

 俺は出来たら走って行こうとしたが、今まで付き合わせていた手前彼女らを置いていくことも出来ずに、全員で馬車止まりまで歩いて行った。


「ラフィー様、今日はご一緒できて楽しかったです」

「本当に」

「嬉しかったです」

「また、明日」

「よろしくお願いします」

 女達に見送られて、俺は鼻の下を決して伸ばしていたのではない!

 でも、少しくらい眉は垂れていたかも……

 だって、今までの俺の60年の人生の中では女にもてたことなど無かったのだ。

 五人もの美女に囲まれたら、少しくらい喜んでも良いだろう。


 でも、良くなかったみたいだ……


 俺が自分の馬車のドアを開けるとそこには怒髪天のアンジェの姿があった。

 なんか眉も釣り上がっているし、気分的には髪の毛も逆立っていた。

 怒り狂った猫みたいだ。

 これはやばい奴だ。


「姫様。遅くなってごめん」

 俺が謝ると、

「ラフィー、私がずっと寂しくここで待っていたのに、あなたはそちらの女性の皆様方と楽しいことをしていたのね」

 そう冷たくアンジェは言うと、


 ガチャン!


 俺の目の前で馬車の扉がしまったんだけど……


「えっ、ちょっと姫様!」

「さっさと馬車を出して!」

「はい。姫様」

 御者までも俺を無視して馬車は無情に動き出したのだ。

 俺は唖然とした。



 呆然と馬車を見送る俺を見て、女達が騒ぎ出した。

「まあ、ラフィー様。馬車が無いのならば我が家の馬車でおおくりしますわ」

「何を言っているのよ。当然我が家の馬車でお送りいたしますわ」

「ラフィー様をお送りするのは当然クラスメートの私ですわ」

「何を言っているの。帝都までご一緒した我が家の馬車に決まっているじゃない」

「ラフィー様。我が家の馬車は揺れが殆ど無い最新の設備を搭載しているのです。是非とも我が家の馬車にお乗りください」

 残った五人の女達が今度は俺を送っていくと喧嘩しだしてくれた。

 最悪、歩いて行く必要は無いかと、俺が少し安心したら、


「「「キャー!」」」

 俺を取り合いしていた女達は悲鳴を上げて俺から離れた。


 どうした?


ヒヒーン!

 慌てて見ると、俺の目の前に先ほど俺を置いていった我が家の馬車の馬の顔があった。

 鼻息が俺にかかる。


 そして、扉が開く。


 そこには氷のような雰囲気を漂わせたアンジェが見えた。


「姫様」

「どうしたの、さっさと乗りなさいよ」

 アンジェの氷のように冷たい声が落ちてきた。

「はい!」

 俺はそう言って慌てて乗るしかなかった。


「ラフィー様!」

「「「また、明日」」」

 女達が一斉に手を振ってくれた。

 俺はそれに手を振ろうとして途中でやめた。


 怒り狂っているアンジェの前で手を振る勇気は俺には無かったのだ。


「姫様」

「ふんっ!」

 俺がアンジェに話しかけようとしたらアンジェは頭を振りかざして明後日の方を見てくれた。


「いやあ、委員会の皆が何故か俺のサインをほしがってくれてですね。その相手を今までしていたのです」

 俺は必死に言い訳した。


「ふうん。それで五人の女達に囲まれて鼻の下を伸ばしていたのね」

「いや、決してそのようなことは……」

「本当に最低。エーベルみたいね」

 俺は婚約者のエーベル並みに最低のランクに落ちてしまったらしい。


 いや、待ってほしい。婚約者を最低レベルで見るのは良くないだろう。


 と言うか、俺はエーベルみたいに女に胸を押しつけられて喜んでいないぞ!

 俺はそう思ったら、

「ハンネローレさんに大きな胸押しつけられて喜んでいたし……」

「いや、そんなことは……」

 無いと言おうとして教室の前で胸を押しつけられたことを思い出していた。


「いや、ハンネローレが俺の意思とは関係なしに大きな胸を押しつけてくれて」

 俺はそう言えばアンジェの前で胸の話は禁句だったと思わずアンジェの平たい胸を見てしまったのだ。

 絶対にしてはいけないことだった。

 俺は本当に馬鹿だった。



パシーン

 次の瞬間俺の頬に怒り狂ったアンジェの平手が炸裂して俺は馬車の壁に激突していたのだ。




目は口ほど物を言う

下手な視線に注意しましょう…………

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